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教育ジャーナル

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新学習指導要領での学び(3)

 新しい学習指導要領は、小学校では昨年度から全面実施となり、中学校も今年度から全面実施となっています。学習指導要領はどのように改訂されたのか、今後の学びはどのように変わるのか、上智大学総合人間科学部の奈須正裕教授にお話いただきました。

学習指導要領改訂とこれからの学び
~見方・考え方を身に付ける~

奈須正裕 上智大学総合人間科学部教育学科教授

今回の改訂につながる考え方は以前からあった

 新しい学習指導要領は、正式には、2014年11月20日の文部科学大臣の諮問を受けて作り始めるわけです。しかし、そこにつながる考え方は、それ以前からありました。例えば資質・能力については、前回の平成20年(2008年)改訂学習指導要領(以下、20年指導要領)の総合的な学習の時間において、「よりよく問題を解決する資質や能力を育成」「育成すべき資質や能力及び態度」という言い方で、キーコンピテンシーとなぞらえて資質・能力という考え方が示されています。
「生きる力」という言葉が使われた頃から学力に対する新しい考え方が必要だということは言われていました。しかし、「生きる力」の育成を目指した平成10年(1998年)改訂学習指導要領(以下、10年指導要領)の最大の問題は、新しい学力のためには、どんなコンテンツをどのように並べるべきかということについて議論をしないままに、学習内容をおよそ3割減らしてしまったことです。それに対して学力低下の懸念がいわれました。

コンテンツからコンピテンシーへ

 20年指導要領では、10年指導要領における学習内容の3割削減等を回復することが求められていました。内容の系統をきちんと作って、学力低下と言われないようにする。そのために重要なのは、学力に対する新しい考え方を出すことでした。
 従来、教えるべき事項(コンテンツ)の束が教科になっているふしがありました。各教科での学びは、その教科の学問の基礎を固めるためのものであり、教科のコンテンツ全てを理解し、習得しようとするものでした。
 しかし、こうした学びは、ほとんど日常生活では使えません。日常生活で役に立つものにするためには、教科で学んだ内容を概念的に理解し、思考し、課題解決に生かす力を付ける必要があります。極端な話をすれば、そうした概念的な理解さえしておけば、細かいコンテンツを覚えていなくてもよいということになるのです。

全てを学ばなくてもよい

 例えば、中学校の世界地理。以前は、世界の全地域を学習していて、「社会科は暗記もの」の典型でした。これを改善すべく、平成元年からは、3地域程度を選んで深く探究することで地理学的な見方・考え方や方法を身に付ける「事例主義」「方法主義」に移行し、10年指導要領では更に徹底されます。例えば、アジアと北アメリカとオセアニアを学習すれば、それ以外の地域は扱わなくてもよいということです。これに対し、アフリカやヨーロッパを学ばなくてもいいのか、学力低下ではないか、といった批判が湧き上がります。
 これは、学力論が違うのです。「事例主義」では、例えば、アジアの自然や地形と産業や土地利用について学び、「港のあるところにはどんな産業が発達するのか」というようなことがわかる。他の地域でも同様に学び、そこに共通性と特殊性が見えてくれば、学んでない地域についても、身に付けた知識や方法を活用して思考することができるのです。
 全地域をコンテンツとして網羅するのではなく、3地域をイグザンプルとして地理学的なコンピテンシーを身に付ける。こう考えれば、コンテンツの量は減らせるのです。
 こうした概念理解のために、20年指導要領では、全ての教科において言語活動を充実させることとしました。本当は、ほかにもいろいろと盛り込みたいことがあったようなのですが、そこまではできませんでした。
 今回の改訂では、そこをしっかりやろうということになりました。

改訂の手順を変えた

 これまでは、大臣諮問が出されたら、早々に各教科の部会が立ち上がり、各教科の内容の検討が始まっていました。しかし今回は、教育課程企画特別部会だけが立ち上がり、そこだけで10か月間議論しました。
 まず、20年後や更にその先の社会が、どんなものになるのか、その社会で生きる子供たちには、どんな力が必要かということを考えたのです。これが身に付けるべき資質・能力です。その資質・能力のために、何をしなければならないか、学校は何をすべきかということを議論しました。そこから、どんな教育課程にすればいいのかということが出てきます。そして、教育課程を実現するために、各教科での学びをどうするかを検討しました。ここで大事なのは、教科ごとにではなく教科横断的に考えたということです。
 そこから、教科横断的に考えるための「カリキュラム・マネジメント」や「PDCAサイクルを回す」という考え方につながります。
 また、「社会に開かれた教育課程」ということも出てきます。これは、地域社会や企業等に対して開くという意味もありますが、各教科で学んだ力を、社会の中で生きていく際にその子を支えるものにする、という意味もあります。まさに、コンテンツ主義からコンピテンシー主義へ移行するという話なのです。
 そのための学び方として、「アクティブ・ラーニング」が出てくるわけです。

