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with Sports 平野加奈子さん(バドミントン日本代表アナリスト,元独立行政法人日本スポーツ振興センタースポーツ科学部)

(2019年11月15日更新)

with Sports

「スポーツと生きる人」から,スポーツの今とこれからを知る

平野加奈子 さん
バドミントン日本代表の活躍が目覚ましい。オリンピックロンドン大会ならびにリオデジャネイロ大会でのメダル獲得をはじめ,最も格式高い歴史ある全英オープンの男子シングルスも今年は日本代表選手が制した。彼らの飛躍を支えているのが,チームの専任スタッフたち。今回は映像を使って戦術面の分析を行う平野加奈子さんに,アナリストの仕事について聞いた。【取材・文/荒木美晴】
平野加奈子さん

トップスポーツの強化を情報分析で支える仕事,それがアナリストだ。バドミントン日本代表では,3人のアナリストが撮影した映像や,それを用いた戦術面や体力面の分析を提供する。
平野さんは,主にA代表で戦術分析を担当。年間18大会に加え,代表強化合宿などに帯同し,選手をサポートする。「選手やコーチが求めていることを引き出すことが大事」と平野さん。アナリストの一方的な情報提供にならないよう,日頃から心の扉を開けて選手たちとコミュニケーションを図ることを心がけているそうだ。
現在の日本代表選手は,約50人。元韓国代表の朴柱奉(パク・ジュボン)監督がチームを率い,コーチ陣も多国籍だ。日本代表はその各国のよい面を強化に取り入れ,独自のスタイルに発展させて結果を残してきた。アナリストはこうしたコーチ陣とのやり取りが多く,3人のアナリストで確実に情報を共有することも重要なミッションだ。
しかしバドミントンは「駆け引きのスポーツ」といわれるだけに,戦術は複雑で分析は簡単ではない。しかも,男子選手のスマッシュの初速は400km/hを超え,球技で最速といわれる。「その瞬時の判断をどうするかは,本人にしかわからないことがたくさんある」と平野さん。とはいえ,自身のバドミントン選手としての経験が仕事に大いに生きているという。

大学時代はバドミントン部で汗を流しながら,体育の教員を目指していた平野さん。4年生のときには教員採用試験を受け,非常勤講師の登録も済ませていたが,偶然,大学の先生からバドミントン日本代表のアナリスト募集があることを聞いたことがきっかけで,現在の職に就いた。2012年のオリンピックロンドン大会で銀メダルを獲得した女子ダブルスの藤井瑞希さんは同学年で,垣岩令佳さんは小学校のときに一緒に練習していた仲。時を経て,今度は代表の仲間として携わることになり,「最初は『なんでいるの?』って。それは驚きますよね」と,笑顔で振り返る平野さん。バドミントン経験者である平野さんがサポートしてくれることに,選手たちは大きな安心を感じていたに違いない。
就任当初は試行錯誤の連続だった。それまで映像を撮る経験はあったが,分析に関する知識はほぼゼロ。選手やコーチ,時には異なる競技の人と話をして必要な情報を調査するところから挑戦は始まった。また,もともとは海外選手の分析をメインでしていたが,それより日本代表選手自身を分析してトレーニングにつなげることも効果的では,という気づきもあった。
分析の内容が深まるにつれ,選手からの信頼も厚くなる。「試合に挑む選手を見ていると,自分が提供したデータを使ってくれたことがわかる瞬間があります。そのときは,とてもやりがいを感じますね」と,平野さんは目を細める。

国内のスポーツ界において,女性アナリストは決して多くはないといい,他競技の女性アナリストたちと情報交換する「女子アナ会」を結成したことも。「女性同士だから話せることもあるでしょうから,選手と同じようにスタッフも男女両方いたらいいなと思います」と,未来を見据える。
いずれは,スポーツに関わる仕事を目指す学生をサポートすることも視野に入れているという平野さん。「私が大学4年のとき,教員にならなかったのは,もう少しいろいろな経験をしてから子どもたちと向き合いたいと思ったから。今,少しずつ小学校や中学校で講演する機会をいただいていて,自分の経験を伝えられるようになりました。こういう活動も続けていけたら」。
もちろん,今は2020年オリンピック東京大会に向けて全力を注ぐのみ。チームとともに走り抜けたその先に,きっと平野さんにしか語れない未来が待っている。


インドネシアマスターズ2019での撮影
(写真/日本スポーツ振興センター提供)


PROFILE ● ひらの かなこ
香川県出身。10歳から大学までバドミントンに打ち込む。2011年,バドミントン日本代表チームの映像分析サポート担当に就任。2012年オリンピックロンドン大会の女子ダブルス銀メダル獲得,16年オリンピックリオデジャネイロ大会の女子複ダブルス金メダル・女子シングルス銅メダル獲得などに貢献した。筑波大学人間総合科学研究科修了。日本オリンピック委員会情報・科学サポート部門員。