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教育ジャーナル Vol.19-3
■学校改革
“学校の当たり前” は、これからも
“当たり前”なのだろうか。
変えられないものはない
第3回 新潟市立白新中学校の部活動改革(全3回)
■学校改革
“学校の当たり前” は、これからも
“当たり前”なのだろうか。
変えられないものはない
第3回 新潟市立白新中学校の部活動改革(全3回)
教育ジャーナリスト
渡辺 研
学制150年だという。戦後、新たな学校制度がスタートしてからでも80 年近くがたつ。
その間、子どもや学校を取り巻く社会そのものは大きく変化した。
それでも変わらない“学校の当たり前”には無理があると、教師たちは薄々感じていたのではないか。
人がいない、忙しすぎる、課されることが多すぎる……。
学校は今、大きな課題に直面している。
もはや“今までどおり” という選択肢はないだろう。
“学校の当たり前”ではない取組の第3回は、部活動改革の事例だ。
Ⅲ 放課後をデザインする
――新潟市立白新中学校の部活動改革
生徒不在の部活動改革
「とにかく、土日だけでも部活動の地域移行を!」という動きになっている。
具体的には、中教審の平成31年答申に続くこんな話からだ。
◆休日の部活動における生徒の指導や大会の引率については、学校の職務として教師が担活動の指導を望まない教師が休日の部活動に従事しないこととする(「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」令和2年9月)
「勉強と部活の両立」が中学生の〝当たり前〟だった。その一方を学校生活から切り離そうというのに、ここには生徒不在。
スポーツ庁が「子供のスポーツ機会確保・充実に向けた運動部活動改革の加速化」を目指す「地域における新たなスポーツ環境の構築に向けた基盤整備」(令和4年度の事業)の背景・課題をこうまとめている。
◆これまで多くの中学校等の生徒のスポーツに親しむ機会は、学校が運動部活動を設置運営する形で確保されてきたが、少子化や学校の働き方改革が進む中で、現行の、学校単位で活動し、指導は教員が担うという運動部活動の継続は困難であり、今後、生徒がスポーツに親しむ機会が大きく減少してしまう恐れがある。こうした事態を避けるため、学校の運動部活動に代わり、地域において運動・スポーツの機会を将来にわたって確保・充実できるよう、子供が地域でスポーツに親しめる環境を新たに構築していく。
当事者である中学生たちに理解を求めるメッセージとも読める。
そして、部活動の地域移行に関する提言が令和4年度6月にスポーツ庁から、8月には文化庁から出された(内容はほぼ同じ)。
教師の働き方改革は急務だ。だからといって、生徒をないがしろにするようなことを、教師たちが望むはずもない。
白新中学校(金山光宏校長)では、今年度から〝放課後の新たな形〟がスタートしている。まず、〝資料〟から紹介する。
部活動の現実を直視した上で
「部活動種目の適正化と新設の動き」として部活動改革に取り組んだのが平成31年度。生徒数の減少や指導者確保の困難さは、どの学校でも現実の課題になっていた。
令和元年度からは「部活動の成果とは何か」を検証する「スポーツマンシップ教育と部活動」に取り組んだ。「教育課程で育む資質・能力が、部活動でも育まれていなければならない」という考えからだ。取材の際、改革を推進する堀里也教諭からこんな数字を示された。
◆従来の部活動の時間(週)平日2時間×4日+週末3時間×1日=11時間(50分授業に換算すると13コマほど)。夏休みや冬休みにも試合や練習があるので、年間400時間を超えている。
部活動を行いながら、この数字は意識されてきたのだろうか。
さらに、こんな図(下)も示された。部活動に加入している生徒たちの志向だ。
志向別レベルピラミッド
下段の「エンジョイ層」は「やってみたい・運動したい・ただ楽しみたい」生徒たち。中段の「ミドル層」は「もう少しうまくなりたい・もう少し教わりたい」。「トップ層」は「よりレベルの高い競い合いをしたい・(中体連などの大会で)上位進出したい」生徒たち。公立学校ならどこもこんな志向に分かれるのではないか。そして三者が同じ種目を選択すると、「3年間ずっと補欠」という残酷な経験も強いられることになる。
