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教育ジャーナル Vol.24-2
■声を聞こう/校長アンケート
子どもの考えや思い、アイデアを、
どう吸いあげて活動に落としていくか
学校が頑張れること、国に望むこと
第2回ではICT活用、現代の課題と解決法について紹介する。
全4回(第2回)
■声を聞こう/校長アンケート
子どもの考えや思い、アイデアを、
どう吸いあげて活動に落としていくか
学校が頑張れること、国に望むこと
【全4回】(第2回)
教育ジャーナリスト 渡辺 研
コロナ禍は落ち着いた。教室には一人1台端末。〝学校の常識〟にはあちこちで変革が進む。
子どもたちが自分の意見をしっかり言えるようになった。でも、変わらぬものもある。
校長先生は2023 年度、新たな課題にどう取り組み、何を思ったのか。
第2回ではICT活用、現代の課題と解決法について紹介する。
Q3 あえて、 ICT活用上の弊害や問題点
◉ 課題の一つは、やはり、そこ
「弊害や大きな問題は特にない」という学校もあり、「情報収集、思考・表現の促進、視覚で情報を受け取るなど配慮が必要な子どもたちへの支援など、活用によるよい効果を感じています」(小学校)というのが、大かたの評価なのだろう。そうでなくては困る。
◆弊害という強いマイナス現象はありません。端末は所詮は道具です。スマホ→ガラ携→ポケベルと道具として昔のモノに戻っていくことがないのを考えると、今の端末の不備を言っても仕方がない。端末は、机の上に以前はあった本やノート、筆記用具などが一か所に収まったモノと肯定的に考えるべきです。だとすると、個人の学習には十分な備えが1台の端末には用意されています。(中学校)
今後も活用していく、活用範囲は広がっていくことを前提にして、改善点を考える。
あえて先に取りあげておく。
◆教員ごとに得意・不得意の差が大きいため、授業者によって効果が異なっている点。時間が解決する部分もあるが、いつまでも消えない課題でもあると思う。(小学校)
◆教員間で活用に差が大きい。毎年クラス替えを行っているので、子どもに技能差が生じている。(小学校)
◆ICTを使いこなせない先生は、大変苦労している様子である。(中学校)
とにかく使ってみる、慣れる、場合によっては子どもに教えてもらう。たぶん、努力していただくしかない。
◉ アナログとデジタルも共存
指導の仕方によって弊害となることは防げるのだが、多かったのは、アナログをデジタルに置き換えることへの懸念。
◆文字を書くことが減ったこと。使うことに慣れたので、今後はより効果的な場で使うよう、使う、使わないの取捨選択を研究する必要がある。(小学校)
◆漢字の練習などで覚えが悪いと感じています。学力が低い児童にとって映像授業で理解することは難しいです。個別最適化するほど、高い子と低い子の差が開くため、一斉授業がより厳しくなります。(小学校)
◆国語の「書く」という指導事項は、やはりアナログが適切というところがあり、しっかりとねらいを見定めていくことが大切であることを再確認し、今後に生かしていこうと取り組んでいます。(小学校)
◆学力として定着させる点では、端末活用だけでなく、ドリル的な訓練も必要。(中学校)
コロナ禍以降に小学校に入学してきた子どもたちは、学習においては明らかに〝デジタル・ネイティブ〟。学習者として自立していくにつれ、基礎基本をアナログで学んだ我々とは、思考の仕方そのものが、きっと違ってくる。この先、何が現れてくるのか。それは弊害ではなく、進化と呼ぶべきなのか。
◆仲間との交流には、以前はホワイトボードや大洋紙(模造紙)を活用しました。これは端末では代わることはできないように思います。情報の組み換えやラベリング、順序づけなどの整理は、端末のほうが長けていると思いますが、面前でそのプロセスが認識されることが大切なのに、端末では画面が小さい上に、あっという間に処理されることで、「何がどうしてこうなった」という思考を働かせる場面がブラックボックス化します。端末を用いるときの「思考のさせ方」が、用いるときと用いないときで異なるように思い、授業者には、前者の場合の支援・指導が、現状では不足しているように思います。(中学校)
実は深い課題である気がする。
◆一人1台端末は4年生以上で家庭学習にも活用。必要に応じて自宅からも課題を出したりコメントを返したり、進捗状況を点検もしている。その中で、他人をからかう内容のコメントがあった。他市町では同様の事例で端末上でのやりとりを禁止にしたところもあったが、禁止するのではなく、道徳や学活を通してそもそもの行いについて考えさせながら反省・改善に向けた。(小学校)
◆一人1台端末による学習は、知識面に偏重しがちである。個別最適だからといって、現在求められる資質・能力を身につけるためには、冷静・慎重に活用する必要がある。
◆情報モラル教育がより重要になっている。デジタル・シティズンシップ教育の視点が必要になっている。(小学校)
デジタル・シティズンシップ教育とは、「行動の善悪を自分で判断できる力を身につけさせる」とか。「これはダメ」「あれはイカン」と〝イタチごっこ〟のように規制をかけるより学校教育になじみそうだ。
Ⅲ.現代的課題への対応と意見
Q4 一番困ったことと解決法
◉ せめてチームで、ICT活用で
どの学校も抱える〝困り感〟だろう。
◆特別な支援が必要な児童に、限られた人員で対応する必要があること。
