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教育ジャーナル

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霞が関発! NEWS FLASH

 埼玉県の公立小学校に勤める60代の男性教員が、勤務時間に応じた残業代が支給されないのは労働基準法に違反するなどとし、県に未払い賃金として242万円を請求していた訴訟の判決が波紋を広げている。

給特法を巡る小学校教員の訴訟
――さいたま地裁は残業代の支払いを認めず

大久保 昂 毎日新聞記者

現在の法制度の問題点は指摘

 さいたま地裁の石垣陽介裁判長は昨年10月1日、教員側の請求を棄却する一方、公立校の教員に時間外勤務手当などを支給しないと定めた教職員給与特別措置法(給特法)について「教育現場の実情に適合していないのではないか」と付言し、国などに同法や給与体系の見直しなど勤務環境の改善を図るよう求めた。
 給特法は、教員は仕事とプライベートの線引きが難しい職業で勤務時間の管理が難しいとの考え方に基づき、公立学校の教員に対し、休日・時間外勤務手当を支払わない代わりに、月額給与の4%を「教職調整額」として支払うと規定している。
 ただ、この4%という数値は公立小中学校の教員の残業時間が月平均8時間だった1966年度の教員の勤務実態に基づいて定められたもの。それから半世紀が経過した2016年度に文部科学省が実施した調査では、小学校教員の約3割、中学校教員の約6割が「過労死ライン」とされる月80時間以上の残業をしており、現代の勤務実態に見合っていないという批判が高まっていた。

長時間労働の常態化を否定

 今回の裁判で、原告は二つのことを求めていた。一つ目は残業代の支払いだ。
 給特法は教員に残業を命じられる業務内容を「学校行事」「校外学習」「職員会議」「非常災害時の対応」の4項目に限定している。このため、原告側は授業準備やテストの採点、通知票の作成といった通常業務は残業代の対象になるはずだと訴えた。
 だが判決は、この主張を退けた。給特法に基づく教職調整額の趣旨は、勤務時間内か勤務時間外かを問わず、教員の仕事を全体として評価した結果として支給されているものであるという県側の解釈を支持した。つまり、現行の給特法の下では公立校の教員に残業代は支払われないことを改めて明確に判示した。
 原告側は仮に残業代の請求が認められなかった場合に備え、もう一つのことを求めていた。それが、損害賠償の請求である。
 労働基準法は1日8時間以上の労働を原則として禁じている。原告がこれを超える労働を強いられている今の状況は同法に反する「違法状態」なのだから、本来支払われるべき残業代と同じ金額の損害賠償を求める権利があるはずだという理屈だ。
 さいたま地裁は、この主張については一部を認めた。校長による実質的な職務命令に基づく仕事に追われ、教員が残業をしなければ処理し切れないような状況が常態化している場合に、校長が業務量の調整や割り振りなどの改善策を取らずに残業をさせ続ければ、損害賠償が請求できるとの判断を示した。
 ただ、実際に賠償命令が下ることはなかった。原告が勤務時間外に従事している仕事を一つ一つ検討した結果、校長の職務命令に基づくといえる業務は、「登校指導」や「朝会の引率指導」「職員会議の延長」など一部に限られると指摘。こうした業務による残業時間は最大でも月15時間程度にとどまり、長時間労働が常態化していたとはいえないと判断した。

給特法を取り巻く事情は複雑

 この判決によって、給特法の是非を巡る議論は刺激された。判決直後にはツイッターなどに「給特法は廃止すべき」という論調の意見があふれた。
 ただ、「問題はそう単純ではない」と語る教員もいる。ある小学校教員は、教員の労働時間を管理する必要性を認めつつも、「あまりに徹底されてしまうと、教員の裁量や創造性が狭められる恐れがある」と複雑な胸の内を明かした。
 別の元教員は「給特法を廃止しても、教育予算や現場の人員配置が充実しなければ意味がない。教職調整額がなくなることで教員の待遇が下がり、残業が事実上禁止されることで教育の質が低下するだけに終わる恐れもある」と語った。
 文科省幹部は「給特法の廃止はハードルが高すぎる。教職調整額の積み増しですら、激しい抵抗に遭うだろう」と打ち明ける。現状のまま給特法を廃止した場合、全国の教員の時間外勤務手当は1兆円近くになるとの試算もある。これだけ巨額な財政支出の拡大を財務省が認める可能性は極めて低いというのが、この幹部の見立てだ。「仕事の見直しで残業を減らすのが最も現実的」と語る。
 給特法の問題は労働論と教職論に加え、こうした財政論や政治力学も絡み合っている。この複雑な連立方程式の最適解を見つけるのは容易なことではないが、ここまで矛盾が膨らんでいる以上、なんらかの改善策が必要なことも間違いないだろう。

教育ジャーナル Vol.10

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