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教育ジャーナル Vol.3 第3回

学研『教育ジャーナル』は、全国の学校・先生がたにお届けしている隔月刊誌です。
Web版は、毎月2回特集記事を公開しています。本誌では、更に充実した内容で様々な記事をご紹介しています。

コロナに負けない! 教師の姿、学校の風景
~学校教育に空白をつくらないために~

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、全国の学校の多くは、過去に例を見ない長期の休業を余儀なくされた。そうした中で学校現場の先生方は、何を考え、子供たちの学びを止めないためにどんな取組をしてきたのか。

第3回 ポストコロナ社会の学校教育を考える
~國學院大學・田村研究室が主催したオンライン学習会~

渡辺研 教育ジャーナリスト

 本来なら多くの学校が新年度スタートのあわただしさの中にあるはずの4月7日、新型コロナウイルス感染症対策本部長である安倍晋三内閣総理大臣が、特措法第32条第1項に基づき、緊急事態宣言を発出。
 当初7都府県に限定されていた区域は、4月16日に全国に拡大。当初ゴールデンウィーク明けまでだった期限は、後に5月末まで延長された。
 5月14日には、39県で宣言を解除。解除された地域から学校再開へ向けた動きが広がっていった。
 今回は、こうした時期に全国の先生方が参加したオンラインの研修会(学習会)について取り上げる。

〝その日〟に必要だったテーマ

 コロナ下で大活躍したオンライン会議システムZoom。それを活用した全国規模の学習会が実施された。経緯は後で説明することにして、まだ、全国の多くの学校が休校中だった5月に3回にわたって実施された学習会を紹介する。
「ポストコロナ社会の学校教育を考える」が5月の学習会のタイトル。案内にはこんなリード文が添えられていた。
 「緊急事態宣言延長、休校の継続。先の見えない状況で『今、私たちにできることは何か』。全国各地の先生方と一緒に考え、学び合いたい。そんな思いからオンラインでの学習会を企画しました。気軽に情報交換しましょう」
 案内には「この会は、國學院大學教授・田村学、小学校教諭・杉本、菅沼、星野が主催する会です」とある。杉本一生先生と菅沼得理香先生は、令和2年度千葉県長期研修生で1年間、田村研究室で研究を行う。星野薫先生は、昨年度の埼玉県からの研修生で、今年度は小学校に戻った。3人の先生方についても、経緯とともに後で紹介する。
 この“お誘い”が全国を駆け巡ったのが5月上旬。全国の教師たちが、「これ以上じっとしてはいられない、何かできることはないか」と、焦燥感に襲われていた頃だ。
 参加人数250名と大規模だったが、定員はあっという間に一杯になったそうだ。
 日程とテーマは次のとおり。

■第1回「休校期間中、私たちに何ができるのか?」(5月10日)
 家庭での子供の学びをどのようにして保障するか。繰り返し反復のドリル学習に加えて、思考力、判断力、表現力を発揮する学習、自らの課題を探究する学習などを行うにはどうすればよいかを情報交換しましょう。

■第2回「3密を踏まえた授業づくりをどう実践するか」(5月17日)
 3密(密閉、密集、密接)を意識した授業づくりでは、「近づかない、対面で話さない」ことが求められる。ペアトーク、小集団学習ができない中、どのような授業の工夫が求められるのかを情報交換しましょう。

■第3回「カリキュラムの修正・改善をどう行うか?」(5月24日)
 学習内容をコンパクトにし、授業時数を確保するにはどのような工夫が考えられるか。常に変化していく目の前の状況に対応するために、我々はカリキュラムをどのように修正し、どのように実施していくのか。各学校での取組を紹介しながら情報交換しましょう。

 日付とその日の自校の置かれた状況、そしてテーマを対照して見ていただくと、本当に“その日”に切実なテーマだったことがわかる。「我々は」という呼び掛けが職員会議のようでもある。どの一つも他人事ではない。

対話ができない代わりに…

 5月の場合、各回とも実践者による「話題提供(実践の様子)」があり、話題の提供を受けて、6名程度のグループに分かれて情報交換する。それが2セット。まさに学習会。
 話題提供者は、第1回は東京、埼玉、千葉。第2回が鹿児島、岩手、埼玉。第3回が福井、東京の先生方。参加者も北海道から沖縄まで、それぞれ事情の違う全国の教師たちが、“県外移動自粛”も関係なく、一堂に会した。
 コロナをきっかけに、大急ぎでI‌C‌T環境の整備を打ち出した自治体もあったが、コロナ後も検討されるべきシステムだろう。
 私が参加(実質は参観)したのは第2回と第3回。そこで提供された話題や交換された情報を、ごく簡単に紹介する。

