"夢"を"志"に高める 子どもをはぐくむ、古くから海外に開かれていたまち
2010年09月07日公開
![寺田隆士 [長崎県教育長]](images/20100907_terada.jpg)
寺田隆士 [長崎県教育長]
〔てらだ・たかし〕
1947年、長崎県生まれ。東京大学文学部卒業。
長崎県立五島南、口加高等学校教諭を務め87年から県教育庁教職員課管理主事、同主任管理主事を経て92年、県立諫早高等学校教頭。94年から県教育庁学校教育課参事、同教務課企画広報班参事を歴任し97年、県立島原高等学校長。2001年、県教育センター所長、03年、県立長崎東高等学校長を経て08年より現職。
- *趣味/園芸、読書
- *座右の銘/「春風を以て人に接し、秋霜を以て己を肅(つつし)む」
長崎の明日を拓く、人・学校・地域づくり
昨年「長崎教育振興基本計画」を策定されたそうですね
これからの日本や長崎県を担う子どもたちの健全な育成を考えると、本県の教育委員会の目指す基本方針や取組を県民の皆さんにお知らせし、学校と家庭と地域が教育目標を共有し、県民を挙げて教育に取り組むことが必要だと思いました。そこで「長崎の明日を拓く人・学校・地域づくり」の旗印のもと、具体的なアクションプランとして策定したのが、この教育振興基本計画なのです。
このプランは、教育基本法第17条に基づいて初めて策定するもので、本県教育が目指す人間像を明示し、平成21年度から25年度までの5年間、総合的・計画的に推進していく施策を示しています。
"目指す人間像"とは?
本県は古くから海外との交流を深めて、先進的な社会を築いてきました。その先進性を教育にも取り入れ、近代日本社会の形成に功績を残した多くの人材を輩出しています。こうした教育力を現代に生かし、自らの人生と郷土・国家の未来を切り拓き、国際社会で活躍できる人材を育成することが重要な課題だと考えています。
そこで、次の4つを掲げ、これらを兼ね備えた人間を育てたいと考えています。
一、創造性に富み、自立した人間
二、いのちを重んじ、こころ豊かでたくましい人間
三、郷土及び国家を担う責任を自覚し、その形成と発展に主体的に参画する人間
四、我が国と郷土の伝統・文化や自然を誇りに思い、これからの国際社会を生きる人間
また、目指す人間像を実現するために、36項目の施策を立て、それぞれの項目について「現状と課題」や「主な取組」、「目標指針」などを細かく分析・整理しています。これが本県の特色と言えるでしょう。
「丸つけ先生」も活躍
学校・地域の連携に重点的に取り組まれているそうですね
学校・家庭・地域の連携のために、「学校支援会議」を学校区ごとに設置しています。これは、教職員・保護者・地域住民の代表者が集い、学校教育への支援や子どもの教育について協議し、そのことを通してそれぞれの責任や役割を自覚して、子どもの教育に協働して当たろうというものです。
そこで「学校支援会議」プロジェクトチームを立ち上げ、「ガイドブック」を作成して、「あいさつ」「読書・読み聞かせ」「学力向上」などの各地域での実践例を紹介しています。
あいさつ運動を展開する地域、「子宝見守り隊」が活躍する地域、「丸つけ先生」(保護者を中心としたボランティア)が活動する学校、退職教員などによる「サポートティーチャー」が授業にかかわる学校……と実に多彩な取組が行われています。ほかの地域や学校では、紹介された実践例を基に、より良い取組を検討することができ、大いに役に立っているようです。目下のところ、小中学校合わせて8割以上で趣旨に沿った活動が行われています。
反応はいかがですか
大きいですね。これは地域のコミュニティづくりにもつながる活動なので、まさに「教育はまちづくり」を実感しています。本県には地域教育力が根強く残っていることがわかりました。わが国がかつて持っていた地域の良さを再確認した思いです。「地域の核としての学校を大切にしたい」という皆さんの温かさを感じました。この取組を今後も大切にし強めていこうという声が挙がっています。県としても、今後も大いに力を入れていこうと思います。
あこがれを志にまで高める
「夢やあこがれを抱く長崎県の子ども育成事業」についてお聞かせください
平成19年度の本県の調査で、「どんな生き方をしたいですか」との質問に、中学生の39.1%、高校生の28%が「その日その日を楽しく生きる」と回答していました。これにはショックを受けましたね。そんな答えはわれわれ老人が言うものでしょう。
また、国際的な意識調査を見ても、アメリカやアジアの国々の子どもたちと比べて、日本の子どもは人生の目標を持って生活できていないようです。目標があれば、その実現に向けて努力もできますし、さまざまなことに意欲的になれるでしょう。
