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特別支援

掲載日:平成25年10月1日

〔連載〕
運動が苦手な子も,発達が気になる子も
「やったー!」を体感できる体育の授業のために④

運動会シーズンに不安が強くなる子どもの背景を考えよう

東京都立港特別支援学校主任教諭 川上康則

 「もうすぐ楽しい運動会!」
 学校便りや学年通信に、こんなタイトルが並ぶ季節になりました。確かに、多くの子どもは体育が大好きですし、運動会を楽しみにしています。しかし、誰もが楽しみにしているというわけではありません。運動会シーズンになると不安が極端に強くなる子どももいます。今回は、その背景を考えてみたいと思います。

 「運動会なんて嫌い!」こう話す子どもの背景には、身体を動かすこと自体への苦手意識もあれば、失敗への不安感もあります。また、運動会特有の嫌悪刺激があるという理由から運動会を楽しめない子どももいます。「ちょっと練習すればできるようになる」とか「ちょっと我慢すればいいだけの話なのでは?」というのは、気持ちに余裕がある側の論理であり、不安が強い状態の子にとっては「ちょっと」どころの話ではありません。

 運動会特有の嫌悪感の強い刺激の代表格といえば、ピストル音です。感覚の受け止めに鋭敏な子は、このピストル音が極端に苦手です。大人からすれば、運動会の雰囲気を出すための効果音的な役割なのかもしれませんが、そのようには受け入れられず、耳をふさいで動けなくなってしまうことがあります。このような状態を「聴覚防衛反応(または聴覚過敏)」と呼びます。

 聴覚防衛反応は、必要な音だけを拾い、そうでない音を聞き流すといった聴覚情報処理の能力に障害があり、日常で聞こえる音を全て拾ってしまうために嫌悪感を引き起こすのではないかといわれています。

防衛反応を助長する音の種類

(1)
破裂音:風船(音だけでなく風船を見るのも嫌ということも)、ピストル
(2)
風切り音:クーラーの吹き出し、換気扇、窓やドアの隙間風
(3)
大声:赤ちゃんの泣き声、他の子が大声で叱られている場面
(4)
高周波音:キーンという金属音
(5)
自然界にない音:黒板に爪を立ててひっかく         など

 運動会のシーズンは特に慎重な配慮が必要で、ピストルに対する不安から練習に参加できなかったり、ひどいときには学校に行かれなくなったりします。単に、音が苦手というだけでなく、結果的に、自律神経系の症状(動悸、発汗、過呼吸など)、精神症状(落ち着かない、拒否や逃避などの防衛的な反応が強く出るなど)、身体症状(体の震え、動けないなど)への影響が大きくなるということを理解しなければなりません。

 聴覚防衛反応を、段階的に軽減させていく方法はありますが、短期的な改善は難しいといわれます。その場しのぎということであれば、耳栓や「イヤーマフ」といった遮音器具を使います。しかしそれでも、運動会のピストル音は苦手だと話す子は少なくありません。運動会シーズンに、決まって情緒的な不安定さを見せる子がいたら、聴覚防衛反応が強いのかもしれないという理解が必要です。

 最も効果的な解決策は「ピストルを一切使わない」ということです。特別支援学校をはじめ、最近は小学校や中学校の運動会でも、「ピストル音が苦手な子どもが一人でもいれば使わないようにする」という対応をとる学校が増えてきていますから、校長先生や運動会の企画担当者と対応について検討するとよいでしょう。

 「繰り返し続ければ、そのうち慣れる」という発想をもたれる指導者・支援者がいますが、これは「指導という名の強要」だと思います。大人でも、耳元で「黒板に爪を立てた音」を聞かされ続けたり、「アルミホイルを奥歯で噛み続ける」ことを強要されたりするのは嫌なものです。根性や気合いや慣れで乗り越えられるものとはいえません。

 運動会は、教師のピストル音へのこだわりを押し付ける場ではなく、苦手な子も安心して参加できるイベントであるべきだと思います。スタートの合図が目的なのであれば、ピストル音は必ずしも必要ではありません。「よーいドン」という掛け声や、低音のホイッスル(長管の笛を用いる)のほうが安心する、という子どもの気持ちに耳を傾けてほしいと思います。

《参考文献》 田中康雄・木村順監修(2008) 「これでわかる 自閉症とアスペルガー症候群」, 成美堂出版, p.36-37

イラスト:立岡 正聡

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