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教育ジャーナル Vol.21-2

■ 幼保小の架け橋プログラム

「架け橋」期の教育の基本と経緯などを振り返った第1回。
第2回では、架け橋は何を求めているのか、そのカリキュラムについて考える。

■幼保小の架け橋プログラム

「架け橋」って何?
幼児教育や学校教育に何を求めているのか
~「幼保小の協働による架け橋期の教育の充実」に書かれたこと

【全4回】第2回

教育ジャーナリスト 渡辺 研

「架け橋」期の教育の基本と経緯などを振り返った第1回。
第2回では、架け橋は何を求めているのか、そのカリキュラムについて考える。


架け橋は何を求めているのだろう

幼保小の協働には課題が多い

 改めて「学びや生活の基盤をつくる幼児教育と小学校教育の接続について~幼保小の協働による架け橋期の教育の充実~」(以下、「審議のまとめ」)を読む。求めるものは、「架け橋期の教育の充実」を図るための「幼保小の協働」。
 現状では「幼児教育施設の多様性を生かしながら、幼保小の協働により接続期の教育の充実を実現していくためには、未だ数多くの課題がある」と「審議のまとめ」はいう。
 小学校は、年長児が慣れ親しんだ歌やゲームや本などの情報を各園から収集してスタカリに生かし、子どもたちが安心して学校生活に慣れるよう配慮してきた。これは幼保小連携の成果に違いないが、協働とはいえない。「審議のまとめ」では、「架け橋」をこう〝定義〟した。
 本審議まとめは、幼保小という異なる施設類型や学校種にまたがる5歳児から小学校1年生までの2年間を「架け橋期」と称して焦点を当て、当該時期の教育(以下、「架け橋期の教育」)の重要性について、幼保小の先生はもとより、家庭や地域をはじめ、子供に関わる全ての関係者に幅広く訴えることを目的としたものである。
 そして、こう説明する(抜粋)。

●架け橋期の期間については、幼児教育と小学校教育の教育課程の構成原理や指導方法等に様々な違いがあるため、幼保小の教職員が相互理解を図って円滑な接続を実現し、それぞれの教育を充実するためには、数か月程度の短い期間では不十分であり、長期にわたって取り組むことが必要であると考えられる。また、後述する幼保小の協働による「架け橋期のカリキュラムの作成及び評価」(年度単位)の実効性の点から(中略)2年間とした。
 
 画期的な発想ではない。わざわざ「架け橋期」という言葉を使う必要もなさそうだが、ことの経緯を考えると、「やっとこうなった」のに、なかなか意識がそうならないことへの幼児教育サイドの「今度こそ」の意気込みのようにも思える。もちろん、エモーショナルな話ではなく、本当は大事なことだ。

〝主体・対話・深い〟の原型がある

 「審議のまとめ」が出る前に「幼保小の架け橋プログラム」という言葉が登場している。

「幼保小の架け橋プログラム」は、子供に関わる大人が立場の違いを越えて自分事として連携・協働し、この時期にふさわしい主体的・対話的で深い学びの実現を図り、一人一人の多様性に配慮した上で全ての子供に学びや生活の基盤を育めるようにすることを目指すものです。(幼保小の架け橋プログラムの実施に向けての手引き・初版より)

 「本プログラムは、架け橋期に求められる教育の内容等を改めて可視化したものであり」といい、「実施にあたり、関係者で共有し大切にしていきたい視点」として、「子供の学びや生活に関する視点」「プログラムの実施に関する視点」が、数項目ずつ挙げられている。「実施」に、気になった視点が3つあった。

〇形式的な取組とならないよう、家庭や地域も一緒に、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を手掛かりに、子供の姿を起点に話し合いを深めましょう
〇幼保小の教育のつながりを意識した活動が、子供の豊かな体験を生み出し、主体的・対話的で深い学びの実現につながります
〇施設類型・設置者・学校種を越えて、幼保小の先生が、気軽に話し合える関係を構築し、対話を大切にするとともに、主体的・対話的で深い学びの実現に向けて協働して取り組み、発信しましょう