今年度からの〝新たな体制〟が構想された後、4年度中に保護者説明会が行われ、大橋伸夫前校長から、従来の部活動の〝現実〟が次のように説明された。
・生徒の希望する活動(部)を準備できているわけではない。今後もできない。
・部活動は希望入部制であり、全員を対象とした教育活動ではない。
・部活動に入っていない生徒に対して、部活動と同じ成果を得るための活動を保障してはいない。
・部活動に関わる諸問題があったことは事実である(いじめ、人間関係のトラブル等)。
・限られた部活動であっても、専門的に指導できる教員を、常にそろえることはできない。
白新中学校だけではなく、全国のほとんどの学校に見られる現実だろう。
そして、改革の方向性が示された。
・全員を対象にした教育活動にエネルギーを注ぐことが大切。
・部活動に充てていた時間、労力を教育課程内の教育活動の充実のために使う。
・学校は、生徒に多様な経験をする環境を提供する役割に徹する。
さて、ここからどんな形を想像していただけただろうか。
学校・地域の役割分担と協働
改革の基本方針はこんな内容だ。
1 平日の活動も含めて検討する(「土日の外部移行」という動向に対して)
2 現状の部活動を移行するという考え方はしない
3 地域の協力を得て学校と地域で役割を分担する
そして、導き出されたのが、「放課後の時間を生徒がデザインする(自分で考え行動する・自分たちで考え行動する)」だ。 実現するために、「学校で保障する環境=気軽に友達と楽しめる、適度な頻度で行えるなど、多様なニーズに応じた活動を行うことができる環境」「地域で保障する環境=技能等の向上や大会等で好成績をおさめるための活動を行うことができる環境」と、それぞれが準備する環境を明確にした。
白新中学校の「放課後をデザインする」という考え方は、当然、学校運営協議会(CS)の了承を得ており、委員からの反対はなかったそうだ(このことは後でもふれる)。
そして、今年度から実施されているのが、下の図――「放課後をデザインし直す部活動改革」だ。
放課後をデザインし直す部活動改革
これは、前述のスポーツ庁、文化庁から出された提言に書かれた「目指す姿」(少子化の中でも、子どもたちが将来にわたりスポーツ・文化芸術に継続して親しむことができる機会の確保、地域の持続可能で多様なスポーツ環境・文化芸術に親しむ環境を一体的に整備し多様な体験機会を確保など)に一致する。
仕組みがどう運用されているのか、堀教諭に伺っていく。
生徒がデザインする放課後
実は堀教諭は、中・高校時代は常にトップを目指した〝バリバリの部活少年(バスケットボール)〟で、〝そもそも部活大好き教員(BDK)〟だったそうだ。一緒に改革を進めてきた梅津雅史教諭も同様に〝BDK〟で、ともに指導者としての実績も十分。だからこそ、部活動の〝明も暗も〟知り尽くしている。
「僕はこれまで、トップ層のニーズに合う指導をしてきました。エンジョイ層にとってはむしろ邪魔な指導者でした。そんなBDKがこの改革を進めてきたインパクトは大きく、他校にも強いメッセージが出せるのではないかと思います」
さて、上の時程表を見ていただく。「学校が保障する環境」は、月曜日と木曜日の15時45分(帰りの会終了後)~16時45分に「放課後活動」の時間を設定した。保障したのは時間帯と体育館等施設の使用。そして、そこで何をするのかを考え行動する自由。もちろん帰宅してもいい。つまり、これまで部活動がほぼ占有してきた〝放課後〟を、いったん〝何もない状態〟にして、生徒がその過ごし方を自主的、自発的にデザインできるようにしたわけだ(火・金曜日、17時以降も含めて)。
白新中学校が育てる生徒の姿(教育目標)は「知性の高い生徒になる」。そのために必要な資質・能力には「自ら考え判断する力」があり、生徒が「自分の放課後を自分で自由にデザインする」は、それにもかなう。
「約1時間×週2日」は生徒たちの生活実態から設定された。22年度に校内で実施した調査の内容(数値)をあげる。
◆運動部活動に参加していない生徒が1年生29%、2年生20 %。参加していても〝エンジョイ層〟が多い。部活動以外の習い事(スポーツ、ダンス・音楽系のレッスン、学習塾)に76%の生徒が通っており、部活動終了後に学習塾で学ぶ生徒も少なくない。
こうした現実から、「平日は週2、3日が限度で、週1、2日が適切ではないか」と考えて、「1時間×週2日」でスタートした。
