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教育ジャーナル Vol.24-1

■声を聞こう/校長アンケート

子どもの考えや思い、アイデアを、
どう吸いあげて活動に落としていくか

学校が頑張れること、国に望むこと

全4回(第1回)

■声を聞こう/校長アンケート

子どもの考えや思い、アイデアを、
どう吸いあげて活動に落としていくか

学校が頑張れること、国に望むこと

【全4回】(第1回)


教育ジャーナリスト 渡辺 研


コロナ禍は落ち着いた。教室には一人1台端末。〝学校の常識〟にはあちこちで変革が進む。
子どもたちが自分の意見をしっかり言えるようになった。でも、変わらぬものもある。
校長先生は2023 年度、新たな課題にどう取り組み、何を思ったのか。




Ⅰ,トピック グローブ&部活動

Q1a 大谷グルーブの使われ方(小学校のみ)

◉ 何はともあれ、始球式!

 昨年11月、ドジャースの大谷翔平選手から日本の全小学校に3個ずつグローブが寄贈されるという発表があった。子どもたちはこんなふうに反応した。
◆メディアでグローブのことを知った子どもたちは、「いつくるの?」「もうきた?」とわくわくして聞きにきていました。届いた翌日にテレビ放送で紹介すると、各教室から歓声と拍手があがっていました。
 各クラスにグローブを回し、柔らかいボールでキャッチボールを楽しみました。現在、廊下に飾ってあり、ボールゲームクラブなど、活動で使っています。
 大谷選手の手紙にも子どもたちは反応していました。夢中になることを探すということ、体を鍛えようということ、「野球しようぜ」という言葉にも、子どもには胸を打つものだったようです。
 大谷選手の名言(本から引用)を伝えると、子どもたちは「なるほど!」と反応していました。大谷選手の人間力が、子どもの心を揺さぶっているようです。

 今年になって、〝大谷グローブ〟が届き始めた。右利き用2個・左利き用1個。児童数が1チームに満たない分校にもちゃんと届いた。さて、今、それをどうしている?
◆全校集会にて「贈呈式」と「始球式」を実施した。教員の管理のもと、児童が自由に触れたりキャッチボールをしたりできるよう展示している。全校集会で大谷選手の生き方に触れ、大谷選手についての本をグローブと一緒に展示している。また、スポーツ少年団で野球をしている児童を中心に「大谷選手のような野球選手になりたい」と将来の夢への意欲を高めている。
 あの事件。大谷選手がその夢を壊すことがなくて本当によかった。
◆まず、学級ごとに1日ずつ教室に預け、自由に触れたり、手にはめて写真を撮ったりしました。子どもたちはどの学級でもグローブを見たときに歓声をあげていました。そして、大谷選手への感謝の言葉や野球がしたくなったことを話していました。全学級に回り終えた後は、体育館で卒業前の6年生にキャッチボールを楽しんでもらいました。今後は、飾るのではなく、休み時間や体育学習、クラブ活動等で積極的に使う予定です。
◆職員室の入り口で保管。使用したい児童が自由に使っている。児童は「大谷さんのグローブを貸してください」と言って借り、運動場で遊んでいる。長い休憩時間にはほぼ使用している状態。 
◆まず、学級ごとに回覧して、全児童が手に触れました。次に体育等の時間を使って全学級でキャッチボール体験をしました。低学年は初めてキャッチボールをする子も多く、興味深かったようです。
◆各学級に一定期間ごとに回して、全員が触れるようにした。その後は、学級ごとに貸し出し制をとった。
◆大谷選手のグローブは大人気で、多くの児童が休み時間にキャッチボールをしています。ふだん、ボールを投げる機会が少ないのか、子どもたちは「楽しい、楽しい」と言っていました。 
◆職員室前の廊下に置いてあり、いつでも使っていいようにしている。来客の方も目にとめて、触ったりしている。
◆朝会で紹介し、その後、各学級を順に回した。グローブが回ってきた学級はキャッチボールをするなどしていた。子どもたちはとても喜んでいる。

 受けた厚意を無下にしない。本当に日本の学校らしい扱いだ。


Q1b 部活動改革 生徒の反応(中学校のみ)

