close

教育ジャーナル

学研『教育ジャーナル』は、全国の学校・先生方にお届けしている情報誌(無料)です。
Web版は、毎月2回本誌から記事をピックアップして公開しています。本誌には、更に多様な記事を掲載しています。

霞が関発! NEWS FLASH

 来年度の高校1年生から新設される科目「現代の国語」の教科書の検定結果を巡り、文部科学省が揺れている。文科省は「小説の入る余地はない」と説明してきたにもかかわらず、近現代の文学作品を多数載せたある教科書会社の教科書が合格し、採択数でシェア1位を獲得した。文科省の意を酌んで小説の掲載を見送ったライバル社からは「文科省は言っていたこととやっていることが違う。採択は公平ではない」との批判が出ている。騒動の背景には、そもそも文科省が進める国語改革が現場であまり歓迎されていなかった実態がある。

高等学校国語 新科目の教科書検定で騒動

大久保 昂 毎日新聞記者

高校の「現代の国語」、小説を掲載した教科書がシェア1位となり物議

 「検定が間違っていたと認めませんか」
 文科省が昨年11月、高校の国語を取り扱う教科書会社を対象にオンラインで開催した説明会。編集者の一人が語気を強めて詰め寄った。
 不満の理由は3月に公表された教科書検定の結果にある。小説を扱うことが想定されていなかった「現代の国語」において、芥川龍之介の「羅生門」などの定番小説を5点載せた第一学習社の教科書が検定をパスしたのだ。
 「現代の国語」は22年度に入学する高校生から実施される新学習指導要領で新設される必修科目だ。今の高校の国語の必修科目は「国語総合」(4単位)だけだが、これが「現代の国語」(2単位)と「言語文化」(同)に分かれる。
 「現代の国語」では評論のような論理的文章のほか、法律や契約書などの実用文を扱い、小説や古典は「言語文化」に集める。文学作品を読む活動に偏りがちとされてきた国語の授業を変え、実社会で役立つ国語力育成の時間をしっかり確保するのが狙いだった。

文科省はもともと「小説の入る余地はない」と説明してきた

 文科省は「現代の国語」について、新指導要領を示した18年の段階から「小説の入る余地はない」と説明してきた。多くの国語教員が今回の科目再編に違和感を抱き、小説の掲載を望んでいることを知っていた教科書会社の編集者たちは頭を悩ませた。最終的に文学作品の掲載を断念した社もあれば、補足教材の扱いにとどめることで検定をパスしようとした社もあった。
 ところが、蓋を開ければ、小説を堂々と掲載した第一学習社版が合格。しかも、同社は「従来の『現代文』教科書のイメージでご利用可能」と宣伝した。これにはさすがに文科省が「待った」をかけ、同社は8月に教科書の内容の一部を訂正した。小説は従来の現代文の授業のように「読む」のではなく、登場人物の行動への賛否を文章にまとめるなど「書く」力を高めるための教材であることを明確化したのだ。
 ただ、小説の掲載自体は維持され、12月8日に文科省が公表した来年度の採択数は19万6493冊(シェア16・9%)でトップに立った。第一学習社には、学校現場の教員から「この構成なら指導しやすい」「よくチャレンジしてくれた」といった声が届いているといい、同社担当者は取材に対し「全体の構成ならびに採録した教材の内容に評価をいただいた」とした。
 文科省の意を酌んだ他社は結果的に損をすることになった。検定ミスを指摘する声に対し、文科省教科書課は「検定を覆すことは考えていない」と否定する。ただ、ある文科省幹部は「教科書検定の担当部署と学習指導要領の所管部署の連携がうまくいっていなかったのだろうか。いずれにしても失態だ」と漏らした。

教科書検定審の見解により、ライバル社が後追いで小説を掲載することは困難に

 各社の関心事の一つは第一学習社に有利な現状を解消できるのかという点だ。教科書検定は、おおむね4年に1度の周期で実施される。「現代の国語」の場合、次回は24年度だ。11月の説明会では、文科省に対してこんな質問が出た。
 「次の検定で、第一学習社と同じように小説を載せることは認められるのか」
 これに対して文科省は、「当然に合格と判定されるわけではない」と答えた。一連の騒動を受け、文科相の諮問機関である「教科用図書検定調査審議会」の小委員会が8月、「今後は小説教材を扱うことについて、より一層厳正な審査を行う」との見解を示したからだ。第一学習社の後追いを難しくしたとも取れる対応に、各社の参加者からは「ダブルスタンダードだ」「文科省も矛盾していることは分かっているはずだ」といった批判が相次いだ。
 文科省は「学校現場での指導が適切なものになるよう、できる限りの手を尽くしたい」と説明し、理解を求めた。つまり、第一学習社の教科書の小説については、「書く」学習だけに使うよう学校現場への徹底を図っていくということだ。
 参加した編集者の一人は「次回の検定でも怖くて小説は載せられない」と語った。仮に不合格となれば、教科書を発行できなくなり、製作コストは回収できない。そのリスクを考慮すると、チャレンジをためらわざるを得ないという。
 一方、既に合格した第一学習社は、次に学習指導要領が改定されるまで約10年間は、小説が載った教科書を取り扱うことができる。この編集者は「これではあまりにも不公平」と憤る。

問題の本質は教育の多様性、次の焦点は「論理国語」での小説の取り扱い

 「経営上の損得だけで文科省の対応を批判しているのではないことを分かってほしい」。別の編集者は今回の問題が二つの意味で教育の「多様性」を損なう危険性を感じているという。
 一つは発行社の減少だ。教科書の市場は、少子化によってどんどん縮小している。一方、教科書のデジタル化への対応などで製作コストはかさむようになり、経営環境は厳しくなるばかりだ。発行する教科数を絞ったり、教科書自体から撤退したりする社も出ている。「今回のような不公平とも言える検定によって突出したシェアを握る教科書が出てくると、発行を取りやめる社が更に増えるかもしれない」と懸念する。
 もう一つは、教科書や授業の内容に対する縛りが厳しくなってきたことだ。一連の騒動は、文科省が「小説の入る余地はない」と説明し、教科書に載せる素材の種類を規制しようとしたことに端を発している。その後、想定しない形で小説を載せた第一学習社版が検定に合格すると、他社の追随を認めるのではなく、より厳しく規制する方向にかじを切った。
 戦前の「国定教科書」による一律教育への反省から、戦後の日本は民間の教科書会社の創意工夫を生かし、多様性を認める検定制度を採用した。「それなのに」とこの編集者は訴える。「近年は学習指導要領の縛りが強くなり、教科書や授業内容の自由度や多様性が損なわれてきた。問題の本質はそこなのです」
 高校国語における文学作品の扱いを巡る綱引きには、次なるステージがある。22年3月に結果が公表される「論理国語」(4単位)と「文学国語」(同)の教科書検定だ。
 いずれも新しい学習指導要領で新設される選択科目となる。文科省は「論理国語」について、必修の「現代の国語」と同様に「文学作品を扱うことは想定されていない」と説明している。果たして「論理国語」に森鷗外の「舞姫」などの定番小説が載った教科書が登場するのか否か。全国の国語関係者が注目している。

教育ジャーナル Vol.10

特集

■幼児教育と学校

スタートカリキュラム、やってみよう!

第2特集

■コロナ禍の学校教育

それでも、授業改善は着々と進められていた!~令和3年度全国学力・学習状況調査より~

ほか

バックナンバー