【第2回】3密を踏まえた授業づくり(鹿児島県、岩手県では学校再開、埼玉県は休校)
・対話(ペア、グループ)ができないので、ノート、付せん紙、個人用ホワイトボード、板書など〝書く〟ことを重視。板書を工夫。
・考えを書く、ふりかえりを書くなど、個の書く活動を重視。
・I‌C‌T活用で集団をつくらない。
・ホームページ(HP)に単元を公開、学習の見通しを持たせる。

 対話が、感染防止のために封じられた。だからといって、マスク着用の教師が子供たちから離れて立って、“チョーク&トーク”で授業を進めようという、逆戻りの発想は出てこない。対話の代わりに書く。書いた物で交流することも一種の対話的な学びだ。

【第3回】カリキュラムの修正・改善
・単元を入れ替え、わかりやすい内容を先に、難しいものを後で。
・カリマネにより教科間のつながり、授業と家庭学習のつながりを持たせる。総合を中心にして教科をつなげると子供が元気になる。
・(5月に再開)長い休みの間に子供たちの集中力やスタミナが落ちているので、あせって勉強! 勉強! と追い込まない。
・この状況でも全体のバランスが大事。時数確保のために運動会など行事を削ったら、代わりの何かを設定。

 6月5日に文部科学省から「学校の授業における学習活動の重点化に係る留意事項等について(通知)」が出された。そこには、教科書発行者の協力を得て、授業を重点化する際の参考資料が作成されたことが報告されていた(文科省H‌P「子どもの学び応援サイト」の「学校の先生へ」のページ)。全ての教科書について、学年・教科・単元ごとに、どこをどう修正すればいいのかまとめられている。
 そして「学習指導要領の内容をよく確認し、それを効果的に指導する観点から、主たる教材である教科書、教科書と併用できる教材について、授業において取り上げるべき箇所を確認することが重要」とも書かれた。
 コロナは、学校の様々な活動を再考するきっかけになっている。
 総タイトルの「ポストコロナ社会の~」に、「ウイズコロナなのに?」と、最初は少し違和感を覚えた。でも、話し合われた内容は、「それは、学校の将来に生かさなければ……」と思えた。コロナ下で考えたことは、コロナ後の学校教育につなげていける。

今だからこそ「探究」

 全国で学校が再開した6月にも学習会は開催された。テーマだけ挙げておく。
「今だからこそ『探究』」(総タイトル)
 第1回 「探究の価値を再考する」
 第2回 「探究を実現する方策を考える」
 第3回 「思考力を育成し探究を充実させる授業づくり」

 開催にあたり、こう呼び掛けられている(抜粋)。

「(略)失われた授業時数と指導すべき内容とを見つめ、各学校がカリキュラムを柔軟かつ可変的に編成し実施するカリキュラム・マネジメントの取組が全国で行われています。(略)実際の学習指導においては、子供の本来の学びを無視した、教師主導の強引な授業が蔓延するのではないかとも心配されています。
 予測困難な状況ではありますが、今期学習指導要領の重要な理念である『学習する子供の視点に立つ』ことを見失ってはいけないと考えています。(略)『主体的・対話的で深い学び』を実現できるのか、資質・能力を育成するにはどうすればよいのか、ポストコロナ社会での『探究』を語り合いましょう」

 あえていえば、様々な制約があるこんな状況だからこそ、それでも絶対に大事なことは何かを考えることができるのではないだろうか。教師たちの深い学びは続く。

前向きな実践に向かってほしい

 田村先生と3人の先生方から、メールを通じてコメントをいただいた。
 田村先生は「3月末から、この状況での教師の学びを止めないことが大事だと考えており、N‌I‌T‌SやZoomでの発信を考えていました」とおっしゃる。
 4月初めに“身内”での学習会を試行、その後、3人の先生方が企画・運営に参画し、「若手学習会」を実施した。
 テーマは「ポストコロナの授業づくり(3密を超えたA‌L)」。当然、大好評。次を熱望する声が多く、それが5月、6月につながった。

「この学びの場を通して、学校現場の閉塞感を少しでも打ち破り、前向きな実践に向かってほしい、学び手の子供を見失わずにいてほしい、参加者が同じような学びの場を広げていってほしいことなどを願っていました」
 そして「彼ら(3人の先生方)がいてくれたので学習会をしていこうと思えた部分は大きいです。彼らが背中を押してくれたということでしょうか」とおっしゃる。
 3人の先生方のコメントも紹介させていただく。

