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with Sports 太田慎也さん(株式会社 WOWOW パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」 チーフプロデューサー)

(2018年10月15日更新)

太田 慎也 さん

「スポーツと生きる人」から,スポーツの今とこれからを知る

太田 慎也 さん
WOWOWとIPC(国際パラリンピック委員会)の共同プロジェクト『WHO I AM』。2020年まで5年にわたり世界最高峰のパラアスリートに迫るスポーツドキュメンタリーだ。チーフプロデューサーの太田慎也さんに,企画のきっかけや制作秘話,番組に込めた思いなどについて聞いた。【取材・文/荒木美晴】 
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太田 慎也 さん

写真/Paralympic Documentary Series WHO I AM

『WHO I AM』の放送開始は2016年。シーズン1では,パラ水泳界のマイケル・フェルプスと呼ばれるダニエル・ディアス(ブラジル),プロ車いすテニス選手でパラリンピック2連覇の国枝慎吾(日本)ら,世界のトップアスリートに密着した。今年10月からは,待望のシーズン3が始まる。
2020年オリンピック・パラリンピック開催地決定の前後で動き出した社内プロジェクト。総指揮を任された太田さんは,テニスのグランドスラムやサッカーのリーガ・エスパニョーラの中継や編成に携わるなど多くの世界的スポーツに触れてきたが,パラスポーツには縁がなかった。始動を前に,勉強を兼ねて取材に向かったのは,2015年のパラ水泳世界選手権。そこで,太田さんのパラリンピアンに対する価値観が大きく変わったという。
「各国の代表ジャージを着た選手が目指す,まさに世界最高の舞台といったムードでした。とにかく選手がみんなキラキラ輝いていて,かつそのハイレベルなパフォーマンスに圧倒されました」

2015年パラ水泳世界選手権(グラスゴー)で記者の質問に応えるダニエル・ディアス。

2015年パラ水泳世界選手権(グラスゴー)で記者の質問に応えるダニエル・ディアス。

写真/WOWOW

その中でも,すでにパラリンピックで15個のメダルを獲っていた先天性四肢奇形のダニエル・ディアスは,オーラが違った。ミックスゾーンにブラジル国旗をあしらった義足を履いて登場すると,記者が一斉に彼を囲む。そして彼の受け答えや振る舞いはまさにトップ選手のそれで,スーパースターの風格をまとっていた。
「彼らを見て,"障がいのある人が頑張っている"という考えが,スコーンと飛んでいってしまった。彼らは,一流のスポーツ選手。障がいの"意識"は自分たちのほうにある,僕は自分が小さい奴だ,と気づきました」
帰国後,その熱量を胸に,「我々が持っている障がいに対する価値観を壊したい」と会社にプレゼン。さらに,自分に誇りを持って活動する選手の姿を通して,自分自身について考えさせられたことから,メッセージを込めて番組のタイトルを「WHO I AM ーこれが自分だ!という輝きー」に決めた。
番組では1シーズンにつき,8人の選手を取り上げる。8組のクルーが同時進行で取材を行う。取材期間は半年から1年。彼らの個性でもある障がいを負った経緯についても話を聞くが,それを前面に映すことが目的ではない。選手がいかに人生を楽しみ,競技に情熱を傾けているかを追う。丁寧に描かれるパラアスリートそれぞれの物語は,画面を通して「あなたは"自分"について語れますか?」と問いかける。

パラリンピック・ムーブメントへの貢献という意味で,放送以外の展開にも力を入れる。柱となりつつあるのが,教育現場での映像の活用だ。小学校から大学まで,声がかかれば積極的に映像を提供し,講義を行う。小学生の児童たちは「会いたい!」と目を輝かせ,大学生は同世代の選手の勇姿に「負けてられない」と心揺さぶられる。太田さんは「口で言うより,動いている映像にはやはり力がある。若い世代がこういう映像を見て,柔らかい脳みそを持ったまま東京大会のその先にある未来社会の真ん中に立ってくれたらいいと思っています」と話す。

2017年、早稲田大学での講義の様子。

2017年、早稲田大学での講義の様子。

写真/WOWOW

2020年パラリンピック東京大会は,8月25日から9月6日までの13日間にわたり,22競技540種目が実施される。太田さんは,自身の経験をもとに,パラリンピックの楽しみ方をこう教えてくれた。
「世界中のスーパースターがこんなに東京に集まることはありません。絶対に生で観戦してほしいですね。伝えるとしたら,障がいがあるのにスゴイ,じゃない。スポーツ選手としてスゴイ,ということ。それを体験できるのは,自分の人生にとって大きなプラスになると思います」

パラリンピックリオデジャネイロ大会でダニエル・ディアス(右から3人目)と。番組制作を通して築いた選手との絆は財産となっている。

パラリンピックリオデジャネイロ大会でダニエル・ディアス(右から3人目)と。番組制作を通して築いた選手との絆は財産となっている。

写真/WOWOW


PROFILE ● おおた しんや
大阪府吹田市出身。2001年WOWOW入社。編成部でのスポーツ担当やドキュメンタリー企画統括を経てドキュメンタリー番組のプロデューサーに。日本放送文化大賞グランプリやギャラクシー賞選奨を受賞。2015年のプロジェクト立ち上げから「WHO I AM」チーフプロデューサーを務め,同番組で日本民間放送連盟賞特別表彰部門の青少年向け番組優秀を受賞。