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特別支援

掲載日:平成25年10月28日

〔連載〕
運動が苦手な子も,発達が気になる子も
「やったー!」を体感できる体育の授業のために⑦

体育授業で育てることができるソーシャルスキル

東京都立港特別支援学校主任教諭 川上康則

 発達障害の有無にかかわらず、体育の授業は、ソーシャルスキルの発揮を求められる場面が多くあります。

 例えば......

身体と身体が接触した場面で、わざとではなくても「ごめん」と言えるかどうか。
負けたときに、互いの健闘をたたえ、スムーズに切り替えることができるかどうか。
チームで作戦を立てるときに、自他の役割を理解し、協力することができるかどうか。

 体育の授業では、これらの場面を意図的に作り出しやすいため、友だちどうしのよりよい関わり合いを研究テーマに掲げる学校も多く見られます。ところが、話し合いや学び合いの場面を安易に設定してしまうと、多くの子どもたちが、何をどこまで考えればよいのかよくわからなくなり、新たな別の課題が表面化してしまうこともあります。

 別の課題とは、例えば......

争わず、仲よく学ぶことが強調されすぎて、本気で競ったり、意見を言い合ったりしなくなってしまう。
教え合う場面が、技能レベルの高い子から低い子への一方的な指導的場面になってしまう。
話し合うためのポイントが絞れていないので、特定の子どもの意見だけで進んでしまう。

 これでは、せっかくの体育授業のよさが活かしきれません。体育は、「精一杯」「果敢な挑戦」「克己心」といった努力の継続が自分なりの成長に結びつくことや、「正々堂々」「フェアプレー」といった誠実さとルール遵守の重要性、そして、「仲間」「団結」といった仲間とともに分かち合ったり、成し遂げたりすることの価値を伝えていくことができる、貴重な教科です。

 そこで、具体的な活動としてソーシャルスキルトレーニング(SST)の要素を取り入れることで、体育の授業を、より充実した学習活動に発展させていくことを考えてみます。

(1)「勝ち負けのこだわりが強い子」を意識した全体指導でのSST

 勝負にしつこくこだわったり、一番でないと気が済まなかったりする姿は、通常は成長にともなって次第に目立ちにくくなります。しかし、そうしたこだわりが強く残る場合もあります。

イラスト1

 勝つことに対してこだわる気持ちは、学習課題に真剣に取り組んだからこそ生まれます。だから、決して悪い感情ではありません。問題となるのは、学級や社会で許容される行動ではない形で、気持ちが表出してしまうことです。

 そこで、「勝ったときの上手な喜び方」と「負けたときの上手な悔しがり方」を丁寧に教え、学習活動の直前に全員で練習しておくようにします。

【勝ったときの上手な喜び方の例】

「やったー」「よし!」「勝ったぞ」など、声に出せるのは1回だけ。
その場だけで喜びに浸り、授業後はそれにこだわらないようにする。
相手の健闘をたたえ、相手がいたからこそ勝負ができたことを感謝する。

【負けたときの上手な悔しがり方の例】

「次こそは」「今度こそは」など、自分(たち)を奮い立たせる言葉を言う。
振り返るときは、「アイツが...」と人のせいにするのではなく、「自分が〇〇していれば...」を使う。
「仕方ない」「きっと相手のほうが練習したはずだ」と上手に負け惜しみを言うようにする。

(2)子どもどうしが"関わる"場面を意識的に取り入れる

 学習指導案の子どもの学習活動の欄に、子どもどうしの「関わり」を意識的に取り入れてみましょう。体育の授業の特性を生かせば、以下のような関わりの場面を設定することが可能です。

子どもどうしが"関わる"活動場面の設定(清水,2011を参考に)

1.

応援の活動

友だちの応援で普段以上のパフォーマンスを発揮できることがある。
友だちから見られることで、適度な緊張感が生まれる。
応援した子が成果を上げたときに、自分の応援の影響のよう気持ちになる。
2.

補助の活動

直接的に友だちの体を支えることで一体感や互いの信頼関係が生まれる。
「一人では難しいことも、誰かに支えてもらえればできる!」というサポート受け入れスキルが育つ。
3.

タイミングの指摘、口伴奏

周囲の友だちが、言葉で拍子をつけたり、リズムやタイミングを指摘したりすることで、ポイントを意識して動くことができる。
合言葉のように共通言語として共有され、よい雰囲気が生まれる。
4.

気づきにくいポイントへの意識

運動を見る視点を1つか2つに限定し、どのようになっているかを指摘し合うことで、気づきにくい動きのポイントを意識することができる。

 子どもたちの関わりをより深めるためのポイントは、
 ①事前にどの場面で関わらせるかを計画しておくこと
 ②運動が苦手な子も関われるように、ポイントを絞って学習させること
 です。
 特に、「〇〇ができているかどうか」など、具体的に視認できるようなポイントに絞ってあげることで、運動に苦手意識がある子どもも自分の動きを意識することができ、話し合いにも積極的に参加できるようになります。

《参考文献》 清水 由 著(2011)『シンプルで子どもが伸びる体育の授業づくり』,明治図書,p41-45

イラスト:立岡 正聡

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