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教育ジャーナル Vol.9-2

コロナ禍の学校教育
(令和3年度全国学力・学習状況調査より)

コロナ禍の影響は、必ずしもマイナスばかりではなかった(1)
~突然の長期休校に、学校はどう対応したのか~

コロナ禍の学校教育
(令和3年度全国学力・学習状況調査より)

 令和3年度の全国学力・学習状況調査の結果が公表された(8月31日)。翌日の新聞にも記事が出たが、例年に比べて扱いは小さかった。紙面にはコロナ、アフガニスタン、パラ五輪に政局と、その時期は重要な出来事が満載で、扱いが小さいのは無理もなかった。
 しかし、未来を考えれば、教育は埋もれても仕方ない課題ではない。いきなり一斉休校からスタートした令和2年度の学校教育。コロナ禍の中、「子供たちの学力を低下させてはならない」「学校教育の歩みを止めてはならない」と使命感を持って頑張ってきた学校の当たり前や、いきなりの休校、クラスが分断された分散登校、友達の表情も見えないマスク生活にもめげずに頑張ってきた子供たちの事実を、2年ぶりにお伝えしたい。

コロナ禍の影響は、必ずしもマイナスばかりではなかった(1)
~突然の長期休校に、学校はどう対応したのか~

渡辺 研 教育ジャーナリスト

全国の学校が50日ほどの休校

 学校に限らず令和2年、令和3年と様々な活動が停滞している。どういう相関があるのかわからないが、この間、通常時よりも時がたつのを早く感じる。調査も1回空いただけなのに、前回がはるか昔のように思えてしまった。それでも、こうして学校における教育活動の様子を知ることができるのはうれしいし、安心する。
 昨年2月27日の全国一斉休校要請を受けて、大混乱の中で始まった令和2年度。質問紙調査では、特別に項目を設けて、新年度の休校中の様子を聞いていた。ここに表れた回答は、近年の学校教育史上、貴重な事実だ。まず、それを取り上げる。
 なお、この記事ではこれまで主に公立校の数値を取り上げてきたが、今号は国・公・私立の回答を見ていく。令和2年度は、全ての学校にとって危機だった。
 昨年5月中旬に行われたオンライン研修会には全国各地から参加者があったのだが、その時点で、まだ休校中だったり、すでに授業を開始したりと、地方によって状況はまちまちだった。実際には、学校はどのくらいの期間、休校を余儀なくされたのか。質問から書いておく。

◆令和2年4月以降の新型コロナウイルス感染症の影響による地域一斉の学校の臨時休業等の期間(短縮授業・分散登校を含み、春季休業を含まない。また、学校全面再開後に感染者が発生したなどの理由により個別に行われた臨時休業等は含まない)について、以下に当てはまる期間及び日数をお答えください。(選択式ではなく、具体的に「いつからいつまで」「うち、短縮授業・分散登校の日数」を答える形式。今回の記事では、原則として数値は小数点以下を四捨五入)

【小学校の臨時休業期間】
10日未満…3%
10~20日(※10日以上~20日未満、以下同様)…7%
20~30日…5%
30~40日…8%
40~50日…21%
50~60日…24%
60~70日…19%
70~80日…5%
80~90日…4%
90日以上…6%
その他・無回答…0.1%

【期間中の短縮授業・分散登校】
10日未満…61%
10~20日…32%
20~30日…6%
30~40日…0.5%
40~50日…0.2%
50~60日…0.1%
「それ以上」は計7校で、「その他・無回答」が1.1%。

 こんなに幅があったのかと、改めて驚いた。多くの学校では4月と5月が完全に休校で(55日程度)、6月に再開しても1週間~10日の短縮・分散を経て、6月の半ば過ぎからようやく通常の日程に戻ったようだ。

【中学校の臨時休業期間】
10日未満…3%
10~20日…7%
20~30日…5%
30~40日…8%
40~50日…22%
50~60日…23%
60~70日…19%
70~80日…5%
80~90日…3%
90日以上…6%
その他・無回答…0.1%

【期間中の短縮・分散登校】
10日未満…58%
10~20日…34%
20~30日…6%
30~40日…0.5%
40~50日…0.2%
50~60日…0.1%
それ以上…(8校)
その他・無回答…1.5%

 中学校も小学校と同様の傾向だ。この時期の休校や短縮、分散についての判断は、学校ごとではなく各教育委員会が判断していた。国中が不安に包まれていた。

とにかく学習のプリント作成

 突然の臨時休業期間、どのように子供たちの学習意欲や学力の維持に努めたのか。調査では、具体的な11項目それぞれについて「全校で実施」「一部の学年・学級で実施」「実施していない」「把握していない」を選択する。「全校」「学年・学級」について、多くの学校で実施された項目を順に挙げていく(以下、記事中の数値は小数点以下を四捨五入)。

