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GIGAスクール構想とICT活用

GIGAスクール構想環境における体育・保健体育の授業 ②

(2022年2月22日更新)

帝京大学教育学部教授
高田 彬成


1 タブレットの長所を生かし、短所を取り除く

前号では、GIGAスクール構想下での体育・保健体育の指導におけるICT機器の活用上の留意点等について整理した。
本号では、前号に示した留意点等を踏まえ、指導と評価の一体化の視点から、体育・保健体育の授業におけるICT機器の効果的な活用について再整理したい。
GIGAスクール構想により、児童生徒への1人1台端末(以下、「タブレット」と表記する)が配備され、各学校においては、さまざまな学習場面での利活用が模索されている。タブレットを単に「使えばよい」のではなく、「効果的に用いる(=活用する)」ことが重要であること、使わなくても済むことにあえて用いる必要はないことなどは、前号で述べた通りである。体育・保健体育の指導においては、タブレットの特性を踏まえ、主として次の4点の長所を引き出しつつ活用することが大切である。
1つ目として、動画を録画し、再生できるという長所を踏まえたい。これは、運動領域・体育分野において、特に力を発揮する。自分や仲間の学習の様子を録画し、再生して見返すことで、学習の課題を見つけたり解決のための手だてにしたりできる教科等は、そう多くはない。一時停止やスロー、繰り返しの再生を取り入れることで、学習課題の発見や解決に役立てることができる。その際、撮影や再生が主となり、運動に従事する機会や時間が減ってしまうようでは本末転倒である。前号でも述べたが、タブレットを用いる機会を精選すること、タブレットの操作技能の向上を日常的に図っておくことなどがタブレットの長所を引き立たせるためには重要である。
2つ目として、動画を記録として残せるという長所を踏まえたい。録画により、一瞬の出来事も記録として残せるため、毎時間の振り返りに使えるだけでなく、学習の軌跡となり、ポートフォリオ評価への活用も想定される。また、自己の学習の効果的な蓄積は、児童生徒の有能感を高めたり、次への学習意欲につなげられたりすることも期待できる。一方、短所として挙げられる「記録として残せるから一瞬を見逃してもよい」という考えや、「後で記録を見ればよいので記憶しようとしない」という姿勢などについては、使用者への意識の啓発が常に求められる。まずはしっかりと見る(見合う)ことを基本とし、補助的にタブレットを活用するという使用者としての意識を高めたい。
3つ目として、必要な情報を収集できるという長所を踏まえたい。Wi-Fi環境にもよるが、児童生徒が必要なときに、必要な情報をその場で入手できることは、学習への意欲を高めるとともに、学びの連続性や効率性の観点からも有効である。一方、得られる情報が増えると、どれが確かで有益な情報なのかの見極めが難しくなることも想定される。必要な情報を取捨選択できる力を育成することは大切であるが、体育・保健体育の時間にそうした力をどこまで伸ばしていくことが求められるであろうか。情報リテラシー教育は全ての教科等で推進すべきことは言うまでもない。しかし、教科の特性を踏まえつつ、他の教科等の学習機会に委ねる融通性があってよいのではないかと考える。教師があらかじめ必要な情報を絞って提示したり、数種類に厳選しておいて児童生徒が選択できるようにしたりするなど、情報過多になることを未然に防ぐよう留意することが大切である。
4つ目として、比較的容易に意見を発信できるという長所を踏まえたい。これまで、児童生徒が自分の意見を表明する場面では、言葉での発表や学習カード等に文字で記録することが中心であった。その点、GIGAスクール構想下ではタブレットに書き込んで意見を教師や仲間に伝えたり、イラストやリアクションマークで瞬時に反応したりすることができる。このことにより、意見を発信するのが苦手な児童生徒の反応を引き出したり、学習カードを見なければ拾えなかった意見をその場で取り上げたりすることが容易になる。教師は、児童生徒と相互に通信することにより、課題や学習状況をリアルタイムで把握したり、発問や課題提示の有効性を確認したりすることができる。そのため、タブレットの活用は授業改善の推進にも資することが期待できる。一方、児童生徒同士の情報発信が容易になったために生じる弊害にも目を向けておかなければならない。例えば、教師が「仲間の意見に賛成の人は『いいね!』を送ろう」と呼びかけると、「いいねマーク」の数が表示されるが、児童生徒はこうした数に敏感なことも想定される。その際には、数については教師のみが見られるようにするなどして、児童生徒の意識をあまりあおらないように留意したい。また、匿名での投稿は意見の表明を気軽にする半面、責任意識を薄くしてしまうため、注意が必要である。
これらの長所や課題点等を踏まえ、GIGAスクール構想下でタブレットを活用した指導と評価を一層展開することが求められる。
次に、育成を目指す資質・能力の柱に即して設定される観点別評価と、GIGAスクール構想下でのタブレットの活用との関連について整理することとする。