こんな数値を見ると、部活動ガイドラインの「平日4日」も、多くの中学生の生活実態には合っていないように思える。「土日の地域移行」の前に、検証しなければならないことがたくさんあるのではないか。
活動は生徒の自主運営
「放課後デザイナー活動」の中身はこうだ。活動を立ちあげるのが「放課後デザイナー」。今年度については3月に学校が募集をかけ、生徒が「自分(たち)はこんなことがやりたい」と、放課後デザイナーとして手を挙げる。体育館、理科室など学校内の施設はほぼ使用可能。4月に放課後デザイナーから全校生徒への説明会・体験会があり、その後も掲示板などを使って活動を紹介する。
学期ごとにⅠ期~Ⅲ期と分け、各期で放課後デザイナーを募り、活動を更新する(継続は可能)。教師は、指導などは行わず、生徒たちが自主的に運営する。これも学びの機会。
「職員は〝顧問〟ではなく、安全に活動できているかを確認する担当者として各活動にかかわります。全職員が年間1回は何かの担当になります」
活動に終始、付き添うわけではないし、指導力が求められることもない。
大まかに言えば、自発的な〝同好会〟のイメージで、帰宅前に軽くスポーツをしたり、仲間と趣味的なことをしてレク的な時間としたりして過ごす。初年度の第Ⅰ期に行われている活動はバスケットボール、バドミントン、ドッジボール、ソフトテニス、卓球、ギター、写真、ガリレオクラブ(科学)。部活動色は残るが、人気はドッジボールなのだそうだ。
後回しにしてしまったが、部活動改革が説明されたとき、生徒はどう反応したのか。数年かけて進められてきたことなので、「何かが起きている」とは感じていたはずだ。
「これを説明したときは(昨年度)、生徒は部活動があって当たり前だと思ってきたので、放課後を自由にデザインできると言われてもよくわからず、ただ『何が始まるんだろう?』と思っていたようです」
新たな仕組みへの移行措置として設けられたのが、火・金曜日の枠。
「部活動はなくなっても『中学校での最後の大会だから出たい』という生徒が思いのほか多く(現在の2、3年生)、その気持ちもむげにはできないので、練習できる時間を設けました(令和5・6年度限定)」
この時間の後は、17時以降の「白新ユナイテッド」(*)で練習して大会を目指す。
※正式名称はHAKUSHIN UNITED。本文は白新ユナイテッドで表記した。
子どもたちが創造的に遊ぶ場
取材に伺ったのは木曜日で、「放課後デザイナー活動」も見せていただいた。
体育館ではバドミントン。デザイナー(男子)は「体育の時間にやって楽しかったから、それをみんなに伝えたくて企画しました」と言う。17時から白新ユナイテッドでサッカー。女子生徒はバスケ部に所属していた。「中体連にも出たいし、もう少しうまくなりたい」と言う。それでも「ジッとしているのは嫌だし、運動が好きだから」と、17時まではバドミントンで過ごす。
音楽室では音楽クラブ(吹奏楽)の生徒2人が自主練習。これも可能。
理科室にはガリレオクラブの3人。理科(科学)好きのグループで、「科学の甲子園ジュニアに出たい」と夢もある。それでも、女子生徒の一人は17時から音楽クラブに参加する。中学生の興味は一つだけではない。もう一人の女子生徒は「昨年は卓球部に所属して17時半まで部活動でした。今年は卓球はやめて、月・木の活動をやろうと決めました」。研究テーマは食虫植物。放課後活動で、卓球以上に興味があったことができる。個別最適・協働的な活動の場が放課後に実現した。
保護者説明会資料にもあったように、生徒が望むものすべてを学校が用意することはできない。代わりにこの環境を用意したら、それをうまく使える生徒たちが現れてきた。
「月・木で別々の活動をしてもいいし、名簿もつくりません。その時間に集まった仲間で活動する。〝ゆる部活動〟ではなくて、〝砂場〟のイメージなんですよ。危険じゃなきゃどう遊んでもいい。思い思いに活動できるようになった生徒たちを見ると、部活動は生徒たちを無理やり型にはめてきたのではないかという、ぼくの反省もあります」
Ⅰ期が終わるとデザイナーが集まって報告会を行い、より楽しむためにはどうすればいいかなど、活動を改良していく。
ところで、Ⅰ期に3年生の参加は少ないそうだ。やがてその理由も検証されるのだろうが、部活動が当たり前だった中学校生活から気持ちや生活習慣の切り替えがまだできていないのかもしれない。でも、夏休みが明けて受験勉強が本格化してくると、帰宅前にちょっと息抜きをしたくなる日もあるだろう。部活動と違って〝7月に引退〟はない。
