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with Sports 藤原英則さん(富士通株式会社 スポーツ・文化イベントビジネス推進本部 第二スポーツビジネス統括部長)

(2020年3月11日更新)

with Sports

「スポーツと生きる人」から,スポーツの今とこれからを知る

藤原 英則 さん
2019年10月にドイツで開かれた「世界体操競技選手権大会」。ここで国際体操連盟と富士通が開発した「AI自動採点システム」が,跳馬など一部の種目で初めて導入された。審判を補助し,体操の歴史にあった誤審を防ぐものとして注目されている。今回はプロジェクト責任者の藤原英則さんに,開発秘話や今後の夢などについて聞いた。【取材・文/荒木美晴】
藤原英則さん

高速化かつ複雑化する体操競技の技は,審判の肉眼だけでは公正な判断が難しいケースが増えつつある。だが,採点過程の可視化に成功したこのシステムにより,高精度な採点が可能になり,誤審を防ぐことができるようになった。そして,それらを練習や指導に活用すれば,競技力の向上にもつながる。“体操界の新たな歴史の始まり”として,富士通の技術は今,大きな期待と注目を集めている。

「今までにないものを生み出したい――」
東京2020オリンピック・パラリンピックの開催が決まり,IT技術を生かしたスポーツビジネスの可能性を探っていた藤原さんは,さまざまな競技団体の関係者に会い,企画を考えていたそう。そこで印象に残ったのが,日本体操協会の渡辺守成氏の世界観だった。「日本開催の大会なら,ロボットが採点していたりして,とおっしゃって。ジョークをジョークのまま終わらせず,イノベーションを起こすにはどうしたらいいか,と考えた」と,プロジェクト発足のきっかけを振り返る。
実は,当初のプロジェクトチームで体操経験者はゼロだったそうだ。それなのに挑戦しようとしているのは,人の3Dモデルを使った判定技術の開発という“世界初”の試みだ。だから,企画を立てても何が正解か誰も判断できない。しかし,固定観念がないからこそ出る突拍子もない発想が必要だと藤原さんは考えていた。「自分の信念と思い込みがドライブしていく原動力になる」と,社内コンテストへの応募や経営層へのプレゼンを繰り返して,プロジェクトの精度を高めていった。
社内に「体操研究部」も立ち上げた。「より深く学ぶと悪いところも見えてくる。でも好きだから,それを改善するにはどうすればいいかを考えるようになる。恋愛のお付き合いと一緒です」と藤原さん。地道な努力が実って,ついに社内のフラッグシッププロジェクトとなり,実証実験を経て,国際体操連盟が正式に採用するに至った。

体操研究部の皆さん 写真提供:富士通

体操研究部の皆さん

写真提供:富士通

社会における人工知能との共存の在り方が話題になる昨今。藤原さんは,教育機関などでの講演会の依頼体操研究部の皆さん を積極的に受けている。生徒たち,そして教員ら関係者に伝えたいことがあるからだ。ある高校で「スポーツ×ICT」というテーマが用意されたときは,自分の仕事を「IT企業の仕事」と紹介されたが,藤原さんはそれを「世の中を変える仕事」に変更してもらったそうだ。
「受験のため,憧れの仕事に就くための勉強はやめたほうがいい。目標を達成した時点でやる気がなくなってしまうから。だから,世の中の人々を笑わせる,楽しませる,幸せにする,健康にする,そういう大きな目標を掲げて勉強を始めたほうがいい,と話しました」
そして,藤原さんはこう続ける。「私たちの今回のプロジェクトも同じ。日本で大会を開くからには,『さすが日本,すごかった』と言ってもらいたい。それを,どうやって私たちのテクノロジーで実現するかを考え,スタートさせたわけです。そういうプロセスが,“ないものを創造する”にはとても大事なのだと考えています」

この採点システムは,テレビ中継への応用や他の採点競技でも活用が可能だという。藤原さんが目標に掲げる「スポーツの産業化」は今後,加速度が増しそうだ。そして藤原さんは,そこに自身の夢も重ねている。
「こうした技術は,例えば高齢者向けフィットネスクラブなどでも活用することができると思います。けがをしにくいトレーニングを作ることなどで体力向上を目指せる。世界中の人々が健康で豊かな生活を営むことに少しでも貢献したいなと思っています。あとは将来,『自分も世の中を変える仕事をしてみたい!』という子どもたちが出てきたら,こんなにうれしいことはないですね」

AI自動採点システムの詳細についてはこちら(体育・保健体育ジャーナル7号P.11)

大学での講義の様子 写真提供:富士通

大学での講義の様子

写真提供:富士通


PROFILE ● ふじわら ひでのり
大阪府出身。現職は,スポーツ・文化イベントビジネス推進本部 第二スポーツビジネス統括部 統括部長 兼 東京オリンピック・パラリンピック推進本部シニアディレクター。金融機関の勤務を経て,富士通へ入社後は,システム営業として金融・公共・法人・海外のシステム商談を担当。2017年から体操プロジェクトの責任者として現在に至る。