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SDGs教育とカリキュラム・マネジメント

(2021年12月16日更新)

SDGs教育とカリキュラム・マネジメント
一般社団法人グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)
調査・研究統括 木村大輔
学習指導要領にも盛り込まれているSDGs。SDGsの解説をはじめ、「取り入れたい!」と思えるような学校現場における実践などをご紹介します。
SDGs×道徳

前回は、SDGsを教育現場で扱う上で意識したいこととして、「学習者の行動変容をもたらす」、「SDGsのゴールは相互につながっている」、「社会の出来事を自分事として捉える工夫をする」という3点と、そのための授業での指導について紹介しました。今回は、この3点を可能にするための環境整備と、深い学びにつなげるきっかけづくりについて紹介したいと思います。

違いを尊重する

道徳で扱うテーマに答えはありません。日本国憲法第13条に「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とあります。道徳は、教師や社会が求める道徳観を身につけさせるものではないという理解が必要です。SDGsが目指す世界は理想的なものですが、その前に憲法で保障されている個人を尊重する必要があります。道徳やSDGsを学習するなかで、児童生徒が何を感じ、何を思うかを尊重する意識が大切だと考えます。
インターネットやメディアの言説を見ていると、昨今の日本では「正しいか間違っているか」など、二元論で議論をしていることが多いと感じます。新型コロナウイルス対策でも、「経済か終息か」の議論がなされていますが、何が正しいか、正しくないか、明確に判別できることはほとんどありません。ある人の「正義」は異なる立場にいる人にとっては「正義」ではない可能性もあります。グローバル社会では、社会的規範が異なることも多いため、違いを受け止める力、他者を思う力、そして対話の中から意思決定していく力が重要ではないでしょうか。「違い」に触れると、心にモヤモヤが出てきます。モヤモヤが出ることは当たり前だと受け入れ、お互いを否定するのではなく、双方にとって共通していることは何か、相手の意見で理解できる部分はないか考えることで、前に進むきっかけができるでしょう。

夢中になる、関心をもつきっかけとしての道徳

道徳は、モヤモヤに気付かせたり、個人の価値観を揺さぶったりする物語で溢れています。こうした体験を重ねていくことで、児童生徒自身の価値観や大切にしていることとつながり、主体的な学びや行動の変容に向かう「内発的動機付け」につながるのではないでしょうか。「内発的動機付け」とは、デシ&ライアン(2000)によると「個人の内なる心理的欲求のために行動する」ということです。報酬やプレッシャーといった外発的な動機付けではなく、個々の楽しみや挑戦のために行動するというモチベーションのモデルの一つです。児童生徒が夢中になる、またはSDGsに関心をもつ仕掛けの一つとして、道徳を起点に学習活動の幅を広げられると考えています。

カリキュラム・マネジメントとは

カリキュラム・マネジメントという言葉をよく聞くようになりました。新学習指導要領の実践において重要視されていることの一つです。カリキュラム・マネジメントとは田村(2011)によると、「各学校が、学校の教育目標をよりよく達成するために、組織としてカリキュラムを創り、動かし、変えていく、継続的かつ発展的な、課題解決の営みである」とされています。この「カリキュラム」には、教育機関によるフォーマル教育のほか、インフォーマル教育(体系的ではない、家庭・就労・遊びの場からの学び)、ノンフォーマル教育(学習塾や習い事などの、体系化された学校外教育)が含まれています。SDGsの学習においては、学内で完結する学びだけではなく、学外での学習機会を含めた学びのデザインが重要となります。

学校内での活動

学内ではどのような活動ができるでしょうか。ゴール12の「つくる責任、つかう責任」を例に考えてみましょう。ゴール12の前提にある社会背景としては、人口増加や気候変動、有限な陸上・海洋資源などが挙げられます。リサイクルの仕組みを学ぶことで、エネルギーやゴミの分別といった身近な話題が関わっていることに気付く機会をつくれます。普段使ったり食べたりしているものの製造過程を調べることで、それが児童労働や低賃金での生産を強いて作られたものであったり、多額の輸送コストや環境コストがかかったりしていることに気付く機会になります。消費期限切れの製品がどうなるのかを学ぶことで、ある国では大量廃棄があり、ある国では食べ物や必要なものが満足に手に入らない現状があることについても学べます。
学習するなかで出てくるたくさんの問いについて、児童生徒と共に考えることが大切です。地球環境やエネルギーの持続可能な利用のために地産地消やリサイクルを推し進めることが、厳しい環境にある人の雇用を奪うことにならないか。そうならないためにはどのような制度が必要なのか。制度をつくるのは誰か。私たちはそのために何ができるのか……。このように、経済・社会・環境に配慮しながら「誰一人取り残さない」世界をつくるには何が必要で、私たちは何ができるのか、といった個々の価値観・道徳観に迫る問いが児童生徒からもたくさん生まれます。
また、あるテーマを複数の教科を通して学んでいく「教科横断型学習」も可能です。SDGsの理念とそれを達成するための17のゴールは、文理融合型のテーマばかりです。表1は、ゴール12の中にあるターゲットの一覧です。それぞれの教科の切り口でどのような学習ができるか、想像を膨らませてみてください。英語でこのテーマ全体を扱うこともできます。理科や社会の切り口は考えやすいかもしれませんが、環境負担を考える上では算数・数学が必要です。また、実際に技術・家庭科、美術で何か作ってみることで、廃棄をどれだけ少なくして作れるかを体験することができます。美術でポスターを作り、啓発活動をするのもよいでしょう。身近な教科、題材から社会につなげることはいくらでもできます。そこからさらにゴール2「飢餓をゼロに」、ゴール1「貧困をなくそう」と関連させて、世界へとつなげていくこともできます。

表1 国連グローバルコンパクトウェブサイトより

SDGsについて様々な教科=レンズを通して学ぶことで学習の幅が広がります。そこで児童生徒や教師から出てくる「なぜ?」を大切に扱うことで、自ずと道徳の学習にもつながっていくのではないでしょうか。

ESDカレンダー

世界の中でも日本はESDの推進事例がたくさんある国です。その中でも特に汎用性があり、活用しやすいものにESDカレンダーがあります。ユネスコスクールとしてESDを推進してきた東京都江東区立八名川小学校では、手島利夫前校長を中心に、ESDと学習指導要領・教科をつなげ、ESDカレンダーとして可視化しました(表2)。中学校では、奈良教育大学附属中学校が公表しているESDカレンダーがあります(表3)。
これらを見ると、年間を通して設定した学習テーマについて、各教科の単元や特別活動等をつなぎ合わせた重層的な学びを実践していることが分かります。学校活動が密接にSDGsにつながっていることが伝わります。
SDGsも道徳も、児童生徒が学びに向かう「内発的動機付け」や「持続可能な社会の創り手」となるきっかけとして有用であることが伝われば幸いです。

表2 文部科学省:H28, 30 ESD(持続可能な開発のための教育)推進の手引より

表3 出典:奈良教育大学附属中学校より