これは一例ですが、概していまの日本の若者には、問題点が3つあると思っています。「あこがれや高い志を持つ者が少ない」「品が良くない」「学ぶ意欲が低下している」。
私は、教育の本来の目的は「夢やあこがれ、志」を育てることだと考えています。「あこがれや志」が育つと、学習意欲も高まり、振る舞いとしての品性も身につくと思うのです。
そこで、「夢やあこがれを抱く子ども育成事業」に取り組んでいます。この取組では、小学校6年間の各教科・道徳・特別活動・総合的な学習の時間に、「人の思いにふれる」「人と交わる」「先人に学ぶ」「あこがれや志を表す」という4つのスタイルの学習を位置づけ、モデルカリキュラムとして紹介しています。これまでやってきた教育を右の4つの視点で整理し、自校のカリキュラムをつくり、子どもたちに「夢やあこがれ」を育てましょうということです。
たとえば「人の思いにふれる」というのは、地域で活躍する人を招いて話を聞いたり伝記を読んだりして、人の思いや生き方にふれる学習です。また「あこがれや志を表す」というのは、自らの夢や希望を発表したり絵や文章に表現したりして、自ら確認し、互いに尊重し合うことで、あこがれに現実感を持たせるわけです。
モデルカリキュラムでは、低学年では"あこがれの芽生え"中学年では"あこがれの自覚"高学年では"あこがれから志へ"というステップをそれぞれ設けています。現在、実践協力校3校で実践研究が続けられているところです。
本年度は、さらに中学校で「あこがれを志に高める」取組に着手します。
まずは知識・技能の定着を
学校づくりの施策に、教職員の資質向上や校務支援の推進が挙げられていますね。具体的にはどのようなものですか
教師の資質向上で最も大切なことは、当然のことながら、教科の指導力を高めることです。本県では「教えて考えさせる」授業を中心にすえた研修により、教師の教科指導力を高めようとしています。
これまではどちらかと言うと、子どもの興味・関心や、判断力・表現力を引き出す授業観に重きがおかれていたと思います。それはそれで大切なのですが、的確な判断・表現のためには、それに見合った知識・技能の習得が必要なのです。
知識や技能の定着がなければ、正しく判断したり豊かに表現したりすることはできません。知識や技能をしっかりと教えて、そのうえでそれらを活用・応用して、思考力・判断力・表現力を伸ばす授業を展開したいものです。
研修の方法としては、本県では「出前講座」という取組を行っています。教師研修の際に、教育センターの職員が学校へ出向いて、子どもたち相手に授業をやってみせるのです。これで「教えて考えさせる」授業を普及させています。これが長崎県の研修の特色と言えるでしょう。
また、校務支援では、事務の共同実施により、教員の校務負担の軽減を図っています。これは、各校の事務職員が一か所に集まり、共同で事務処理をする方法で、ミスを軽減し素早い処置ができると考えています。日本では学校事務職員の数が他国に比べて圧倒的に少ないと思います。事務職員を一人増やせば、教師の児童・生徒と向き合う時間は増えるはずです。少人数クラスの実現とともに、事務職員の定数改善をぜひ実施してほしいところです。
最後に恩師の思い出をお聞かせください
私は小学校3~6年の4年間、学級担任は同じ先生でした。その担任の先生は何でも知っていて、子ども心にも、自分も先生のような大人になりたいと考えていたものです。高学年になるとその先生は、クラスの子どもたちの良いところをそれぞれ認めて、「○○さんは掃除が一番うまい」「○○さんは一番の親孝行」「○○さんは走るのが一番速い」というように、それぞれの子どものいいところを学級の中で伝えてくださいました。私たちは、自然と互いに尊敬し合うようになりました。
また、人は生まれたからには自分の能力を出しきって、苦手なことにも努力しようという教えもいただきました。
よほど影響力が大きかったのでしょう。いつの間にか私も教師になりたいと思うようになりました。
高校時代の恩師の一言も大きかったと思います。1人の西郷隆盛(当時は坂本龍馬より西郷隆盛でした)になるよりは、10人の西郷隆盛をつくる仕事のほうが重要だと言うのです。恩師の教えやこうした言葉に導かれて、私も教師の道を歩むことになりました。
自らの来し方を思い起こせば、なおさら、子どもたちが夢やあこがれを持ち、志を抱くことの大切さ、必要さを感じます。周囲の大人は、教師も親も、子どもが夢やあこがれを抱くために、まず自らの夢やあこがれ、志を語りたいものです。
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