「気軽な対話」とか「協働」とか、大人たちが何をすればいいのかが見えてくる。
 気になったのは「主体的・対話的で深い学びの実現」だ。〝小学校以降の学びを意識した活動を幼児教育に求めているの?〟と読んでしまったのだが、とんだ間違いだった。
 幼稚園教育要領(第4 指導計画の作成と幼児理解に基づいた評価 3 指導計画の作成上の留意事項)には、こう書かれていた。

(2)幼児が様々な人やものとの関わりを通して、多様な体験をし、心身の調和のとれた発達を促すようにしていくこと。その際、幼児の発達に即して主体的・対話的で深い学びが実現するようにするとともに、心を動かされる体験が次の活動を生み出すことを考慮し、一つ一つの体験が相互に結び付き、幼稚園生活が充実するようにすること。
 
 保育指針には言葉は登場しないが、3歳児以上の子どもたちの人間関係の中では「友達と楽しく活動する中で、共通の目的を見いだし、工夫したり、協力したりなどする」ため、保育者は「子どもが互いに関わりを深め、協同して遊ぶようになるため、自ら行動する力を育てるとともに、他の子どもと試行錯誤しながら活動を展開する楽しさや共通の目的が実現する喜びを味わうことができるようにすること」と、同様のことが書かれている。
 幼児期の子どもたちは、環境や素材を使って思い思いに遊び始め、夢中になり、やがて、他の子の遊びに興味をもった子が寄ってきて、さらに工夫しながら遊ぶようになる。
 田村学教授は「本気で真剣になって遊びに没頭している幼児期の子どもの姿こそが、主体的・対話的で深い学びの原型だと思います」とおっしゃった。
 子どもたちにはこんな力も育っている。

架け橋期カリキュラムを作成

 あえて「架け橋期」と設定し、幼児期に培った資質・能力を小学校でさらに伸ばしていくために、幼保小が意識的に協働して子どもの発達や学びをつなぎ、それによって生涯にわたる人格形成や学びの基盤をつくることが重要だといい、「審議のまとめ」では、「架け橋期」の教育内容や指導方法の工夫を促す。
 架け橋期は、子どもが遊びを通した学びや成長を基礎として、小学校において主体的に自己を発揮しながら学びに向かうことを可能にするための時期である。そのため、小学校の入学当初においては、幼児期において遊びを通して育まれてきた資質・能力が、低学年の各教科等における学習に円滑に接続するよう教育活動に取り組むことが求められる。
 ここまで見てくると、「幼保において〝も〟主体的に~」と捉えたくなる。
 幼稚園教育要領の「小学校教育との接続に当たっての留意事項」には、「(2)幼稚園教育において育まれた資質・能力を踏まえ、小学校教育が円滑に行われるよう、小学校の教師との意見交換や合同の研究の機会などを設け、『幼児期の終わりまでに育ってほしい姿』を共有するなど連携を図り、幼稚園教育と小学校教育との円滑な接続を図るよう努めるものとする」と書かれている。
 当然、「審議のまとめ」でもいっていることは同じだが、単なる「円滑な接続」ではなく、「幼児から小学生への育ちを確実につなげよう」と念を押す。その上で、「~を共有するなど連携を図り」の部分を具体的にして、徹底するよう「幼保小の協働による架け橋期のカリキュラムの作成」を提案する。
 
 幼保小が相互理解を深めるためには、幼保小が協働し、共通の視点を持って教育課程や指導計画等を具体化できるよう、架け橋期のカリキュラムを作成することが重要である。(具体的には)「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」等や小学校学習指導要領を参照しながら、子供の実態等を踏まえて、幼保小が協働して「期待する子供像」や「育みたい資質・能力」を明らかにするとともに、それを基にして「園で展開される活動」や「小学校の生活科を中心とした各教科等の単元構成等」等を具体的に明確化していくことが考えられる。そして、このような取組を幼保小それぞれのカリキュラム・マネジメントと連動させていくことが大切である。(抜粋)
 
 順を追って見てくると「確かにそれが大事だ」とわかる。すでに幼保小協働でカリキュラムを作成・実施している園・学校もあるはずだが、スタカリのような短期間のカリキュラムとは違って、実際には簡単ではなさそうだ。では、どう手をつければいいのか。

