学研『教育ジャーナル』は、全国の学校・先生方にお届けしている情報誌(無料)です。
Web版は、毎月2回本誌から記事をピックアップして公開しています。本誌には、更に多様な記事を掲載しています。
教育ジャーナル Vol.6-1
霞が関発! NEWS FLASH
小学校35人学級の実現
~約40年ぶりの歴史的決定~
霞が関発! NEWS FLASH
現行は40人(小学校1年生は35人)と定められている公立小、中学校の学級基準について、政府は小学校に限り、全学年を35人まで引き下げることを決めた。来年度はまず小学校2年生の「35人学級」を実現し、下級生から毎年、1学年ずつ拡大していくことで、2025年度の完成を目指す。小学校の学級基準の一律引き下げが決まるのは約40年ぶりだ。
小学校35人学級の実現
~約40年ぶりの歴史的決定~
大久保 昂 毎日新聞社記者
コロナ拡大がきっかけ
文部科学省は来年度の予算編成で、中学校も含めて一律で30人まで引き下げることを求めていたが、効果を疑問視する財務省は譲らず、小学校に限った「35人学級」の実現で折り合った。学級基準を定めた義務標準法の改正案を、年明けの通常国会に提出する。
少人数学級の導入論が浮上したのは、新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけだ。春先に長いところで約3か月間の休校を余儀なくされたことを受け、身体的距離を取りながら子供たちが安心して学べる環境を整えるべきだとの声が、与野党や自治体から上がった。
こうした流れもあり、政府が昨年7月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太の方針」には「少人数によるきめ細かな指導体制の計画的な整備」が明記された。文科省も来年度予算の概算要求に、必要額を示さない「事項要求」として盛り込み、強気で財務省と交渉した。
公立小中学校の学級基準は、1958年の義務標準法の制定時は「50人」だったが、1964~68年度の5年間で「45人」、1980~91年度の12年間で「40人」に引き下げられた。しかし、その後は少人数化の議論が停滞し、2011年度に小1の35人学級が実現しただけにとどまっていた。
地方自治体の声が後押し
約40年間も動かなかった「山」が動いた理由はなんだったのか。一つは自治体の「少人数学級」を望む声が強かったことだ。 春先の休校による学習の遅れが懸念されていた7月3日、全国知事会、全国市長会、全国町村会の代表者らは萩生田光一文科相のもとを訪れ、新型コロナ対策として少人数学級を導入する必要性を訴えた。
来年度の予算編成が山場を迎えた12月14日には、全国知事会の飯泉嘉門会長(徳島県知事)が地方6団体を代表し、菅義偉首相に「総理のご英断を」と直接迫った。文科省幹部は「地方が応援してくれたのは本当に大きかった」と振り返る。
財務省の譲歩を引き出す
もう一つは、萩生田文科相を中心に、文科省が最後まで諦めずに交渉したことだ。
緊急事態宣言が明けて間もない6月下旬、萩生田大臣は東京都内の小学校を視察している。この学校は児童数の兼ね合いで、たまたま全ての学級が30人以下だった。ゆとりある教室を目にした萩生田大臣は、周辺にこう語ったという。「クラス規模はこのくらいのほうがいい」。これをきっかけにして、文科省は来年度の予算編成において、小中学校の学級基準を一律に30人まで引き下げるという思いきった要求をする方向へと舵を切った。今後、更に少子化が進むことを念頭に、『現状の教員数を維持すれば大きな追加の財政負担がなく実現できる』との青写真を描いた。
ただ、実際の財務省との交渉は難航を極めた。財務省は少人数学級が学力に与える効果について「効果はないか、極めて小さい」と主張。また、小中学生が新型コロナで重症化する例が極めて少ないことが明らかになってきたことで、「コロナ禍」を導入理由に掲げる文科省の主張は説得力を失っていく。議論は平行線のまま時間だけが過ぎていった。
12月11日、菅義偉首相は萩生田文科相に対し、「来年度予算で決まっていないのはこの件だけだ」と早期の合意を促した。交渉のタイムリミットである麻生太郎財務相と萩生田文科相の直接折衝の日程は同17日と決まった。最後まで事務レベルで合意の可能性を探った結果、財務省の譲歩を引き出せたのはその前日だった。文科省幹部は「いつもだったら、もっと早い段階で諦めていただろう。しかし、地方や与野党の応援、押しの強い大臣と導入に向けた条件がそろっており、簡単に降りるわけにはいかなかった」と語った。
今後は「35人学級」の導入に向けて小学校教員を増やす必要がある。小学校の教員採用試験の倍率は、全国平均で2・8倍(2019年度)と3倍を切り、教員の質の確保が課題となる。また、萩生田文科相は中学校の学級基準の引き下げを引き続き模索する考えを示しているが、小学校で「35人学級」の有効性を示すことができなければ、財務省の理解を得るのは難しいだろう。学校現場は約40年ぶりに得た成果を、子供たちの深い学びや教員の長時間労働の解消につなげていくことが求められる。