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教育ジャーナル Vol.22-1

■ 授業参観

今また、不易であるための流行
~日本の先生たちはすごい!

■授業参観

今また、不易であるための流行
~日本の先生たちはすごい!

【全4回】第1回

教育ジャーナリスト 渡辺 研

 
比較的最近の中教審の分科会などの議論の中に、久しぶりに「不易と流行」※という言葉を見つけた。
まさに今、「学校教育の『不易と流行』を考えてみよう」と言われているように思う。
いつの間にか、学校に託された役割は膨大に膨れあがってしまった。本質を揺るぎないものにするために、
授業を改善し、ICT を活用し、前年踏襲の仕組みを変えてみる。ようやく、そんなふうに学校が動いている。
学校教育の代表である授業は、どう変わってきているのか。

※「不易流行」蕉風俳諧理念の一つ。解釈には諸説ある。一説に、俳諧には不易(永遠に変わらぬ本質的な感動)と流行(ときどき新味を求めて移り変わるもの)とがあるが、不易の中に流行を取り入れていくことが不易の本質であり、また、そのようにして流行が永遠性を獲得したものが不易であるから、不易と流行は同一であると考えるのが俳諧の根幹である、とする考え方。(学研・四字熟語辞典より)


 現行の学習指導要領の改訂が議論されている過程で、たびたび、下の二つの三角形を目にした。

 
 
 このうちの「どのように学ぶか」(=授業改善の進み具合)を4校の授業を通して見せていただいた。アクティブ・ラーニングから始まって、各学校・教師はもうずいぶん長いこと主体的・対話的で深い学びの視点による授業改善に取り組んできているが、学習指導要領が全面実施となってからだと、〝まだ〟小学校は4年目の途中、中学校は3年目の途中だ。不意に登場してきた「個別最適な学び」「協働的な学び」も気にかかるところだが、まずは授業改善が最優先だ。
 ただ、資質・能力の三つの柱は「教師が育成する」のだが、もう一つの三角形は、どれも主語は「子どもたち(学習者)が」だ。「どのように学ぶか」――授業改善は教師主導で進められるが、同時に子どもたちが学習者として自立する(教師が意識的に自立を促す)ことも含まれているはずだ。今回はそういう観点も意識して参観した。

◆山形県河北町立谷地南部小学校・第3回授業研究会より

自由進度学習――子どもたちが主体的に進める授業

「うん? これはなんだ?」

 「金曜日の3時間目」の6年生の公開授業の指導案を事前に送っていただいた。ひと目見て、その時間にどんな授業が行われるのか、まったく見当がつかなかった。
 谷地南部小学校(小山田聡校長)は全学年とも単級の学校。したがって、金曜日の3時間目に公開されるのは6年生(33名)1学級(荒木秀樹教諭)の授業なのだが、送られてきたのは前ページの写真(実際の指導案ではなく単元の内容を示したもの)のような3教科が並んだ指導案だった。
 指導案の内容を少し説明する。

【国語科】「パンフレットを作ろう」
もう少し具体的にいうと「5年生に紹介する『修学旅行パンフレット』を作ろう」。

 谷地南部小では、説明が必要な特色ある教育活動をいくつも行っているので、指導案の「教材及び児童の実態について(国語科を中心に)」をまず紹介する。
〈本単元においては、先月(9月)の修学旅行において集めた町や施設の情報を用い、次年度修学旅行に行く5年生に紹介するパンフレット作りを行う。児童は昨年度から、総合的な学習の時間に「そうだ、〇〇へ行こうプロジェクト」として、修学旅行の行き先から自分達で考えてきた。様々な考えが出る中、ツアーコンダクターの力もお借りして、最終的には福島への修学旅行を決め、先月実施した。紆余曲折を経て作り上げた行程(考え)であるため、子どもたちの思い入れは強い。その思い入れのある行程を、5年生にパンフレットの形で推薦する。自分たちの思いだけを伝えては、相手は納得してくれない。客観的事実である根拠を示す。〉
 修学旅行の行き先は、目的・時間・費用を限定して、3学期に5年生自身が「どこへ、何をしに行きたいか」を決める。それが「そうだ、〇〇へ行こうプロジェクト」。昨年度の6年生は、県の日本海側でサーフィン体験。子どもたちが真剣に話し合って出した結論は尊重され、こういうことも実現する。
「与える(ギブ)教育よりもつかませる(キャッチ)教育が尊い」が教育活動のベースにあり、その視点で見ると、当日判明する「金曜日の3時間目」の真意も理解できる。
 本時は、修学旅行時の班をそのまま残したグループで「各自が自分の担当部分の下書きをする」。その際、「客観的根拠を用いて、相手が納得する文章にする」のが目標。