架け橋期のカリキュラムとは

「架け橋カリ」の見本

 この記事では、架け橋期のカリキュラム(以下、「架け橋カリ」)をどう作成するかは取りあげない。手順などを説明するよりも、代わりに、見本として各種の資料を見ていただくほうが、間違いがないと思ったからだ。 
 文部科学省のウェブサイトから「幼保小の架け橋プログラム」で検索すると、「審議のまとめ」をはじめ、まさに〝関係資料一式〟を見ることができる。「幼保小の架け橋プログラムの実施に向けての手引き(初版)」のほか、全国の都道府県・市町19のモデル地域(文部科学省委託事業)の取組内容も公開されている。「これならやれそう」と思う事例を参考にしていただくのがいいのではないか。
 個別には、例えば滋賀県教育委員会のウェブサイトで「幼保小の架け橋プログラム事業」で検索すると、「学びをつなぐ幼保小架け橋ガイドブック『架け橋期カリキュラムを作成しよう!』」というかなり詳細なガイドや、県内市町の園・学校(便宜上、以下、学校区と表現)の「架け橋カリ」(学びに向かう力推進事業・幼保小の架け橋プログラム事業取組のまとめ)も見ることができる。

「大綱」~「期待する子ども像」

 ただ、事例の「架け橋カリ」もかなり綿密に作成されているので、いきなりそれを見ると「これは無理」と思ってしまうかもしれない。そこで、田村学教授に伺った基本的な考え方やポイントを紹介する。
 
 ーモデル地域は道県や市町という単位。ここで方針や方向性が示され、学校区が具体的に「架け橋カリ」を作成する。県や市が主導する場合、どこに留意するといいのか。
 「上にいくほど緩やかなほうがいいと思います。県レベルでは『大綱』くらいの方向性、市レベルでは、『市として期待する子ども像』でもいい。そして『この時期には特にこういうことを大事にしましょう』というポイントが示されれば、それをもとに具体的に園では活動を工夫し、小学校では教育課程を考える。そうすれば実現の可能性が高くなります」
 
 今、小学校には多くの園から子どもたちが入学してくるし、園から子どもたちは複数の小学校に入学していく。この状況では、そもそも、学校区をどういう組み合わせでつくればいいのか、さっそく足踏みしそうだ。
 
 「例えば、うちの市では架け橋期に『人との関係がとれて、自分から物事に取り組める子どもを育てたい』とメッセージが発信されたとします。5歳児ではそれを意識しよう、1年生ではそれを大事にしようということが、市内のどの園、どの学校でも共通に位置づけられれば、幼児教育と学校教育とがつながり始めるきっかけになりますね」
 
 無理に学校区をつくらなくても、まずは学校教育目標や、各園の個性的な方針との整合性を図りながらそのメッセージに基づいてそれぞれが教育課程や活動を工夫する。
 その際、子どもが入学する幼保小間で情報交換の場を設けて、子どものリアルな育ちを参考にしながら「10の姿」や主体的・対話的で深い学びを語り合えば、もっとつながりを意識した工夫ができて、〝ゆるやかな学校区〟での「架け橋カリ」がつくれそうだ。

 「こんなふうに子どもは成長するのだということがわかると、小学校以降の認識が変わっていくと思います。『架け橋』は、『教師は意識の転換を図ろう』といっているように思います。幼児期の資質・能力や主体的・対話的で深い学びを、きちんと捉えることが学習指導要領の方向性にもかなうことになる。『架け橋』は、小学校の先生方が幼児期の子どもたちの学びを、丁寧に捉えるチャンスだと思います」
 
 子どもはこんなふうに育ってきて、こんなふうに育っていくのかと、子どもの成長にかかわる大人同士が子どもの姿で語り合うことは、それ自体、楽しいはずだ。「架け橋カリ」とは出来上がったカリキュラムだけをいうのではなく、こうした人と人とのかかわりも含むようだ。本質的な「幼保小の協働」とは、そういうことなのかもしれない。


【第3回へ続く】

次回の予定

幼保小の架け橋プログラム 第3回
※次回のタイトルは変更になることがあります。ご了承ください。