2 「知識・技能」の評価における活用

「知識・技能」の評価への活用については、「知識」と「技能」の2点について、整理することとしたい。「知識」の評価においては、児童生徒に指導した知識の定着の状況を、確認テストの形式で児童生徒から回答を得ることができる。テスト作成アプリやGoogle forms等を活用し、習得を目指す知識に関する質問事項を作成して、その都度提示する。授業の際に児童生徒が回答を入力(または選択)し、教師が集計すれば、学習の進行に即した知識の獲得の程度を確認することができる。これまでは、質問紙を用いるなどして、学習のまとめとして知識を評価する傾向が見られた。しかし、GIGAスクール構想下においては、児童生徒の回答を瞬時に集計し、正答か否かを評価することができる。そのため、児童生徒へのフィードバックも容易になり、次時の指導に生かすこともできる。知識の評価は、教師がその習得状況を把握するためだけに行うのではなく、児童生徒1人ひとりの学習状況を順次確認し、課題があればさらなる指導を行い、最終的に全ての児童生徒の着実な習得を目指すために行うことを目的としたい。知識の評価を段階的に繰り返し行う意味はそこにあると言っても過言ではない。
また、運動領域・体育分野における「技能」の評価においては、学習中に撮影した動画データの蓄積を効果的に活用することに留意したい。学習のさまざまな場面で児童生徒が(または自動で)撮影した映像を見返すことで、学習中に教師が見取る以上に多くの情報を得ることができる。教師の見取れなかった児童生徒の動きや活動が録画されたデータから、技能の評価につながる情報を見つけることが期待できる。もちろん、映像上での出来栄えをもって技能の評価をすることは拙速であるが、学習中に教師が気づかなかった点を確認できれば、次時において実際に自分で見て確かめるなどの評価行動につながる。動きやプレイなどの様子を映像に残すことで、児童生徒の個々の学習の成果がより明確になるとともに、教師による客観的で精度の高い評価につなげることが期待できる。