白新ユナイテッドとは
一方、17 ~19時の活動は「地域で保障する環境」=白新ユナイテッドで行われる。
白新ユナイテッドは、「学校運営協議会から団体活動管理委託を受けた、学校長を長とした任意団体(の集合体)」。「スポーツ団体・文化活動団体は青少年の健全育成を目的とした団体であること」をはじめ、細かく条件が規定されている(白新中学校HPにアップ)。参加を希望する民間のスポーツや音楽などの団体は、白新ユナイテッドに登録を申請し、学校運営協議会が審査。承認されれば活動の委託を受ける。CSの機能を生かした学校と地域との協働によって進めてきた。
今年度、白新ユナイテッドで活動しているのは7団体(以下、クラブと表記)。バスケットボールが3クラブ。サッカー、ソフトテニス、野球が各1。音楽が1。
初年度でもあり、バスケットボールの1クラブ、サッカー、ソフトテニスは新たにクラブを立ちあげた。音楽は、コンクールに出たいという生徒たちの保護者が立ちあげた。白新中学校の音楽教師が兼職兼務(新潟市教育委員会が許可)の形で指導にあたっている(これもある意味で試験的にやってみている)。バスケットボールの既存のクラブの一つは、トップレベルを目指すジュニアクラブチームだ(U15全国大会にも出場)。
白新ユナイテッドの大きなポイントは、前記の手続きを経て活動の委託を受ければ、17時から19時まで学校施設が年間を通して利用できることだ。
クラブ側には年間を通して確実に活動場所を確保できるという大きなメリットがあり(バスケの場合はクラブごとに割当て曜日がある。土・日も可)、白新中学校生徒には移動の手間がない。民間のクラブなので他校の生徒も参加しているが、白新中学校は近隣校からのアクセスもよいため(市の規定では、活動場所への移動は保護者の送迎か公共交通機関を利用)、他校の授業終了後からでも、白新中学校での17時からの活動に参加することも可能だ。
「大規模校には補欠の問題があります。それならクラブでプレーしたほうが楽しいと言って参加している生徒もいます。白新ユナイテッドをセンターにして、近隣校の改革が進んでほしいという願いもあります」
当然、これから整備が必要な点はまだまだあるが、大まかに言えばこんな形で部活動改革は実際にスタートした。
「部活動をそのまま引き受けてくれる移行先を探そう」とか「土日の指導者・引率者を探そう」という発想ではなく、「放課後をデザインし直す」というビジョンを地域と共有しながら改革を進めてきた。正解なのか最適解なのかはまだなんとも言えないが、少なくとも生徒・教師・学校・地域にとっての一つの納得解として改革は動き始めた。
部活動相当の教育活動の創造へ
ところで、もう一度、上の時程表を見ていただきたい。「17時以降は、生徒会や行事など、生徒を残すような業務はしません。どうしても必要な場合は、生徒と保護者の了解を取ります」
生徒には白新ユナイテッド(有料)に参加する時間を保障しなければならないから、このことは教師間で徹底し厳守している。
そこで何が起きたのか。教師も、放課後をデザインできることになった。もちろん、17時退勤も可能だ。
「余裕が生まれたので、何か生徒に還元できることがやれます」と梅津教諭はおっしゃる。
これまで部活動が果たしてきた価値を問い直し、それ相応の価値を生み出せる教育活動を創造したい。きっとそれが部活動改革に並行してもつ教師の思いだ。
学校運営協議会への説明では、「働き方改革」にはいっさいふれなかったそうだ。
「部活動イノベーションを起こして放課後をデザインし直して、子どもたちの可能性を引き出したいとお話しました。『そのための部活動改革をしてくれるのだね?』と共感していただいて、これが承認されました」
教師が最も真剣に考え、熱く語れるのは、やはり「子どもたちのために」だ。
保護者説明会で挙げられたように、部活動にはさまざまな問題が存在し、改革は必須だ。学校間の連携や地域の力も借りながら、生徒のためにその問題をどう解決しよう……「地域移行ありき」ではなく、そう考えたほうが自由な発想や有意義な議論ができそうだ。
【了】
次回の予定
11月27日(月)
幼保小連携の取組はどう続けられてきたか
※次回のタイトルは変更になることがあります。ご了承ください。