◉ 何が納得解なのだろう

 中学校教師の働き方改革の最大の課題だが、生徒にとっても大問題だ。
◆生徒には、部活動の地域移行の説明をしていますが、今(23年度)の1、2年生が卒業してからのことなので心配はいらないと話しています。4月に入学してくる新入生の保護者には、3年生になるときに土日の地域移行がスタートすることになるので、それを見据えて部活動を選ぶように、今から相談してほしいと伝えています。         
◆すでに当校では部活動を原則廃止しています。「部活動改革」という言葉は当校の生徒にはなじみが薄いと思いますが、部活動が廃止になったことで、「〇〇(校名)ユナイテッドに登録しているクラブを選択して加入できること」「放課後の時間を使う『放課後デザイナー活動』が自分の学校にはある」という、どんな形に移行しているかという具体を認識していると考えています。

 根本から考え直してみれば、生徒も教師も納得がいく活動の形がきっとあるはずだ。
◆生徒は、自校で部活動ができなくなることに不安を感じている。      
◆生徒は知っています。当校は短時間で継続するので、特に何も言っていません。

 いずれにせよ、生徒数減少、顧問どころか教員の絶対数の不足などを考えれば、現状維持という選択肢はなくなるだろう。






Ⅱ.授業改革 授業実践&ICT活用の課題

Q2 自校の魅力的な授業

◉ 生徒の表情が生き生きしている

 〝主体・対話・深い〟をきっかけに、広い意味での授業改善は進んでいる。
◆思考ツールを活用した国語の授業がとてもおもしろかったです。ピラミッドチャートなどで登場人物の心情を整理することで子どもたちの読みが深まっていました。(小学校)
◆国語科の授業で、三角ロジック(主張・根拠・理由付け)という思考スキルを用いて、文学作品の読みを深めていく授業。三角ロジックを用いた説明的文章の読解は先行事例において有効であることを理解していたが、文学の読みを深めることにも有効に用いることができている点が、私にとっては新鮮であり、発見であった。(中学校)
◆社会科の授業でシンキングツールを活用して「考え方」を教えている先生がいます。クラゲチャートや座標軸を使いながら、タブレットで考えを記入している生徒の表情が生き生きしていて、いいと思っています。(中学校)

〝思考・判断・表現〟と長いこといわれてきたが、思考力という抽象的な力を具体的に育てる授業が登場してきた。専門性の高い中学校の教師が、教科ごとの特性を踏まえた授業を小学校にも発信してもらえると、さらに的確に育っていきそうだ。
◆子どもが教材等の対象物とじっくり対話し、他者と対話し、自己の学びを見つめながら、子どもが自ら学びを生み出していく授業。特に6年生の算数では、子ども自身が自分に必要な学び方を身につけていたため、教師が前に立たなくとも自然と学びが生まれ、広がっていた。
 2年生の算数では、家庭学習と結びつけた授業を行っていた。かけ算の単元を通して「『1つ分×いくつ分』の見方で問題づくり」に取り組んだ。乗法の学習で必要な見方・考え方を家庭学習でも生かすことで、日常生活に生きる学びを進めることができていた。(小学校)
◆導入にICT教材を使った英語の授業があった。リズミカルにクイズ形式の問題に答えていく内容。子どもたちが楽しそうに取り組んでいた。(中学校)

 対話、学習者としての自立、ICT活用。授業改善におけるそれぞれの課題が次々に実現してきている。


◉ 内面の成長を自覚させる

 活動を伴う授業には、さらに「おもしろい授業」が多い。
◆1年生の生活科(自分と成長「大きくなった自分・きらきらじぶんたんけん」)。できるようになったことや頑張ったことを振り返りながら自分の成長に気づかせていくのですが、「友達に優しい言葉をかけてあげられるようになった」「ルールを守るって大切って気がついて守れるようになった」「最後まであきらめないでできるようになった」など、内面の成長に気づいている子がたくさんいました。
 それを自覚化し、自信につなげたり、自分のよさや可能性を認めたりできるように、最後に行った活動が「きらきらほめほめ大会」でした。自分ができるようになったことを発表し、ペアになった子がそれをほめるという具合に全員がみんなの前で発表し、ほめてもらう会でした。自分たちの発表を聞いてほしいと、私も招待され、全員の発表と「ほめほめ」を聞かせてもらいました。自信をもって発表し、友達の頑張りをほめる姿、それを聞いて拍手し、「すごいじゃん」「頑張ったもんね」と反応する子どもたちの温かい雰囲気がとても素晴らしい授業でした。(小学校)

