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教育ジャーナル Vol.17-6
特別座談会 社会に開かれた学び
多様性×学校教育
誰一人取り残すことのない学校教育を「多様性」から考える③【全4回】
特別座談会 社会に開かれた学び
多様性×学校教育
誰一人取り残すことのない学校教育を「多様性」から考える③【全4回】
■物部博文教授(横浜国立大学教育学部)
■髙木信俊先生/リモート参加(東大阪市立鴻池東小学校)
■中島潤さん(認定NPO 法人ReBit)
※所属、肩書は座談会開催時のものです。
特別座談会 社会に開かれた学び 多様性×学校教育の第3回。
今回と次回で「誰一人取り残すことのない学校教育を「多様性」から考える」をテーマにしてお話を伺いました。
進行・文/岡本侑子
子どもたちの実体験を
生きた学びに変える
――現代は国籍や貧困など、社会の変化による多様性が生じています。これらについて、先生方が現場で感じられていることや授業での実践を教えてください。
髙木 私が4年生の担任をしていた年の2学期に中国から編入してきた子がいて、初めて、国が違えば文化や考え方が違うということを痛感しました(①参照)。日本と中国の学校の仕組みはまったく違います。掃除の時間や給食当番があることなど、日本独自のシステムは、その子にとっては理解しがたいことでした。
実際、クラスの中から「あの子がちゃんと動いてくれない。やってくれない」と、私に訴えてくる子が出てきました。言葉が通じないことで、互いにうまくコミュニケーションが取れないフラストレーションも重なり、不穏な空気の流れを感じた私は、互いに相手をわかりあおうとすること、『相互理解、寛容』という点を子どもたちと一緒に考えていこうと、ある教材を使って道徳授業を行いました。
教材は、自分の国では掃除当番の習慣がなかった転入生に、クラスのみんなで掃除の仕方を教える内容で、話し合いの中で、転入生が暮らしていた国の学校では清掃員が掃除をしていることを知ります。クラスの子たちの「何度言っても、なぜ掃除をしないの?」という視点から、転入生の気持ちになって考えていくと、互いの国の文化や習慣の違いを理解し、「互いにわかり合おう」「違いを受け入れよう」の気持ちが大事だという話になっていきました。
教材の内容が、クラスが直面している問題と酷似していたので、「教材に登場する転入生と同じ状況かもしれない」と、周りの子どもたちが考えるようになり、接し方に変化が見られるようになりました。クラス内に中国にルーツをもつ子がいたので通訳をお願いしながら、どうにか転入生とコミュニケーションを取ろうとする姿が増えました。実際に、自分たちの身に起きている課題と重なる教材で授業を行うことができ、とてもよかったようです。一方で、物事の考え方や価値観に対する固定観念や偏見は、家庭環境の影響も大きいと感じています。だからこそ、系統的に発達段階に応じて授業を行うことが大事だと思います。
6年生になると、社会科との関連も出てきますので、私が行った実践例をご紹介します。条約改正に向けて日本の歩みを学習するところで、韓国併合についても考えます。
学習過程で日本側、朝鮮側それぞれの視点を考えます。クラスには朝鮮にルーツをもつ子がいて、グローバル化が進んだ今を生きる子どもたちにとって大切な機会だと考え、道徳の授業はこの点に併せて『奴隷解放の父−リンカン−』を使った授業を行いました。リンカンの正義と南部の人たちの正義、つまり、互いに「こっちが正しい」という考え方があることを理解した上で、子どもたちからリンカンの正義「だれもが平等」「奴隷を無くす」「正義を貫く」を支持する意見が出ました。
一方で、南部の人たちにも「自分たちを助けたい」という正義があるわけです。双方の違いはいったいなんなのかを考えると、南部の人たちは自分たちだけを見ているが、リンカンはどちら側も同じように見ている、つまり、「平等に見るということが大事だ」という意見が出ました。さらに、私たちが当たり前に大事だと思っていることを改めて考え直してみると、「平等や自由が本当に必要か?」と、どんどん話し合いが深まりました。平等に接することは、互いの違いを自分のことと同じように扱おうとすることで理解し合えるのではないか、誰もが同じ一人の人として見ることで、互いに信用できて安心できる関係になるのではないかという気づきが生まれました。
このような考えを深めていく経験を積み重ねることが大切だと思いながら、日々実践しています。
物部 学生から聞いた話ですが、社会科の教員養成向けの授業で、ブラジル人による講義があったそうです。そこで、最初の15分ほどはすべてポルトガル語で話をして「今の皆さんの状況が外国から来た子たちの状態ですよ」と。
神奈川県も外国にルーツをもつ子がたくさんいるので、教員養成時にこうした学びがあることはとても大事だと思います。髙木先生のように、クラス内に外国にルーツをもつ児童がいることが、そのまま学習の機会を生みます。実際に衝突が生じたことで、子どもたちにとってはリアルに「どうしたらよいか?」と問う必要性が出ました。生きた学習材を、どの教科でどのように学んでいくのかということはいろいろあると思いますが、リアルな体験から深く考え、児童が発達していく学びに発展させていてすばらしいと思います。
よく、現場の先生方から「保護者の壁」という話が出てくるのですが、まずは、私たち教員が授業を通して子どもたちの発達を促していくことが第一だと話しています。1~6年生まで組織的に健康教育の実践をしている学校の子どもと保護者の調査では、保護者に子どもの学びが伝わっていたという結果が出ました。教員は、子どもたちの発達を促すために授業をしますが、しっかりと保護者にも伝わっていることがわかったので、まずは、子どもたちに今のこの課題にどのように向き合うかについての取組が大切で、結果として保護者に伝わっていくスタンスがよいと思います。教員養成の段階では、いろいろな学校に行ってたくさんの子どもたちとかかわり、大学に戻って「では、どうしたらよいか?」を繰り返していきますが、子どもたちと同様に、さまざまな課題に対して問いを向け、考えを深めていくことが大切です。
【④へ続く】
次回の予定
7月10日(月)特別座談会 多様性×学校教育④
※次回のタイトルは変更になることがあります。ご了承ください。