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特別支援

掲載日:平成25年10月3日

〔連載〕
運動が苦手な子も,発達が気になる子も
「やったー!」を体感できる体育の授業のために⑤

人生が変わる!泳ぐことの嬉しさ!! 皆泳 25 mをめざして

沖縄県那覇市立城北小学校教諭 小島哲夫

 水泳は,できる子にとっては楽しく前向きに取り組める運動ですが,苦手な子にとってはできれば避けて通りたい運動の一つです。苦手意識を持つ最大の要因は,息継ぎが上手くいかずに「苦しさ」 「怖さ」と隣り合わせの運動だからです。

 そこで今回は,息継ぎが上手くいかず泳ぐのが苦手な子に対して,技術的な面はスモールステップで取り組み,「苦しさ」 「怖さ」を「安心」 「脱力」に換えながら,すべての子が楽に長い距離を泳ぐことの楽しさを味わうための私の取り組みを紹介します(主に高学年) 。

■泳げるようになるためのスモールステップ

 「苦手意識」のある子たちのために,私は基本的にバタ平(足はバタ足で,手は平泳ぎの形)で指導しています。このバタ平のメリットは手の形は平泳ぎなので比較的に顔が上げやすく,息継ぎがしやすいことがあげられます。また,キックはバタ足なので,25m を泳げたあとは,手をクロールの形にして面かぶりクロールにすることで,クロールへとスムーズにつなげられることです。

水泳指導の流れ①〜④ (距離の目安)
①けのび(5 m)
 けのびは泳ぐためにとても重要な水中姿勢です。これが身に付くことで,楽に長い距離を泳げる基礎となるからです。けのびは両腕をしっかりと伸ばして組み,水中に沈み込んで壁を蹴ります。片足をプールの側面につけてから頭を水の中に入れて一度水中に沈み,両足を揃えて壁を蹴ってもいいですし,水中に輪を沈めてそこをくぐるようにして,水中を進む感覚を体験することも有効です。
②けのびバタ足(10 m)
 けのびバタ足は,けのびでしっかりと進んでからバタ足を開始します。私は「水中で 5 秒数えてからキックを始めよう」と子どもたちに指導しています。けのびをしてすぐにキックをすると,せっかく壁を蹴ってついているスピードが落ちてしまうからです。このけのびバタ足で 10 m進めるような推進力がつけば,息継ぎをする準備ができたことになります。
③バタ平(25m)

 いよいよ息継ぎです。最初の息継ぎは 1 回だけに限定します。けのびからバタ足を始め,前述のけのびバタ足の延長線上に息継ぎを位置付け,たった1回の息継ぎに集中させます。息を吐くタイミングが上手くいかない子には,その子の横か前に立って,「息を吐く」と声かけし,息を吐ききったタイミングで「息継ぎ」と声をかけて頭に触れてあげることで,顔を上げるタイミングを知らせます。この時に「パッ」と強く息を吐かせることがポイントです。強く息を吐くと反動で息が吸いやすくなりますし,口の周りの水も一緒にはじき飛ばし,水を飲み込むことが防げるからです。

 なかなか顔を上げられずに息継ぎができない子には,ビート板や教師の腕に手を乗せさせたりして,水を押して(かいて)顔を上げる感覚を身に付けさせます。ビート板は市販のものでは子どもにとって浮力が大き過ぎるので,水を押す感覚がつかみにくくなります。ビート板を上下半分に切ることで,ほどよい浮力になり水を押す感覚の練習にもつながります。

 また,やや推進力が弱い子などは,その子の前に立って自分が後ろに進むようにします。自分が下がりながら進むことで,自分と子どもの間に渦巻きができて,子どもは引っ張られるので,推進力を手助けしてあげることができます。

 子どものモチベーションを上げるためにも,がんばりを実感させてあげることも重要です。息継ぎに少し慣れて,2 〜 3回できるようになると 15m くらいまでは泳げるようになります。立ってしまってもそこからスタート地点を振り返らせ,「こんなに遠くまで泳いでこれたね。すごい。」とがんばりを認めて,褒めてあげます。そして,25m の方を見て「ゴールまであとちょっとだね」と声をかけてあげると,泳いできた距離よりもゴールまでの方が近く見えるので,「もしかしていけるかも」と,子どものモチベーションは上がります。

④面かぶりクロール→クロール
 25m を泳ぎ,クロールなどの近代泳法につなげるときには,キックの指導を徹底します。手の動きをつけると何となく泳げているような気になり,推進力のない泳ぎになってしまいます。これでは楽に長くは泳げないので,クロールではキックを十分に意識させ,しっかりとした推進力を身に付けさせます。

■苦手意識を取り除く

 さて,このような取り組みをしていても,各パートの練習ではできるのにそれをつなぐ段階になるとちぐはぐになる子や,ガチガチに力が入って沈みがちな子もいます。自分のイメージと実際の動きに差があるためにうまくいかないことが多いので,まずは力を抜く体験をさせることによって,自分の頭と体をつなげていきます。

 苦手な子は怖くて目をつむりがちなので,ゴーグルをつけさせます。目をぎゅっとつむることによって体に力が入り,ぎこちない動きや硬い動きになってしまうからです。水中でものが見えるだけでもかなりの恐怖心をとることができます。

 さらには,もっと視界を確保するためにスノーケルのマスクを利用します。ゴーグルよりはるかに視界が確保でき,水中で楽に呼吸ができることを疑似体験します。頭ではわかっているつもりでも,水中で呼吸ができることを体験することにより安心感が生まれ,余計な力が抜けて練習もスムーズになります。また,フィンをつけることによって,がむしゃらにキックするよりもゆっくり大きく足を動かす方が進むことを体感することもできます。 *1

 このように心も体もスモールステップで取り組むことにより,子どもが泳げるようになる確率はかなり高くなります。苦手意識が強い運動だけに,泳げたときの喜びは例えようもないくらい大きなものです。授業環境を整えることにより,安全に楽しく,そして大きな喜びを味わえる運動でもあります。一人でも多くの子が「泳げた」と笑顔になることを願っています。

*1 「小学校水泳授業におけるスノーケリング授業実践 ~豊かな沖縄の海を,沖縄の子ども達に安全に体験させたい!~」琉球大学学術リポジトリ

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④ 運動会シーズンに不安が強くなる子どもの背景を考えよう  ⑤ 人生が変わる!泳ぐことの嬉しさ!!皆泳 25 mをめざして  ⑥ 心も身体も「シンクロ」する どの子も器械運動が楽しめる「シンクロ跳び箱」  ⑦ 体育授業で育てることができるソーシャルスキル  ⑧ 逆上がりをクリアして、自信をつけよう!  ⑨ 難しいところを簡単にして「みんなで楽しむキャッチバレーボール」  ⑩ なわとびの苦手を一気に解消しよう  ⑪ アナロゴンの視点をスモールステップに活かし,運動を楽しむ