学研 学校教育ネット

教育ジャーナル

バックナンバー

学研『教育ジャーナル』は、全国の学校・先生方にお届けしている情報誌(無料)です。
Web版は、毎月2回本誌から記事をピックアップして公開しています。本誌には、更に多様な記事を掲載しています。

教育ジャーナル Vol.23-2

■修学旅行改革

古都探訪から先端技術の現場へ
―― 修学旅行を、探究学習の一環に位置づけた
新潟市立小新中学校の意外に斬新な取組

全2回(後編)

■修学旅行改革

古都探訪から先端技術の現場へ

―― 修学旅行を、探究学習の一環に位置づけた
新潟市立小新中学校の意外に斬新な取組

【全2回】後編


教育ジャーナリスト 渡辺 研


コロナ禍でさまざまな教育活動が変更を余儀なくされた。
それは同時に、全国の学校が前年踏襲で続けてきた活動や行事の意義や在り方を
問い直してみるきっかけになった。
このピンチをチャンスにかえたことで、一気にこんなことが実現できた。
後編は23年度の修学旅行について紹介する。

3日目の訪問先は…

 23年度は2泊3日が可能になった。
「はじめは1泊2日のつもりでした。5月になって3日行けることになり、予定を変更しました。これまでやってきて、関東のロボット・AIも見たかったし、中でもトヨタ『ウーブン・シティ』に行きたかったのです」
 ウーブン・シティとは、トヨタ自動車が静岡県裾野市に建設中の未来都市。次世代電気自動車が走り、地下には物流ネットワークを構築。家の中ではロボットが家事を手伝う。実際に人々が暮らしながら実証実験を行う街。このカリキュラムでいえば行きたくなるのも当然だが、残念ながら実証実験の一部開始は25年の予定だ。
「それでも、関東に行けばロボットもたくさんあるので、6月に保護者に説明、費用の面もお願いして目的地を変更しました」
 20年度もそうだったが、保科校長は決断も行動も迅速だ。
 さて、23年度の修学旅行はこんな日程で行われた。これまでのコンセプトを崩さない工夫が見られる。全行程、すべてバス移動。行動は学級単位で、全員で行動したのは3日目だけ。クラスごとの見学先を挙げる。
【第1日目】(1組)藤次郎、プラントフォーム(アクアポニックス=魚と植物を同時に育てる次世代農業の企業)、やまこし復興交流館おらたる(以下、おらたる)。(2組)エンカレッジファーミング(県内最大の温室を持ち、生産環境をコンピュータで制御しながら野菜を栽培する)、サクライ(ステンレスの特殊な表面硬化技術を持つ燕三条の金属加工メーカー)、おらたる。(3組)フジノス(IH鍋のパイオニア)、錦鯉の里、おらたる。
 宿泊はこれまでと同じ旅館。マニファクチュアに加えて、県内の農業にも視点を置いた、農業も手仕事とロボット・AIとの協働。
【第2日目】(1組)サイエンス・スクエアつくば(最先端の産業技術のショールーム)、カワサキロボステージ(川崎重工ロボットショールーム)。(2組)サイバーダインスタジオ(最先端ロボット技術)、日本科学未来館。(3組)千葉工業大学スカイツリータウンキャンパス(ロボット技術や惑星探査の先端技術を応用した体験型アトラクション)、スカイツリー。
【第3日目】東京ディズニーランド(TDL)。
 ここまで記事をまとめてくると、3日目のTDLには違和感がある。
「今回は生徒には何も言いませんでしたが、実はここもロボット・AIの宝庫なんですよ。今年は行くだけでしたが、今後も設定するとありませんでした。でも、コロナ禍によってこういう形で修学旅行を実施して、地元を学ぶことの必要性、重要性がわかりました。学習に幅ができたと思います。しばらくは、これで進めていこうと思います。小新クエストのテーマは同じでも、はじめたときには生成AIもない、メタバースもない。数年前にはなかったものがどんどん出現している。同じ学習をしていても、中身が勝手に更新されていくから、おもしろいですよ」
 修学旅行の事前学習に総合の時間をあてている学校は多い。どうせ総合を使うなら、こんなふうに明確に位置づけたカリキュラムをデザインしてみると、新たな探究をつくれるのではないか。修学旅行は、探究のための視察や取材。そう考えるだけでも違うイメージを描けそうだ。


こんなにおもしろいことが可能

 修学旅行の話はここまでだが、ぜひ、興味深い取組を二つ紹介したい。
 入学早々、小新レスキューに取り組んだ1年生は、消防士から災害対策の講義を聞き、自宅・学校周辺等の危険個所を見つけたり、地域の避難訓練に参加したりして、防災を学んできた。そして夏休み、「探究したことをまとめ、家族の前で発表する」という課題が与えられた。これも十分に興味深い。
 そのとき、学習を進めるにあたって、ほかのどの教科の「見方・考え方」を働かせたのかを書き出してもらっている(関連づけた教科、具体的にどんな探究テーマに関連づけたか)。例えば、「東日本大震災に関するノンフィクション=国語」「避難所に外国人がいたら=英語」「災害時にお米を炊く方法=家庭科」など。いわば、生徒自身が探究を核にカリキュラム・デザインをしているようなもので、学びを自覚できる重要な実践だと思った。
 2年生も職場体験後、同様のことに取り組んでいる。
 もう一つ。3年生は小新クエストの総まとめとして、レポートではなく、グループで「未来防災小説」を書く。未来に起きる災害にロボットやAIが活躍するSFだ。(*)


*AppleアプリBooks 
①iPhoneまたはiPadでBooksアプリを入れる。
②タップして画面が出たら、検索に「小新中学校」または「保科賢一郎」と打ち込む。
③3年生が書いた未来防災小説を無料で購入できる。


「小新クエストで学んだことを全部振り返って、再構成して小説を書く。提案ではなく、自分たちが想像した未来の対策を、勉強してきたものを全部入れて書くのです」
 探究はもとより、他教科とのつながりも、イマジネーションの大切さもすべてここに生かされる。防災も福祉も職場体験も修学旅行も、どこの学校でも実施されている。それを、視点を決めて再構築すれば、こんなにおもしろいことができる。



【了】

次回の予定

10月14日(月)
声を聞こう/校長アンケート