見方・考え方を身に付ける

 今回の学習指導要領改訂では、新しいことがいろいろと出てきていますが、このように全てに関係があります。またそれらは、これまでのカリキュラムや伝統的な授業に対する不満を整理して出てきたものです。
 そうした新しいことを、各教科に落とし込む際に一番大変だったのが、見方・考え方です。各教科で多くの教科内容(コンテンツ)を学ぶわけですが、その教科ならではの膨大で多様な現象や事物を、その見方でやっていけば統合的に整理できたり予測できたり、処理ができるような、概念や方法等を、見方・考え方というのです。
 歴史的には、新しいものではなく、1960年代にアメリカのブルーナーが「教育の過程」に、構造を大事にするということについて記しています。構造というのは、細かいコンテンツの骨組みになっているもの、核となる概念や方法等のことを意味します。

小4で質量保存

 いくつか具体例を紹介します。
 小学校4年生の理科の実験で注射器の中の空気を圧縮するということをやります。子供が注射器の中の様子を描く際に、最初の状態と、ギュッと圧縮した状態をどう描くか。空気の粒の数が変わる子もいれば、同じ数の子もいます。
 ここで教師が、「みんな頑張ってよく描いてくれたけれど、粒の数が減っている子と減っていない子がいるね」と投げかけたときに、両方で同じ数の粒を描いた子が、「出たり入ったりしていないから、粒の数は減らないと思う」と言う。これは質量保存の考え方です。すると、「そうか、出入りがないんだから粒の数が変わってはいけないんだ」と他の子も理解する。質量保存という言葉は知らなくても、直感的にその本質的なことは理解している。これが、見方・考え方なのです。

幼児期に集合論

 次に、算数・数学の集合の例を紹介します。
 積み木を仲間分けするという遊びは、幼児期によく行われます。色で分けたり、三角形、四角形といった形で分けたりすることは、幼児でもできます。さらに、赤くて三角の積み木を集めるということもするのではないでしょうか。つまりその子は、操作的で感覚的ではあるけれども、積集合の考え方を使って仲間分けをしているわけです。
 このように、現象や事物を統合的に整理し処理することができるような、その教科ならではの概念や方法などのことを見方・考え方といいます。そうした見方・考え方で、知識が構造的、統合的に整理されていくと、初めての場面でも、知識を活用して問題解決することができるようになります。
 だから、見方・考え方が重要なのです。

学ぶ内容を減らし、アクティブ・ラーニングの時間を確保

 今回の学習指導要領では、各教科ごとに見方・考え方を作っていただいたのですが、見方・考え方の水準や書きぶりをそろえるところまではできませんでした。
 10年後の指導要領では、そこをそろえる必要があるでしょう。また、コンテンツをもっと減らさなければなりません。
 もともとコンピテンシー(資質・能力)主義というのは、コンテンツを減らせるということが一番の利点なのです。つまり、概念が身に付いて能力も身に付けば、網羅的に学ばなくてもよくなるので、2~3割学習内容を削減できるはずなのです。
 コンピテンシー主義にして、コンテンツを系統化構造化し、更に教科間連携を進めると、内容や時数は、かなり圧縮できます。そして、圧縮した分の時間を使って、ゆったりと授業をしていただきたいのです。アクティブ・ラーニングをきちんとやるためには、子供たちがゆっくり考えたり議論したりすることや、学んだことを発展応用して何かを作り、表現するという時間が絶対に必要なのです。
 学習内容を減らした分、多様な活動を行う。そうすると子供たちは、学んだことを違うコンテンツで何度も応用・活用し、自分なりに考え、表現し、あるいは恊働で活動するという経験を積み重ね、いろいろな力が付いていく。そのように鍛えていくと、結果的にコンテンツも身に付くはずなのです。

これからの学びではICTが重要

 そうした学びにおいては、ICTが非常に重要なものになります。ICTは、個別最適化、つまり、個人で使うのに適していますし、時間や空間が離れた人とコミュニケーションができるツールとして優れているからです。
 GIGAスクール構想等で整備されたICTを活用することにより、コンピテンシー主義の考え方に基づいた授業の可能性は、一層広がるものと期待されます。

※ 本稿は、2020年12月に学研ビルで実施した奈須正裕教授の講演内容を、本紙編集部で抜粋、再構成したものです。

教育ジャーナル Vol.7

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