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with Sports ちょんまげ隊長ツンさん(サッカー日本代表サポーター)

(2019年6月12日更新)

ちょんまげ隊長ツンさん

「スポーツと生きる人」から,スポーツの今とこれからを知る

ちょんまげ隊長ツン さん
サッカー好きな人なら,試合のテレビ中継で画面に映り込む“ちょんまげ甲冑姿”の男性サポーターを見たことがあるかもしれない。人呼んで,「ちょんまげ隊長」。そんなツンさんの姿は,国内外の被災地でも見ることができる。サッカーと被災地をボランティアでつなぎ,そこに笑顔を運ぶツンさんの活動を紹介する。
【取材・文/荒木美晴】
with Sports

写真/ツンさん提供

彼の名は,ツノダヒロカズさん。千葉県で靴屋を営む56歳だ。プロ野球ファンだったが,1993年,たまたまテレビで観た「ドーハの悲劇」をきっかけに,サッカー日本代表の応援を始めた。
試合会場では「日本人を象徴する姿で応援したい」と,オリンピック北京大会からちょんまげを着用。手作り甲冑も身にまとい,その出で立ちで会場を歩けば,世界中のサポーターから写真撮影を求められる有名人である。
そんなツンさんが長年,その姿で取り組んでいるのが,地震や豪雨などによる被災地の支援活動だ。きっかけは,東日本大震災。といっても,このときは千葉の自宅や店舗のガラスが割れ,「正直なところ,最初は東北のことを考える余裕がなかった」という。だが,地震から10日ほど経った頃,全国から支援物資が届いているはずなのに,「モノがない」とつぶやく被災者のツイートを見て,心が揺れた。「うちには靴は売るほどある……。これまでボランティア活動はほぼしたことがないけれど,今回くらいは“偽善”をやってもいいじゃないか」。

ツンさんが車に可能な限りの靴を積んで東北の避難所に向かうと,道路が寸断され,余震におびえ,表情が消えた人々の姿があった。衝撃を受けた彼は,そこで思い切った行動に出る。ちょんまげを着けて,子どもたちの前に現れたのだ。不謹慎だと怒られるかもしれない。でも,ツンさんを見た子どもたちは,一斉に駆け寄ってきてくれた。うれしそうな子どもたちを前に,ツンさんは思わずこう話した。『また来週来るよ』。

1回限りのつもりが,その約束を守り,活動を続けるツンさん。今では東北のほか,熊本地震や西日本豪雨などの被災地にも仲間とともに足を運ぶ。8年間もボランティアを続けられているのは,「無理をしないから」とツンさん。「実は以前,苦手な料理に挑戦して失敗し,土下座をしたことがあります。僕は泥運びも苦手。でも,ちょんまげを着ければ子どもを笑顔にできる。相手のニーズに応えることが大事なのであって,やれないことはやらない。それでいいんです」。  

写真/ツンさん提供

その言葉のとおり,活動の都度「この指とまれ方式」で有志を集め,終わったら後腐れなく解散するやり方を徹底する。「たった一度の参加でもいいんです。その経験を,例えば自分の子どもに伝える,そういう『恩送り』を大事にしたいと僕は思っているんです」とツンさんは話す。
被災地の現状や活動内容を伝える講演会は,国内外でのべ350回にのぼる。「あと5年は続けたい。その間にいろんな人に種をまきたいんです」。
その種は各地で確かに開花し始めている。2014年のワールドカップ・ブラジル大会,2018年のロシア大会には募金を集めて被災地の中学生を招待することができた。ロシアでは,参加した中学生が福島の現状を報告。「赤の広場」では,ロシア語と英語で書かれた感謝の横断幕を広げ,他国サポーターと交流を深めた。

2016年には,東日本大震災復興支援として福島県南相馬市の小中学生によるマーチングバンドのドキュメンタリー映画『MARCH』を制作。バンドの活動を知ったJ2リーグの愛媛FCとの交流を通して,「福島のいま」と「夢を諦めない」気持ちを描く。大反響を呼んだこの作品は世界10か国以上で上映され,1回3万円〜の素材の有償貸出による収益は,バンドの活動費や南相馬の子どもたちへの支援活動に還元されている。 

スポーツ,被災地,世界の人々との関わり方にはいろいろな形がある。それを,ちょんまげ隊長ツンさんは私たちに教えてくれている。

写真/ツンさん提供


PROFILE ● ちょんまげたいちょう つん
千葉県出身。ちょんまげ甲冑姿で世界を巡る,サッカー日本代表サポーター。東日本大震災を機に,サッカーのネットワークで被災地支援をスタート。世界各地で取り組む「被災地講演会」は8年間で350回以上開催している。多岐にわたる活動は,「Smile for Nippon」WEBサイトにて確認できる。2016年に制作した映画『MARCH』は,学校での自主上映会開催も可能。問い合わせは映画MARCH制作委員会(eigamarch★gmail.com ★を@に変えて送信してください)へ。