 1年生は、小学生になってできるようになったことを、ひたすら積みあげていく時期。できなかったことができた、わからなかったことがわかった。それはもう楽しくてしょうがないはず。そんな1年間にしたい。
◆5年生が総合の時間に地元の動物園との連携で、動物園のテーマである「命の輝き」ってなんだろうについて探究的に学んだ授業。(小学校)
◆総合の時間に、子どもが出し合った学校の課題を選び、その対策を考え、具体的な行動を起こしていた。(小学校)

 子どもたちの目に映る学校の課題はなんだろう。大人が解決できないでいる課題でも、「えっ? そうではなくて、こう考えてはだめなの?」と、案外、核心をついた解決策を見つけてくれるかもしれない。
 次の授業は、まさにそれ。
◆総合の学習はどのクラスでも地域を材にして、とてもおもしろい授業を展開していた。
 3年生=出版社と連携して、まち(地域)のマップルを作成/4年生=地域の和菓子屋さんとコラボして商品開発/5年生=フォトロゲイニングの地域バージョン/6年生=「知域王」という地域のカードゲームづくり、「〇〇っ子体操」というまちの人たちが取り組める体操づくり〈「地域の人たちが運動不足」という子どもたちの独自調査に基づく解決策〉(小学校)
◆地元の花火大会がなくなってしまったことを受け、プロジェクトマッピングで花火を描いた/まちや企業の方々と一緒に、地元の川の環境保全に関する会議や生き物の展示をまちの中で行った/まちの商店街を盛り上げるダンスをつくり、商店街で披露した。(小学校)

 Q7にも出てくるかもしれないが、子どもたちの発想を侮ってはならない。


◉ 学校教育目標を共有した取組

 文字だけではイメージするのが難しいが、おもしろそうな授業も登場している。「授業はこうあるべき」から脱却しつつあるようだ。
◆総合=生成AIを活用した「はがき新聞」や小説執筆の授業(活動のまとめを小説で表現)/道徳=2時間、同じテーマで学ぶ授業。総合との教科・領域横断の授業/特活=家庭学習を振り返る定期テスト後の授業。(中学校)
◆小さなギターのような楽器「パンドーラ」づくりが2年目になった。23年度は、すべて地元産のひのきを使った。演奏の依頼も前年度より増え、消防署の防火広報業務も委嘱され、社会貢献の意識が高まった。中学年(複式学級)の学活で、対話の促進をねらったゲームや遊びを多く取り入れた。例えば、すごろくで止まった目の指示に従って話や動きをするというゲームでは、ゲームを通して対話が活性化されていた。(小学校)

 たとえ教師の業務は増えても、子どもたちの成長につながるのなら……。常に繰り返される課題に、子どもたちはどんな姿で応えてくれるのだろう。
◆①ステップアップワーク(個人総合)の発表(ひとり5分のプレゼン)を1日がかりで行った。地元のテレビ局がクチコミで知り、放映された/②修学旅行の行き先を自分たちで決める(6年)。多くのグループからのプレゼンで、全員が納得する行程に決まった/③「学ぶとは」をテーマにした探究学習。「なぜ勉強しなければならないの?」の問いを探究。インタビュー・調査・歴史まで深く掘り下げた各々の発表に、参観した地域の方々が圧倒されていた/④まちの課題に真っ向勝負(6年)。道の駅等の発展について議会でも課題とされているところに、子どもたちが来客への調査や識者へのインタビューほか、実際に動いて、解決策をグループごとに探究。町長への提案授業で発表/⑤マイ時間割・マイセレクト学習(複数教科自由進度学習)を1~6年生で実施。
 すべて学校教育目標の「一歩踏み出す力」「チーム力」「考え抜く力」を職員も子どもも共有して向かった取組です。(小学校)

 学校教育目標は、児童・生徒が自覚してはじめて実現する。






【第2回へ続く】

次回の予定

10月28日(月)
声を聞こう/校長アンケート②