【小学校・全校で実施】
「学校が作成したプリント等を配布」(電子メールや学校のHP等を活用して配信する場合を含む)…88%
「教科書に基づく学習内容の指示」…83%
「教科書会社その他民間が作成したプリント等を配布(電子メールや学校のHP等を活用して配信する場合を含む)」…66%
「児童の自由研究や自主学習ノート等の学習」…32%
「都道府県や市町村教育委員会が作成した『問題集』・『復習ノート』等の教材を活用した学習」…26%
「都道府県や市町村教育委員会が作成した学習動画を活用した学習」…24%

【小学校・学年・学級で実施】
「児童の自由研究や自主学習ノート等の学習」…53%
「都道府県や市町村教育委員会が作成した『問題集』・『復習ノート』等の教材を活用した学習」…24%
「公的機関や民間の音声・動画コンテンツ等を活用した学習」…21%
「教科書会社その他民間が作成したプリント等を配布」…20%
「テレビ放送を活用した学習」…20%
「都道府県や市町村教育委員会が作成した学習動画等を活用した学習」…19%

 一生懸命、教材の作成を行っていたことを思い出す先生方も多いことだろう。教育委員会の頑張りも伝え聞いている。残念なことに、「今となってはいい思い出」にはなっておらず、油断のできない状況はなおも続いている。この経験は緊急時対応のノウハウとして蓄積・活用していきたい。
 中学校の場合も具体的な項目は小学校と同じなので、表記は簡略にする。

【中学校・全校で実施】
「学校が作成したプリント等を配布」…88%
「教科書に基づく学習内容の指示」…83%
「生徒の自由研究や自主学習ノート等の学習」…47%
「教科書会社等が作成したプリント等を配布」…45%
「教育委員会が作成した『問題集』等の教材を活用した学習」 …26%
「都道府県等教育委員会が作成した学習動画等を活用した学習」…23%

【中学校・学年・学級で実施】
「生徒の自由研究や自主学習ノート等の学習」…27%
「教科書会社等が作成したプリント等を配布」…24%
「教育委員会が作成した『問題集』等の教材を活用した学習」…16%
「公的機関や民間の音声・動画コンテンツ等を活用した学習」…14%
「都道府県等教育委員会が作成した学習動画等を活用した学習」…13%
「学校が作成した学習動画等を活用した学習」…13%

 ある中学校のホームページで実際に「学校が作成した動画」を見た(授業形式)。「全校で実施」も合わせると29%(小学校は24%)。コロナ禍収束が見えない状況を考えると、学校が身につけておきたい授業方法かもしれない。

 ただ、これだとどうしても“講義形式”の授業になってしまう。11項目の中には「同時双方向型オンライン指導を通じた学習」があったが、実施(全校、学年・学級)は小学校6%、中学校9%にとどまった。
 後でもふれるが、一斉休校を機にICTの環境整備は一気に進んだ。今年度夏休み明けには、緊急事態宣言下で変則的な分散登校を実施する自治体もあり、在宅学習グループについてはタブレット端末の持ち帰り指示も出された。一方で「個別最適な学習」という政策課題もある。ハード面を生かしきるソフト面の工夫が、今後の大きな鍵になる。
 先の課題はともかく、「自主研究や自主学習ノートの学習」が小・中とも高い率だった。学校からの指示はあるのだろうが、児童・生徒自身が「この状況下で自分は何をしなければならないか」と考えて、学ぶ姿を想像して、なんだか頼もしく思えた。

多忙な中でもアナログな対応

 次に、休業期間中の学習状況や生活状況の把握について聞いている。具体的な8項目(及び「その他」「特に行わなかった」)から、実施したことを全て答える(複数回答)。多い順に紹介するが、上位4項目は小・中とも同じだった。まずその4項目。

「電話やFAXにより行った」…小72%・中71%
「登校日を設定して学校で直接行った」…小59%・中69%
「家庭訪問により行った」…小40%・中45%
「電子メールやSNSを使って行った」…小18%・中17%。

 教師たちは教材作成に追われていた。それでも家庭訪問を行うなど、SNSで済ませてはいない。この“アナログ感”が、学校を温かな場所にしているのかもしれない。  以下の4項目も順に挙げておく。

【小学校】
「郵便により行った」…7%
「同時双方向型オンラインシステムを活用」 …7%
「児童が利用可能な相談窓口を周知・設置」 …6%
「オンライン学習支援プラットフォーム・学習管理システム等を活用」…5%

【中学校】
「同時双方向型オンラインシステム」…10%
「オンライン学習支援プラットフォーム」…9%
「郵便により行った」…9%
「相談窓口を周知・設置」…8%

 オンラインには“まだまだ感”はあるが、これは2020年前半の状況。今は飛躍的に増加しているはずだ。コロナ禍は、学校においてもアナログからデジタルへの転換を促している。

