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中学校道徳

掲載日:平成25年5月31日

3年 心が揺さぶられる資料を見つけよう~資料開発とその活用法の工夫~

栃木県宇都宮市立宮の原中学校 秋山 哲

1 はじめに

 生徒の心を揺さぶる優れた資料を提供することは、道徳の時間を充実させるための大切な要素である。自作資料や素材を基に工夫した資料は、適時性や指導者の強い思いが反映され、通常の資料より大きな学習効果を上げることが期待される。私は、年間複数回の素材を基に工夫した資料による授業を実践することを目標としている。今回は、その中なの一つを紹介してみたい。

2 指導する価値とねらい

(1)主題名
思いやりの力 2-(2)
(2)ねらい
登場人物の思いを考えることを通して、思いやりの心が持つ力の大きさに気づかせ、互いにいたわり合い、励まし合いながら生活していこうとする態度を育てる。

3 資料について

(1)内容
東日本大震災で母や祖母を亡くした高校生の佐々木瑠璃さんが、がれきの中で鎮魂のためのトランペットを演奏した写真が新聞に掲載された。それがきっかけとなって、オーケストラ奏者の安藤さんをはじめ多くの人々の協力により、東京で復興支援コンサートのステージに立つことになった、という新聞記事。
(2)開発の経緯
4月12日の新聞に掲載された写真に、強く心を動かされた。資料化するための情報を探しているうちに続報が掲載され、めどが立った。日頃から、授業に適した材料を見つけようとする意識を持ち続けることが大切である。
(3)効果的な活用の方策
新聞記事は、事実を短い文章でわかりやすく伝える点が優れている。一方、登場人物の思いに共感するための情報が不足している。それを補うため、文章以外に写真と動画を提示することにした。

4 授業の実践

(1)導入
 
(トランペットを抱え涙ぐむ佐々木さんの写真を提示)
T
「ある人がこの写真を見て感じた言葉を想像してみよう。」
 

この写真から(   )音色が聞こえる。

S1
悲しい
S2
苦しい
S3
つらい
 
※ 誰もが他の人の身に起こったつらさを共感できることに気づかせる。
(2)展開
 
(新聞記事の資料を範読後)発問1
T
「安藤さんは、どのような思いで、出演を依頼したのだろう。」
S4
悲しみを紛らわせてほしい。
S5
つらい思いをしている人がいることを多くの人に知ってもらいたい。
 
※安藤さんが佐々木さんの悲しみに共感したことが出演のきっかけになったことに気づかせる。
 
(依頼された後、佐々木さんが迷いながらも出演依頼を受けたことをおさえる)
T
佐々木さんはどのような思いでコンサートに出演したのだろう。(中心発問)
S6
自分の悲しみを多くの人に伝えたい。
S7
天国のお母さんたちに、「自分は大丈夫だよ」と伝えたい。
S8
被災した人たちの悲しみや苦しみを多くの人にわかってもらいたい。
S9
自分が出演することで、悲しみ苦しんでいる被災者を励ましたい。
 
 
※佐々木さんが依頼を受けた気持ちの中にはさまざまな思いやりの心が含まれていたことに気づかせる。
 
(コンサートの動画を視聴する。その中の佐々木さんの言葉「わたしより大変な思いをしている人がいることを知ってもらいたい、という言葉に留意させたい。)
T
当日の観客は、どのような気持ちでコンサートに来たのだろう。
S10
被災された人に、何かできることはないかという気持ち。
S11
被災された人々の悲しみを分かち合いたいという気持ち。
 
※悲しい思いをしている人たちを助けたいという思いが、コンサートの成功につながったのだということに気づかせる。
(3)自分を振り返る
T
人の優しさに触れた経験を思い出してみよう。
S12
転校して一人ぼっちで寂しい思いをしていた時、最初に話しかけてくれた人がいた。とてもうれしかった。一人ではない、と安心できた。
S13
祖母が、地震の被災者のことが取り上げられているニュースを見て泣いていた。悲しみを分かち合っているんだな、と思い感動した。
S14
部活のキャプテンとして苦労しているとき、同じ学年の仲間が助けてくれた。気持ちがすごく楽になった。
S15
祖父が重い病気にかかっているので、励まそうとしたら、逆に励まされた。自分に心配をかけないようにしているんだな、と分かって涙が出た。

5 授業の考察

 最初に提示した写真は、生徒に強い印象を与え、授業に引き込まれていった。また、動画の中の佐々木さんが実際に語る言葉と、「故郷」の演奏を聴いて涙を流す生徒がたくさんいた。多様な資料提示の大切さを実感した。

 安藤さん、佐々木さん、コンサートの聴衆という三者の思いを考えさせることで、様々な形の「思いやり」があるということを感じ取らせることができた。そのことが、「振り返り」の場面での考えの深まりにつながったと思われる。

6 おわりに

 素材を基に工夫した資料を使うことで、「いつも同じ展開の退屈な授業」に陥りがちな道徳の時間に変化と刺激を与え、生徒が「道徳の時間が楽しみだ」という思いを持たせることができる。この授業後、資料を家に持ち帰り家族でもう一度読んで感動を分かち合った、という生徒もいた。

 また、資料を開発するという過程で、資料の中にある価値を見つける資料の分析力を高めることもできる。

 しかし、資料を開発するためには、多くの時間と労力が必要であることなど、困難が伴う。道徳教育推進教師がリーダーシップをとり、全校体制で研究組織を作り、共同で資料開発を行っていくことが大切である。

 魅力的な資料は、道徳教育を推進していくために欠くことのできない大切な要素である。今後さらに研究と実践を重ね、自作資料や素材を基に工夫した資料の開発に積極的に取り組んでいきたい。