3 「思考・判断・表現」の評価における活用

「思考・判断・表現」の評価への活用については、「思考・判断」と「表現」の2点について、次のように整理することとしたい。
「思考・判断」の評価においては、タブレットの長所がいかんなく発揮される場面である。
運動領域・体育分野においては、撮影された動画をタブレットで繰り返し再生(スローや一時停止を含む)することで、自己(自他)の課題を見つける(発見する)ことが期待できる。一瞬で見えにくかった動きも、一時停止やスロー再生にすることでじっくりと見ることができるなど、タブレットの長所が教科の特性にマッチするため、学習の効果を大いに高めることができる。また、模範となる動きと自分の動きとを比べて課題を見つけたり、自分や仲間のよい動きに気づいたりするなど、児童生徒の発達の段階に応じた「思考・判断」に資する活用も期待できる。運動中には気づかなかった自己や仲間の動きの課題が、動画を見返すことで明らかとなり、動きの改善に向けたモチベーションも高まることが期待できる。課題の見える化(明確化)は、解決のための活動の選択や工夫につながるため、思考・判断の評価機会も増えることが想定される。思考・判断を容易にするアイテムとして、これからの体育学習にタブレットは欠かせないものとなるであろう。画像診断や動作分析など、運動を感覚だけでなく科学的に捉えるなど、タブレットを活用してアカデミックな視点からのアプローチに役立てることも期待できる。
一方、保健領域・保健分野においては、統計データの読み取りや調べ学習などから、健康や安全に関する自己(自他)の課題を見つけ(発見し)、その解決のために思考し判断する際に、タブレットが手元にあると大変便利である。これまでは印刷物やパワーポイントでの資料提示のみであったが、タブレットがあれば統計データを色付きで見たり、もう一度見たい画面に自由に戻ったりすることができる。GIGAスクール構想下でのタブレット活用には、学習の中心とも言うべき思考・判断を促し、児童生徒のさらなる気づき(発見)を引き出すことが大いに期待できる。運動領域・体育分野の学習と同様に、課題の発見が容易になれば、解決方法を考えたり工夫したりする意欲を高め、児童生徒の思考力・判断力の伸長につながることが期待できる。また、思考・判断したことをタブレットを用いて教師に送信することで、児童生徒の課題設定や課題解決の状況を教師が短時間で把握することができるため、学習の即時評価につながるとともに、必要に応じて発問や説明の追加をするなど、授業改善に資することが期待できる。
次に、「表現」の評価においては、思考し判断したことを他者に伝える手段の一つとして、タブレットの活用が考えられる。発表が苦手でも、タブレットからであれば意見表明ができる児童生徒が少なからずいるものと考えられる。タブレットを用いて表現することの意味や楽しさを味わうことができれば、児童生徒の表現力の伸長に役立てることができる。「どの意見に賛成か」を挙手して聞いていた時代から、タブレットで投票し、数や割合まで瞬時に出される時代へと移ったことで、授業の勢いにも変化が生まれることが期待できる。

4 「主体的に学習に取り組む態度」の評価における活用

「主体的に学習に取り組む態度」の評価への活用については、ここでは運動領域・体育分野における「愛好的態度」、「公正・協力」、「責任・参画」、「共生」、「健康・安全」の5点について、次のように整理することとしたい。
「愛好的態度」については、進んで(積極的に・自主的に)運動に取り組む態度を、実際の運動場面だけでなく、保存された映像から見取ることができると考える。タブレットの活用によって技能の課題や思考・判断の解決方法などがより明確になれば、運動への意欲を高めたり、運動従事時間や回数を増やしたりすることにつながり、愛好的態度の評価機会も増えることが期待できる。
「公正・協力」については、タブレットで撮影し見直すことでゲーム中のプレイや判定に関する状況をより正確に振り返ることができる。また、仲間の工夫や努力、困っていることに気づくことができるなど、公正な態度や仲間と協力する意欲、仲間をたたえようとする意欲などを引き出し、それらを評価することが期待できる。
「責任・参画」については、タブレットを用いることで、練習やゲームを動画で撮影する人、得点を入力する人、記録を測定する人など、学習におけるさまざまな役割をつくり出すことができる。それらの役割をしっかりと果たすなど、自分が仲間の役に立っていることを実感できる場面を創出することで、指導と評価の機会をさらに増やしていくことが期待できる。
「共生」については、タブレットに収められた動画などの情報をもとに、より具体的に仲間の考えや取り組みに触れることで、共感的理解を促したり、共生の意識を育んだりすることが期待できる。タブレットを用いることで、「する」だけでなく、「みる」、「支える」、「知る」など運動との多様な関わり方に気づくことができるようにすることにより、評価の機会につながることが期待できる。
「健康・安全」については、タブレットに収められた動画の中に、偶然に撮影されたシーンで、ヒヤリ・ハットな場面があれば取り上げ、指導に生かすことができる。また、「〇〇することは危険」と言葉だけで伝えていたことも、映像を用いて具体的に説明することにより、児童生徒の安全に行動する態度の育成につなげることが期待できる。

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