不安の中で計画的に家庭学習を

 一方、子供たちはこの期間に何を思い、どう過ごしていたのか。思い出を振り返り同級生との別れを惜しむ間もなく、いきなり学校が休校になり、あっけにとられたまま、子供たちは数十日もの休校期間を過ごしていた。
 児童・生徒質問紙には2つの質問があった。
 1つ目は、3つの項目について「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」「どちらかといえば、当てはまらない」「当てはまらない」「思い出せない」のどれかを選択する。「思い出せない」という異色の選択肢が、コロナへの不安を映しているように思える。

【小学生】「当てはまる」から順に数字だけ並べる。
「勉強について不安を感じた」…30%/25%/16%/22%/7%
「計画的に学習を続けることができた」…30%/35%/21%/9%/5%
「規則正しい生活を送っていた」…32%%/32%/20%/11%/5%

「学校に行けない」という異常事態の中で不安を感じつつも、前述、教師たちの頑張りが実を結んでいたようだ。学習ではないが、ある小学校では、ホームページの「学校だより」を毎日更新し続けて、登校はできなくても、学校と子供たちの気持ちとをつなげていた。

【中学生】(小学校と同様)
「勉強について不安を感じた」…34%/28%/16%/16%/5%
「計画的に学習を続けることができた」…11%/26%/33%/22%/6%
「規則正しい生活を送っていた」…22%/27%/25%/21%/6%

 中学生には授業がないのはつらかったようだ。当時の2年生でもこうなのだから、3年生はどんな気持ちでこの期間を過ごしていたのだろうか。
 オンラインで授業を実施できたある学校では、この時間になると生徒は制服に着替えて“授業を受けていた”そうだ。もちろん自発的に。生徒たちなりに生活にメリハリをつけるための工夫だったらしい。
 2つ目は、休校中、学校からの課題でわからないことがあったときはどうしていたかを、8つの選択肢から選ぶ(複数回答)。友達と一緒に勉強することはできなかった。ここにも「思い出せない」という選択肢がある。多い順に並べる。

【小学生】
「家族に聞いた」…79%
「自分で調べた」…62%
「友達に聞いた」…32%
「分からないことがなかった」…10%
「分からないことをそのままにした」…10%
「先生・友達・家族以外の人に聞いた」…9%
「先生に聞いた」…9%
「思い出せない」…5%

【中学生】
「自分で」…62%
「家族に」…44%
「友達に」…44%
「そのままに」…14%
「先生・友達・家族以外に」…12%
「先生に」…7%
「思い出せない」…7%
「分からないことがなかった」…6%

 こういう状況だから、子供たちは教師に頼れなかった。その分、自力で頑張った。教師にとってそれはうれしくもあり、ちょっと寂しくもあったのだろうか。

ICT活用が急速に進む予感

 この期間はICTの環境整備がまだ不十分だった。おそらく“課題発見・問題解決”の意味から、2つの質問が設定されている。
 1つ目は、「ICT環境がない家庭の児童・生徒に対して行った支援(配慮)」を7つの選択肢(「その他」「特に行わなかった」を含む)から複数選択。この点はむしろ、校内での整備が進んだこれからの課題だろう。
 支援の内容は、実は小学校、中学校とも同じ。
「紙媒体の教材や資料の配布」(小46%・中48%)が最も多く、次いで「特に行わなかった」(小43%・中36%)。課題の出し方や把握の仕方を見てもわかるが、長期休校はICTを活用せずに乗りきっていた。
 それでもすでに「PC・タブレット等の端末の貸与」(小10%・中14%)や「モバイルルータ等の通信機器の貸与」(小5%・中8%)という支援を実施できた学校もあった。
 2つ目は「家庭学習におけるICT活用について、どのような課題がありましたか」という質問。課題の具体例が15項目挙げられ、「当てはまる」や「当てはまらない」で回答する。多くの学校が“休校時点”での課題としていた項目を挙げる。
 環境整備に関係しては、「学校のPC・タブレット等の端末が不足」「周辺機器が不足」「学校の通信環境が整っていない」「学校のインターネット接続の通信速度が不十分」など、60~70%の小・中学校が課題としていた(「どちらかといえば」も含む)。「オンラインでの配信やWeb上での学習教材の不足」も70%以上の小・中学校の課題。 逆に、60~90%の小・中学校で「課題ではない」とされていたのが、ICTの活用に関して「教職員の協力」「保護者からの支援」「教育委員会の積極性」「校長が必要性を理解」。つまり、管理職も教職員も保護者も必要性を認識(痛感)していたわけだ。
 今年度は、環境整備は大きく進んでいるはずだ。「教職員のICT活用のスキルが不足していた」という課題はあったが、学校関係者にこの“やる気”が持続していれば、授業スタイルをはじめ、学校教育の姿に変化がもたらされる予感がする。
 ただ、当然それは、子供も大人も大勢の人々が集う場のぬくもりを、ちゃんと残した変化でなければならない。

(つづく)