★杉本一生教諭(我孫子市立新木小学校)
 コロナによる休校措置により今まで経験したことのない状況に置かれ、全国各地で多くの先生方が頭を悩ませたと思います。その中で、何かできないかと考え、全国の先生方とつながり、互いに解決策を考えていく学習会がスタートしました。参加者から職場や地域に、学んだ情報が拡散していければという思いです。テーマは、その時々の先生方の必要感や困り感から設定して実施してきました。
 学習会を通して感じるのは、このような状況で多くの先生方が悩み、そして一人一人が一生懸命に今、子供のために自分たちがやるべきこと、できることの「最適解」を模索しているということです。また、会ったこともない、校種も違う、立場も違う先生方が真剣に意見を交わし、一致団結して日本の教育を前に推し進めようとしている強い気持ちを感じています。子供の視点に立ち、誰もがこれからの教育を考えていることに、大きな可能性を感じ、毎回、勇気をもらっています。

★菅沼得理香教諭(流山市立小山小学校)
 参加された方々が、「頑張ろう」「やってみよう」と勇気を得られるような場が、オンラインでも可能なのか、模索しながらの挑戦でした。実施してみて、全国の教育に携わる方々と意見交換する場があれば、新たな考えや見方を得ることができ、同じ思いの強い味方が全国にたくさんいるのだと私自身が安心できました。できない、できないと嘆くより、どうやったら取り組めるかを考えるよい機会になっていると気づかせていただきました。企画に関われたことを心から感謝しております。

★星野薫教諭(越谷市立大袋小学校)
 この先どうなるのかわからない、勉強会は軒並み中止という状況の中、できないことを嘆くのではなく、全国各地の先生方で知恵を出し合って、「できる方向から考える」前向きな会をつくりたいという思いで運営に携わらせていただきました。
 そして、オンライン学習会を通して、全国各地の先生方とつながることができる喜びを感じました。「今、何ができるか」を考え直し、行動する励みにもなりました。
 参加者の先生方からは「日々悩んでいたけれど、明日から頑張れそうです」「学習会のことを皆さんに伝えました」「ピンチはチャンス、前向きになれました」など、様々な感想をいただき、企画・運営に携わらせていただいてよかったなと感じました。
 あらためて、全国には熱い先生方がたくさんいることがわかり、刺激を受けました。この会が皆さんのきっかけとなり、広がっていけば幸いです。私自身も「今できることを全力で」行っていきたいと思います。

 子供たちの未来を担う教師が、コロナなんかに負けていられるものか!

(第4回 「ウイズコロナだから見えるポストコロナ」に続く)

教育ジャーナル Vol.3

特集

コロナに負けない! 教師の姿、学校の風景

~学校教育に空白をつくらないために~

■ポストコロナ社会の学校教育を考
 える

■あらためて、学校中でスタートカ
 リキュラム

■本郷台小学校、6月後半の2週間

■ウイズコロナだから見えるポスト
 コロナ

教育ジャーナル Vol.2

アンケート特集

子供たちがいない学校で、何を思いましたか?

■2020年3月に感じたこと考えたこと
 ・子供なりの心構えを持たせた
 ・学校の業務改善のきっかけに

■校長をやっていてよかった~この
 1年の感激~

 本欄では、最新号(Vol.3)及びその前号(Vol.2)の新型コロナウイルス感染拡大が学校に及ぼした影響に対する学校現場の対応に関わる記事を集め、再構成して紹介します。
 連載前半では、学校一斉休業中の3月に実施したアンケート調査から、学校現場の対応状況やそこで現場の先生方が何を考えていたのかを明らかにしてきました。
 今回は、学校休業中も子供たちの学びを止めないための先生方の取組を紹介。次回は、それらを踏まえ、ポストコロナの学校現場のあり方について考えます。

バックナンバー

コロナに負けない! 教師の姿、学校の風景

~学校教育に空白をつくらないために~

8月7日 第1回 突然の一斉休校要請~学校現場の思い~
8月24日 第2回 長期休業を学校の業務改善のきっかけに
9月1日 第3回 ポストコロナ社会の学校教育を考える
9月14日 第4回 ウイズコロナだから見えるポストコロナ

あかはなそえじ先生の「ひとりじゃないよ」 特別編

10月6日 ケアする人のケア ~教師自身のケアはどうするの?~