文字を読むこと書くことに困り感をもっている児童については、教師が細かく個別に教えることを少なくし、授業をグループによる共同学習にした。そこに児童同士の教え合いが生まれて自然な形で授業に参加できた。文字を書くことが苦手な児童は、タブレット端末上で書くことで、字形が崩れたり読みづらいという困り感を取り去ったりすることができた。手書きのときよりも文章量、内容の質ともに向上している。こうした対応で担任外の教員の時間が生まれ、集団での学習が苦手な児童を別室で個別に見ることができ、学習内容の定着が図れた。(小学校)
ICTは特別支援に有効だと以前からいわれていた。学習の質向上のチャンスだ。
◆配慮を要する児童が増えている。多様性を認める現代で、それぞれの意思を尊重しているが、学級担任一人が学級全員のニーズを捉え、個別に対応することは不可能である。児童の実態や状況に目を向けて、組織的な対応、手立てを講じているが、合同研修会や学級懇談会等で、学校と家庭の役割を確認する必要がある。(小学校)
◆不登校の生徒への対応。解決はできていません。(中学校)
コロナ禍の後遺症もある。
◆コロナ禍で人とのつながりやディスカッションが十分できなかった時期があり、それを苦手にしている生徒が多い。粘り強く続けて身につけさせるしかない。(中学校)
加えて、今はこんな問題もある。
◆強いてあげると、病欠の児童に加え、教職員のお休みが重なり補欠体制に困りましたが、学校チームで工夫して乗りきれました。(小学校)
◆学年担任制1年目の1学期、教員の中で不安感が高くなった。校長としてあえて動かず、学期末に「子どもたちの姿がその答えだ」と教職員に伝えた。
加えて、子ども・保護者・教員へのアンケートを実施したことにより、不安感の減少を図ることができた。(小学校)
学年=チームとして、ローテーションで学級担任を担うシステムだ。産休等の欠員補充がスムーズにいかないことへの学校の苦肉の策だったが、子どもたちが、担任=特定の大人に依存し過ぎず、主体性が育っていくという効果も生んでいる。
保護者もときには困ったものである。
◆事実ではないことを事実だと思い込んで、学校への要求を続ける保護者への対応。すっきり解決はしていません。(小学校)
◆次年度のPTA会長が決まらなかったこと。さまざまな事情があり、会長不在のまま、他の役員が協力してPTAを回していくことになりました。円滑に組織が回らないのは、かなり困りました。(小学校)
日本型PTAは使える組織だと思う。だからこそ、役割や在り方が今に生きるよう、〝従来どおり〟を考え直していきたい。
◆23年度の全国学力・学習状況調査の結果がよくなくて、本校が取り組む子ども主体の学び(第1回Q2参照)について、教委から方向転換を迫られた。担任も納得しながら手応えを感じているときに、以前の教え込むスタイルに戻すわけにはいかない。当然、継続。今年2月のGTEC(英語)で、6年生が町内でも群を抜く結果で応えてくれたので、ひと安心している。(小学校)
育成が求められる資質・能力は、この種の〝調査〟では測れないだろう。
Q5 「こう変えたい」と思うこと
◉ これまでのことに縛られず
◆感染症下でかなり業務がスリム化したので、元に戻さないようにしたいと考えています。(中学校)
今ならどこの学校でもできること。
◆変えたいというよりも、社会の変化に応じて、これまでのことに縛られず、学校はよりよく変わるべきだと思っています。(小学校)
◆「〇〇教育」といった全体計画や年間計画を細かくつくっている。年度替わりの忙しい時期にたいした検討もできず、例年どおりで次年度に引き継がれていることがある。本当に必要なものだけ必要な形で残して、必要のないものはなくしたい。
また、「〇〇スタンダード(授業の進め方)」は、経験の浅い教員には必要かもしれないが、それを〝絶対〟にすると、それ以上の実践が生まれなくなる可能性がある。もっと柔軟に授業者に授業方法を委ねていきたい。(小学校)
教育的効果がないわけではないが、あまりに手間がかかる活動はやめる。なぜ実施しているのか、合理的な根拠を説明できない活動はやめる。こんな廃止の観点がある。
◆運動会の種目を、より教育課程に合ったものに。授業時程を、教師の働き方を考え、また、子どものためにより効果的なものに〈今年度から実施〉。(小学校)
◆行事の精選。大人主体の活動を減らす。学校教育活動以外の子どもの行動に対する対応。保護者がすべき家庭教育の内容を学校に求めている。(小学校)
◆儀式的な行事は子どもを中心にしたものに。(小学校)
◆「学習=(知識等の)暗記」という思い込みを消したい。(小学校)
◆先生方の無駄な業務を減らすこと〈うまくいった〉。テストの実施回数や時期について。(中学校)
テストの回数や時期でさえ、見直しの余地がある。まだまだありそうだ。
◆細かいルール(指導や指示)をなくし、主体的に行動できる児童を育てたい。(小学校)
◆校則をなくしたいです。子どもたちも多様化してきていることをひしひしと感じているので、これまでのように校則でしばる時代ではないと思っています〈子どもたちに主体的に考える力をつけるためにも〉。(中学校)
円滑な集団生活を可能にするには何が必要なのかを子どもたちが考える。自ら考えて行動できる規範意識が育ちそうだ。
◆朝自習をなくし、放課後早めに教材研究できるようにしたり、PTAを含め夜の会議をなくし、職員会議をワークショップにしたり、変えたことはだいぶある。職員もさまざまなアイデアを出し、学校にゆとりをもたらしている。やりがいや意欲といった心のゆとりを前面に出したのでは働き方改革は進まない。物理的に時間のゆとりを生み出すことで、職員個々のタイムマネジメントが向上し、心のゆとりにもつながっている。(小学校)
【第3回へ続く】
次回の予定
11月11日(月)
声を聞こう/校長アンケート③