【社会科】「貴族のくらし」
「日本風の文化(国風文化)とはどのようなものか」レポートにまとめよう。

 本時は、「日本風の文化」とはなんだろうか、各自で調べ学習をする(個人学習)。目標は、「教科書などの資料を用いて必要な情報を集め、どのようなものが日本風文化なのか理解することができる」。
 社会科は補足の説明は必要ないと思う。

町の振興を当事者として考える

 総合的な学習の時間(PBL~問題解決型学習)は、修学旅行とはまったく関係がない学習を行う。

【PBL】「河北町をよりよくするために」
少し具体的にいうと「河北町をよりよくするために、自分たちで解決策を考え、プレゼンしよう」
10月から3月まで続く単元。

 河北町は「雛とべに花の里」と呼ばれる。江戸時代、特産品のべに花を京都に運び(最上川船運)、帰り荷で京都で仕入れた生活用品を町に運び込んだ。その一つが雛人形で、今も当時の雛人形が保存されている。そんな町なのだが、旅行客にとって交通の便は必ずしもよくはない。
 6年生は「ひなの湯」(温泉のある宿泊施設)と「道の駅」をターゲットに、どうしたらそこがにぎわうのかを考える。その際「なぜ自分は行かないのか」「どうしたら自分は行きたいと思うのか」と自分事として考える。そしてプレゼン。プレゼン先は町長、河北町べに花の里振興公社。学習にとどまるのではなく、当事者として地域の振興を考える。
 こんな背景もある。河北町児童動物園(山形県内で唯一の動物園)が、改修に伴うクラウドファンディングを実施した。その返礼品になったエコバッグは、この6年生が5年生のときに出した案が採用されたものだ。この成功体験が「声は届く」と、自信やさらなるモチベーションになっている。
 小学校の学習で、「地域」といえば、たいていは校区のことだが、谷地南部小の子どもたちにとっては「雛とべに花の里」全体が「地域」。一人1台端末の時代だ。そのくらいの広がりも可能だ。教師にとっては6年生といえども「子どもたち」なのだろうが、年に何回かの参観で出会う、特に高学年の児童は、それほど子どもには見えない。
 本時は、情報やアイデアを整理・分析して、グループ(修学旅行班とは別)としての解決策(プレゼン内容)を一つにしぼる。

3教科の学習が同時進行で

 では、この3つの指導案が「金曜日の3時間目」にどのように実施されるのか。指導案では、3教科に相互の関連は見当たらない。カリマネを意識して関連をもたせることもあるが、必ず関連性をもたせようとすると、このような同時進行の学習は気軽にはできない。
 子どもたちのノートに書かれた「今週の時間割」を見せてもらった。Aさんはこの日の2時間目は社会、3時間目はPBL。でもBさんは2時間目がPBLで3時間目が社会。再び「?」だ。子どもたちに最初に示される「今週の時間割」には6コマの空きがあり、そこに国語、社会、PBL各2コマを自由に当てはめて「マイ時間割」をつくる。教科の数や組み合わせは単元の内容によって変わる。そして「金曜日の3時間目」(2時間目もだが)は、一人の〝授業者〟のもとで3教科が同時進行する「マイ時間割学習」であり、「自由進度学習」。「個別最適な学び」「協働的な学び」の具体的な例として、実践する学校が徐々に現れてきている(マイセレクト学習という言い方もされる)。
 谷地南部小の場合は、もっと違った背景やねらい(「ギブよりキャッチ」のような)があり、授業そのものにも成果と課題があるのだが、それは〝授業後〟に振り返る。ともかく授業の様子を見たまま、感じたままお伝えする。




【第2回へ続く】

次回の予定

7月8日(月)
今また、不易であるための流行 第2回