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教育ジャーナル Vol.6-3

みんなの安全 自分とみんなの命を守る力を育む(1)

安全教育の位置付け

みんなの安全 自分とみんなの命を守る力を育む(1)

 児童生徒をめぐる安全教育は重要で、近年は防災、感染症対策など、命を守る「生きる力」を育む安全教育の重要性が高まってきました。教職課程に「学校安全」が含まれたこともあり、改めて学校での安全教育への関心が高まることが予測されます。そこでお二人の教授に、学校安全教育の位置付けや目標、計画、推進等についてご執筆いただきました。

安全教育の位置付け

木宮敬信 常葉大学教授

安全管理の取組の充実

 学校安全の活動は、児童生徒等が自らの行動や外部環境に存在する様々な危険を制御して、自ら安全に行動したり、他の人や社会の安全のために貢献したりできるようにすることを目指す安全教育と、児童生徒等を取り巻く環境を安全に整えることを目指す安全管理、そして、両者の活動を円滑に進めるための組織活動という三つの主要な活動から構成されている。安全教育と安全管理は学校安全の両輪とされ、相互に関連づけて組織的に行う必要がある。例えば、児童生徒等が危険な状況を知らせたり、安全マップづくりのような簡単な安全点検に関わる体験活動に取り組んだりすることは、安全管理の取組の充実につながるだけでなく、安全教育の観点からも効果的であるとされる。
 学校における安全教育は、主に学校教育法等に基づき、各学校で教育課程を編成する際の基準として定める学習指導要領等を踏まえ、地域や学校の実態に応じて、学校の教育活動全体を通じて実施される。なお、学校安全の推進に関する施策の方向性と具体的な方策は、おおむね5年ごとに閣議決定される「学校安全の推進に関する計画」に定められており、これらを踏まえて学校安全の取組を進めていく必要がある。
 「小学校学習指導要領」の総則では安全教育に関して以下のように規定している(抜粋)。

・安全に関する指導については、体育科、家庭科及び特別活動の時間はもとより、各教科、道徳科、外国語活動及び総合的な学習の時間などにおいてもそれぞれの特質に応じて適切に行うよう努めること。
・それらの指導を通して、家庭や地域社会との連携を図りながら、日常生活において適切な体育・健康に関する活動の実践を促し、生涯を通じて健康・安全で活力ある生活を送るための基礎が培われるよう配慮すること。
・教育課程の編成及び実施に当たっては、学校安全計画など、各分野における学校の全体計画等と関連付けながら、効果的な指導が行われるように留意するものとする。

 つまり、各学校においては、安全に関する指導について、各教科において指導すべき内容を整理して、学校安全計画に位置付けることにより、系統的・体系的な安全教育を計画的に実施することとなる。

学校教育の目標

 安全教育では、日常生活全般における安全確保のために必要な事項を実践的に理解し、自他の生命尊重を基盤として、生涯を通じて安全な生活を送る基礎を培うとともに、進んで安全で安心な社会づくりに参加し貢献できるよう、安全に関する以下のような資質・能力を育成することを目標としている。
・知識・技能
 様々な自然災害や事件・事故等の危険性、安全で安心な社会づくりの意義を理解し、安全な生活を実現するために必要な知識や技能を身に付けていること。
・思考力・判断力・表現力等
 自らの安全の状況を適切に評価するとともに、必要な情報を収集し、安全な生活を実現するために何が必要かを考え、適切に意思決定し、行動するために必要な力を身に付けていること。
・学びに向かう力・人間性等
 安全に関する様々な課題に関心をもち、主体的に自他の安全な生活を実現しようとしたり、安全で安心な社会づくりに貢献しようとしたりする態度を身に付けていること。
 各学校においては、これを踏まえ、児童生徒等や学校、地域の実態及び児童生徒等の発達の段階を考慮して学校の特色を生かした目標や指導の重点を計画し、教育課程を編成・実施していくことが重要である。その中で、日常生活において、危険な状況を適切に判断し、回避するために最善を尽くそうとする「主体的に行動する態度」を育成するとともに、危険に際して自らの命を守り抜くための「自助」、自らが進んで安全で安心な社会づくりに参加し、貢献できる力を身に付ける「共助、公助」の視点からの安全教育を推進することが重要である。

安全教育の内容

 安全教育の内容は、生活安全、交通安全、災害安全の各領域について整理される。生活安全では、日常生活で起こる事件・事故の内容や発生原因、結果と安全確保の方法について理解し、安全に行動ができるようにすることが重要である。具体的には、安全な登下校の仕方、犯罪に対する行動の仕方、犯罪被害の防止、インターネット利用による犯罪被害の防止と適切な利用の仕方などが含まれる。
 交通安全では、様々な交通場面における危険について理解し、安全な歩行、自転車・二輪車等の利用ができるようにすることが重要である。具体的には、安全な道路の歩行や横断の仕方、交通機関利用時の安全な行動、自転車の正しい乗り方、交通法規の正しい理解と遵守などが含まれる。
 災害安全では、様々な災害発生時における危険について理解し、正しい備えと適切な判断ができるようにすることが重要である。具体的には、地震・津波や火災、風水(雪)害、落雷等の危険の理解と安全な行動の仕方、避難場所の役割や、地域防災活動の理解や積極的な参加、災害時の心のケア、災害情報の活用や備えについての理解などが含まれる。

教育課程における安全教育

 学校における安全教育は、児童生徒等が安全に関する資質・能力を教科等横断的な視点で確実に育むことができるよう、自助、共助、公助の視点を適切に取り入れながら、地域の特性や児童生徒等の実情に応じて、各教科等の安全に関する内容のつながりを整理し教育課程を編成することが重要である。
 具体的には、各教科において年間を通じて指導すべき内容を整理して、学校安全計画に位置付けることにより、系統的・体系的な安全教育を計画的に実施することが求められる。その際、家庭や地域社会との連携及び校種間の連携にも配慮することが重要である。
 また、児童生徒等の意識の変容など、教育課程実施状況に関する各データの把握・分析を通じて、安全教育に関する取組状況を把握・検証し、その結果を教育課程の改善につなげるなど、カリキュラム・マネジメントの確立を通じて地域の特性や児童生徒等の実情に応じた安全教育を推進することが求められる。

安全教育の進め方

 安全教育を効果的に進めるためには、危険予測の演習、視聴覚教材や資料の活用、地域や校内の安全マップづくり、学外の専門家による指導、避難訓練や応急手当てのような実習、誘拐や傷害などの犯罪から身を守るためのロールプレイングの導入等、様々な手法を適宜取り入れ、児童生徒等が安全上の課題について、自ら考え主体的な行動につながるような工夫が必要である。授業においては様々な危機事象についての知識学習が基本となるものの、学んだ知識を有効なものとするために、実践的・体験的な学習が不可欠である。各教科における指導については、前述したカリキュラム・マネジメントの視点が重要となる。特に、様々な自然災害の発生や、情報化やグローバル化等の社会の変化に伴い児童生徒等を取り巻く安全に関する環境も変化していることから、身の回りの生活の安全、交通安全、防災に関する指導や、情報技術の進展に伴う新たな事件・事故防止、国民保護等の非常時の対応等の、新たな安全上の課題に関する指導を一層重視し、安全に関する情報を正しく判断し、安全のための行動に結び付けられるようにすることが、重要であるとしている。

次回、「自分とみんなの命を守る力を育む(2) 教職免許法の改正による安全教育の必修化」につづく。