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教育ジャーナル

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霞が関発! NEWS FLASH

 2019年の教職員給与特別措置法の改正の後、いったんは沈静化していた教員の「働き方改革」の議論が、今年度に入って再び盛り上がりを見せている。
 先生たちの労働環境に改めて注目が集まるきっかけを作ったのは、文部科学省の若手職員たちの発案で3月26日に始まった「『#教師のバトン』プロジェクト」だ。

文科省の「教師のバトン」をきっかけに教員の働き方改革の議論が再燃

大久保 昂 毎日新聞社記者

教職の魅力を伝える目的でスタートするも、文科省の思惑は外れる

 「『#教師のバトン』プロジェクト」は、全国的に教員志願者数が伸び悩む中、学校の日常の一コマや創意工夫、ちょっといい話などを「#教師のバトン」というハッシュタグを付けてツイッターなどに投稿してもらい、それを拡散することで、教員の仕事の魅力や現場の先生たちが教育活動に懸ける思いなどを、教員志望の学生や社会人に知ってもらうことが狙いだった。
 ところが、文科省の当初の思惑は外れることとなる。プロジェクトのスタート直後から、過酷な労働環境を訴える教員の投稿が相次いだのだ。

「20年間で削減された仕事は座高測定とギョウ虫検査しかありません」
「明日で退職です。朝から晩まで働きました。今思うと、失ったものがあまりにも多かった」


 批判の矛先は文科省にも向けられた。「教員の善意に甘え、保護者や社会にそんたくし、教員を守らなかった」という厳しい指摘もあった。
 こうした「炎上」に文科省は対応を迫られた。プロジェクトのスタートから3日後の3月29日、ネット交流サービス(SNS)で「教員の皆さんの置かれている厳しい状況を再認識するとともに、改革を加速させていく必要性を強く実感しています」「いただいたご意見を分析し、本質的な改革につなげたいと考えております」などとメッセージを発信した。

「炎上」をきっかけに文科省局長は「現場の声を集め、改革を推進する」と軌道修正

 さらに4月8日には文科省総合教育政策局の義本博司局長がオンラインで記者会見し、プロジェクトの趣旨を改めて説明した。義本氏によると、プロジェクト立案のきっかけは、学生たちに教員を目指す上での不安などを聞いたところ、文科省が進める「働き方改革」の内容が伝わっていないと感じたことだったといい、「SNS上で学校現場の創意工夫をオープンに共有し、伝え合うことができればという狙いだった」と釈明した。
 一方、今後のプロジェクトのあり方については、「現場の声を集め、改革の推進力とする『働き方改革のプラットフォーム』としての機能をフルに生かせる場にしたい」と述べた。ツイッターによって可視化された教員たちの悲痛な声を原動力として、現場の負担軽減に一層取り組んでいくという意思表示であり、当初の狙いを軌道修正したと言えるだろう。
 文科省の16年度の調査では小学校で3割以上、中学校では6割近い教員が「過労死ライン」とされる月80時間以上の残業をしていることが明らかになっている。その後、文科省や各地の教育委員会は教員の負担軽減に向けた取り組みを進めてきたが、今回明らかになったのは、多くの教員たちが依然として厳しい勤務環境に置かれているという事実だ。
 とはいえ、文科省も手をこまぬいているわけではない。教員の負担軽減を図ろうと、中学校や高校の土日の部活動を学校管理下から外し、23年度から段階的に地域活動に移行させるほか、10年に1度の講習を義務づける教員免許更新制の抜本的見直しを中央教育審議会に諮問している。また、年度当初に必要な教員が配置できない「教員不足」の実態について、初めて全国的な調査に乗り出すことも決めた。

教師一人一人の声を政策に反映させるシステムとして今後に期待する声も

 「教師のバトン」の今後に期待する声もある。中央教育審議会で教員の「働き方改革」の議論に関わった経験を持つ教育研究家の妹尾昌俊さんは、「これまで『声なき声』だった現場の教員や保護者の投稿に対し、1日置くか置かないかの間に文科省から返事が来るなど、今までにない政策立案過程、コミュニケーションになりつつある」と指摘。「うまくいかないこともあるかもしれないが、他省庁もできていないチャレンジだというふうに見ていただければ」と語っている。文科省はこれまで、主に教育委員会や校長会などを通じて現場の意見を吸い上げる一方、一人一人の教員の声を直接聞くシステムはほとんど持たなかった。その意味では今回のプロジェクトは画期的だという見方もできる。
 ツイッターの「炎上」は教育関係者以外の多くの人の目にも留まったはずだ。文科省の当初の狙いとは確かに違ったものの、日本の学校現場は教員の異常とも言える献身によって支えられているという事実を広く伝えるきっかけになった。文科省や教育委員会、各校の管理職らがこの機をとらえ、社会の理解を得ながら教員たちの負担軽減を実現できるかどうか。それが「教師のバトン」の成否の鍵を握っている。

教育ジャーナル Vol.7

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