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教育ジャーナル Vol.25-1

■「変革者」たれ

「現状維持」という選択肢はないこの時代に
未来創造型教育カリキュラムを

久しぶりに
福島県立ふたば未来学園を訪ねて思うこと

全4回(第1回)

■「変革者」たれ

「現状維持」という選択肢はないこの時代に
未来創造型教育カリキュラムを

久しぶりに
福島県立ふたば未来学園を訪ねて思うこと


【全4回】(第1回)


教育ジャーナリスト 渡辺 研


自らを変革し、地域を変革し、社会を変革する、地域を変革する「変革者たれ」。
この言葉をこの学校の建学の精神を表す言葉として、ここに刻もう。
そして私たちが変わるために、社会が変わるために、大切にすべき価値観や考え、変革のための理念は何か。
それは、「自立」「協働」「創造」である(ふたば未来学園の校訓)。
もはや「現状維持」という選択肢はないこの時代に、「変革者」が求められる。
そんな人を育てるのは、ふたば未来学園だけの使命ではないはずだ。



◉ 復興のシンボルとして

 コロナ禍直前の2020年1月以来、久しぶりに福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校(郡司完校長)を訪ねた。
 学校のプロフィールを確認しておく。
 ふたば未来学園の開校の経緯には、こう書かれている(2015年開校時の説明、抜粋)。〈震災と原発事故という、人類が経験したことのないような災害に見舞われ、いまなお、12万人の県民がふるさとを離れた地で、5度目の春を迎えている(平成27年春の時点)。避難している人に限らず、多くの県民が抱える困難は、今なお続いている。〉
 10年前の状況だが、今も解決していないことを気に留めておいていただきたい。経緯を続ける。
〈双葉郡をはじめとした福島県の各地域では、震災と原発事故がもたらした被害や放射線への対応などの深刻な問題だけではなく、日本のあらゆる地域が直面している、少子化、高齢化、過疎化の急激な進行、疲弊する産業など地域・コミュニティが直面する課題が、震災と原発事故により、先鋭化している。双葉郡そして福島県はある意味で世界の「課題先進地域」となっている。〉
 震災と原発事故から13年が経ち、同じ課題は〝先進地域〞だけでなく、今では全国各地が抱えている。学校、教師の疲弊も深刻になっている。この間、有効な手立てが打たれてきたとは言い難い。
〈教育においては、震災前双葉郡に5校あった県立高校(双葉高校、浪江高校、〈浪江高校津島校〉、富岡高校、双葉翔陽高校)は、県内外各地に設けたサテライト校で授業を続け、教育環境の整備に最大限努めてきたが、元の校舎での授業再開のめどが立たず、平成27年度からの募集を停止した。郡内で開校している高校が存在しない状況が4年間続いたことになる。
 このような中、双葉地区教育長会が主催する「福島県双葉郡教育復興に関する協議会」(平成24年12月設置)において、平成25年7月末に、県立中高一貫校の設置を柱とする「福島県双葉郡教育復興ビジョン」を決定・公表。(中略)ビジョンの検討と同時並行で、「双葉郡子供未来会議」を実施。子供たちの考える双葉郡の教育として「動く授業」「世界とつながる」「夢を見つけるたくさんの『小さな窓』」等のキーワードが生まれた。〉

 地域の希望の象徴として2015年4月に開校したのが福島県立ふたば未来学園高等学校だ(中学校の開校は19年度。中学校の第1期生は今年度、高校3年生)。


◉ 変革者たれ――未来創造型教育

 こうした期待を背負った学校の「建学の精神」――「変革者たれ」は、20年後、30年後の社会を、中心となって動かしていく生徒諸君に向けた強いメッセージだ。
 これも抜粋してお伝えする。
〈(前略)ふたば未来学園は、まさに、未来への挑戦である。この学校は、双葉郡の方々の「双葉の教育の灯を絶やすことなく灯し続けたい」という強い願いと、復興を実現し、先進的な新しい教育を創造しようとする国など関係機関の熱い想い、そして、なにより、震災後、こどもたちの中に芽生えた、復興をなしとげようとする強固な意志、夢を実現しようとする意欲、新しい価値観、創造性、高い志を礎として、誕生した。(中略)
 この地から、このときから、「未来創造」を始めようではないか。この校章が示すとおり、未来は私たち一人一人が互いに手を取り合って建設していくものである。人間は自分の生き方を自分で選ぶことができる存在なのである。わたしたちは、わたしたちの手でこの社会を変えていくことができるのだ。〉

