学研『教育ジャーナル』は、全国の学校・先生方にお届けしている情報誌(無料)です。
Web版は、毎月2回本誌から記事をピックアップして公開しています。本誌には、更に多様な記事を掲載しています。
教育ジャーナル Vol.12-3
霞が関発! NEWS FLASH
公立中学校の休日運動部活動
~地域に移行する構想を検討~
霞が関発! NEWS FLASH
公立中学校の休日運動部活動
~地域に移行する構想を検討~
毎日新聞社 深津 誠
民間のクラブなどに移行か
スポーツ庁の有識者会議「運動部活動の地域移行に関する検討会議」は4月26日、2023~25年度の3年間に、公立中学校の休日の運動部活動の主体を、地域に移行することなどを盛り込んだ提言案を公表した。長年、学生スポーツの育成は、学校の部活動が担ってきたが、民間クラブなどが想定される「地域」に機能を移行する構想で、中学生のスポーツ環境は大きく転換される見込みだ。検討会議は5月に最終的な提言をまとめ、室伏広治スポーツ庁長官に提出する。文化庁は、文化部活動についても地域移行の検討を進める。
部活動は少子化の進展により、特に地方都市などでは一つの学校で多くの運動部を維持することが困難になり、合同チームの増加や廃部などが課題になっている。
一方、部活動を担う顧問の教員は、文部科学省が16年に実施した勤務実態調査で、中学校教諭の1週間当たりの平均勤務時間が63時間18分と、06年よりも5時間12分増加。土日の部活動に関わる時間が10年前よりも2倍の、2時間10分になったことが主な要因だった。
さらに、OECD加盟国を対象に18年に実施した調査でも、日本の小中学校教員の1週間の労働時間は約55時間と調査対象国・地域で最長。本来業務の教科指導や授業準備に充てられる時間が少なく、部活に追われる働き方が敬遠されて教員へのなり手が減少するなど、部活に関しては複合的な課題を抱えてきた。
参加する生徒の費用負担
概要は、23~25年度を改革集中期間と位置づけ、全国で休日の部活動を地域に移行する。次のステップとして、平日の地域移行も可能な地域は並行して実施する。受け皿は総合型地域スポーツクラブやスポーツ少年団、プロスポーツチームなどに加え、フィットネスクラブや民間事業者など様々な主体が想定される、財源はスポーツ振興くじ(toto)の助成も検討するなど。提言案では「抜本的な改革を進める上で最大で最後のチャンス」と不退転の決意を示した。
しかし、これまで教員の無償の長時間勤務によって支えられてきた休日の部活動が地域に移行されれば、参加する生徒には費用負担が生じる。
文科省の幹部は「対価を外部の事業者らに支払っても、スポーツを続けたいような環境が整備できるかが課題だ」と解説。困窮世帯などは費用を理由に部活動から遠ざかる懸念もある。検討会議ではそうした家庭の生徒の支援は不可欠だとして、委員から費用を補助する基金の創設などの実現を求める声もあがった。地域移行による費用は、生徒一人当たり年平均で1万7581円増額になるという民間機関の調査結果も検討会議では示され、今後財源の手当てが必要になる。
静岡県浜松市教育委員会は1~2月、一部の中学校の女子卓球部員の保護者にアンケートを実施。「受益者負担になった場合、地域部活動に参加するか」という質問に、約3割が「わからない」と答えた。
モデル事業では成果もあったが
スポーツ庁は21年度、47都道府県と12政令市の公立中学校で「拠点校」を設け、外部指導員を派遣する「地域移行」や、複数校で合同練習するなどのモデル事業に着手した。部活動に従事する教員の休日の出勤回数が減少するなど、一定の成果はあった。一方で、中体連の大会で合同チームが参加できるかどうかや、指導者への報酬の負担、指導者の確保などの課題を指摘する声があがった。熱心な部活動指導者が、教員でありながら地域の活動でも指導するケースを「兼業兼職」として許可するが、民間と現在の部活動の指導者がどうすみ分けをしているのかなど、全体像が見えてくるのはこれからだ。
保護者や地域に受け入れられるかも未知数で、スポーツ庁のモデル事業で合同部活動の実証研究をした関西地方のある自治体の教委では「合同部活動の推進を打ち出せば、保護者に対するマイナスなメッセージになる」として、既存の部活動の合同には踏み込まなかった。
この自治体では、新たにフィットネスやヨガのプログラムを作り、複数の中学校の希望する生徒に参加してもらう形式をとっており、教委の担当者は「部活か趣味かもあいまいな内容といわれると厳しい。地域移行は大きな変化だが、保護者の間にその意味が浸透しているとはいえない」とこぼす。
教員という「公」が無償で担ってきた部活が、民間に移行したとき、学校教育の一環であった部活動はどう変わるのか。現場の試行錯誤はこれからになりそうだ。