 初めてふたば未来学園を訪ねたのは17年1月。第1期生は高校2年生になっていた。彼らは小学生のときに被災し、県内外での避難生活を強いられた生徒もたくさんいた。県内であるにもかかわらず、避難先の学校でいじめにあったという話も聞いた。とても夢などもてる状況ではなかっただろう。
 でも、高2になった彼らからは「大学では自然エネルギーに取り組みたい」「地元の町の特産品を使ったスイーツをつくりたい」「大学に進んでも町の元気を全国に発信したい」と希望を聞けた。この学校で夢を語れるまでになっていた。教育復興にはいち早く着手されたが、本当に学校の存在は大切だ。
〈自らを変革し、地域を変革し、社会を変革する「変革者たれ」。この言葉をこの学校の建学の精神を表す言葉として、ここに刻もう。
 私たちが変わるために、社会が変わるために、大切にすべき価値観や考え、変革のための理念は何か、それは、「自立」「協働」「創造」である。既存の価値観、システムに過剰に依存することなく、自律心を持って自分の頭で考え抜く主体性を身につける「自立」。どんな困難な課題であっても、多様な主体と共に力を合わせて立ち向かう「協働」。これまでの社会のよさに磨きをかけながら、新しい生き方、社会をつくりだしていく「創造」。
 ふたば未来学園は、「変革者たれ」という「建学の精神」のもと、「自立」「協働」「創造」を校訓として、「未来創造型教育」を力強く展開していく。地域と共に。世界と共に。〉

 そんな人を育てるために、こんな教育課程が必要という観点で「未来創造型教育」を中心に教育活動を見ていきたい。
 創設時、丹野純一初代校長からこのメッセージが発せられたときは、ふたば未来学園は特別な存在だった。でも、今では「変革者」を育てるのは、この学校だけのミッションではなくなっている。


◉ 自立とは、協働とは、創造とは

 建学の精神に基づく教育目標は「新しい生き方、新しい社会の建設を目指し、地域や世界を舞台にして、これまでの価値観、社会の在り方を根本から見直し、自らを変革し、地域を変革し、社会を変革していく『変革者』を育成する」。
 未来の「変革者」たちに求められるのは「イノベーションによる新たな産業の創造」「新たなまちづくり」「地域再生のモデルを世界に発信」。
 育成する資質・能力をこう捉える。
●どんな困難に対しても、論理的思考力、課題発見・解決力、強い志と使命感をもって、何度失敗しても挑戦し続ける「主体性」
●異なる言語、文化、価値観を乗り越えて多様な主体と共に力を合わせる「協働性」
●新しい生き方、産業、社会を創り出していく「創造性」
 開校から10年。「資質・能力の育成」等も登場し、学校教育を取り巻く環境は大きく変化した。今年度は「変革のための3つの理念と取組」が次のように整理されている。
1「自立」〜自主・自律と主体性の回復
 知識詰め込みから脱却し、自ら学ぶ力を育成する「主体的な学び」/学力向上/キャリア教育、進路実現/生徒指導。教育相談体制の充実
2「協働」〜多様性の中での対話と協働
 多様な主体との連携・協働による「対話的な学び」/価値観や文化の違いを超えて共に生きる力の育成/グローバル・シティズンシップの育成
3「創造」〜新たな価値、生き方、社会の創造
 各教科と探究の往還による、知識を生きて働くものとする「深い学び」/震災と原発事故から学び、教訓を生かした、新たな生き方の創造/グローバル化や少子高齢化・人口減少が進行した社会、知識基盤社会における新たな地域、社会、文化の創造/イノベーションにつながる新たな価値の創造
 これを実現するために行われるのが、①実践力をみがく「未来創造学」、②世界に飛び出す学び、③深い学び・高い学力、④未来の主人公となる学び。
 他校では難しい活動もあるが、具体的にどんな教育活動が行われているのか、主に中学校の活動を見ていくことにする。言うまでもないが、学習指導要領に基づいて運営されている「公立中学校」だ。






【第2回へ続く】

次回の予定

12月23日(月)
福島県立ふたば未来学園を訪ねて思うこと