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教育ジャーナル Vol.25-3

■「変革者」たれ

「現状維持」という選択肢はないこの時代に
未来創造型教育カリキュラムを

第3回では、高校のカリキュラムや部活動、地域連携などについてご紹介する。

全4回(第3回)

■「変革者」たれ

「現状維持」という選択肢はないこの時代に
未来創造型教育カリキュラムを

久しぶりに
福島県立ふたば未来学園を訪ねて思うこと


【全4回】(第3回)


教育ジャーナリスト 渡辺 研


自らを変革し、地域を変革し、社会を変革する、地域を変革する「変革者たれ」。
この言葉をこの学校の建学の精神を表す言葉として、ここに刻もう。
そして私たちが変わるために、社会が変わるために、大切にすべき価値観や考え、変革のための理念は何か。
それは、「自立」「協働」「創造」である(ふたば未来学園の校訓)。
もはや「現状維持」という選択肢はないこの時代に、「変革者」が求められる。
第3回では、高校のカリキュラムや部活動、地域連携などについてご紹介する。



◉ 探究が卒業後にも続くように

 高校は、3系列からなる総合学科の学校。休校中の5校の伝統が少しずつ生きている。

◆アカデミック系列 いわゆる「普通科」。双葉高校、浪江高校は普通科の学校。
◆トップアスリート系列 トップアスリートや生涯スポーツ社会のリーダーとして活躍することを目指す。サッカー、野球、レスリング、バドミントンの競技で、部活動と連携している。富岡高校に「国際・スポーツ科」が設置されていた(「福祉」を学ぶコースもあった)。バトミントンの専用体育館には「富岡魂」の横断幕が掲げられている。
◆スペシャリスト系列 工業・農業・商業・福祉の分野において地域を支える職業人として活躍するために必要な専門知識・技能を習得する。双葉翔陽高校が総合学科の学校で工業・農業・商業(ビジネス)を学べた。


「学科」ではなく、その系列の専門科目を体系的に履修する。


 高校の未来創造探究は、3年間、次のように進められていく。


【未来創造探究】
◆1年次=「地域創生と人間生活(2単位)」と「未来創造探究(1単位)」。1年生はまずフィールドワークにより、中学時代よりもさらに深く地域の現状と課題を知る。そして、演劇制作を通した各種スキル・人間性の育成。演劇は芸術科の中に置かれ、そこで2、3年生も学んでいる。


「平田オリザ先生は『ノンフィクションでなくてもいいのが演劇。〝ここ〞をもっと伝えたいなら、そこはフィクションにしてもいいんだよ』とおっしゃいます。課題意識や問題点がより伝わる。そういうことができる表現教育として大事にしています」

 探究とのつながりが理解できる。

「未来創造探究」のねらいは「複雑な地域課題を多面的に理解する」。


 そして、この1年間を踏まえて、2年次は「地域課題解決の探究と実践」、3年次は「探究成果発表と自らの進路実現」に取り組む。課題を整理するために、次の6つのゼミを設け、2年生、3年生はいずれかに所属して探究活動に取り組む。


「原子力災害・伝承探究ゼミ」「共生社会探究ゼミ」「地域社会・経済探究ゼミ」「人間科学・文化・芸術探究ゼミ」「自然科学・地球環境探究ゼミ」「スポーツ医・科学探究ゼミ」の6つ。新課程カリキュラムに伴い、開校以来設定していたゼミ編成を改編した。新しいゼミでは、福島の抱える真正な課題と世界の課題を重ねた未来創造型の探究と実践を通して、新たな社会を考える。


 この過程で、県や企業・関係団体、大学や国際機関との連携も図られる。ドイツやNYの海外研修もこの一環だ。


 このほか、「地域との協働による高等学校教育改革推進事業(グローカル型)」の指定校(20〜22年度)や、「ワールド・ワイド・ラーニング(WWL)」の事業拠点校に指定(23〜25年度)されているのだが、ここでは紹介しない。とにかく生徒たちは、濃密な6年間をこの学校で過ごしている。

「高校時代に頑張って探究に取り組んだからといって、課題は解決しません。だから生徒たちには『探究は卒業したあとも、仕事をもってからも続くんだよ』と話しています。将来、この地域に戻って復興を支えてくれるのも大事ですが、それこそ行政機関に入って、復興を支えることもできます。どんな仕事でもやりがいをもって課題を解決していく、そんな生き方につながるようなきっかけを、この学校でつくってほしいと思っています」

 10代は、あらゆる〝ひと・こと・もの〞から刺激を受けながら将来への志を醸成していく時間。そう考えている。その刺激がこの学校にはある。そして、学校の〝つくり〞もそこに関係している。


◉ 施設に表現された学校の意思

 とにかく広い体育館、オリンピック選手を輩出するほどのバドミントン専用体育館。テレビ局のスタジオ並みの設備を備えた多目的ホール「みらいシアター」。校内の至る所に設置されたALスペース(壁面全体がホワイトボードになっている)。うらやましくなる施設・設備だ。

 こうした〝つくり〞から、地域や外部とつながる2か所を紹介したい。コンセプトは学校の成り立ちにも関係する。


 ふたば未来学園の校門には鉄の扉(いわゆる「門扉」)は閉じることなく、地域に向かって開かれている。校門を入ると、ECC(エデュケーショナル・コンコース)プロムナードと呼ばれる街路をイメージした空間につながる。そこを抜けるとECCプラザと呼ぶ広場に出る。こうしたトータルデザインからイメージできるものがあり、そこにALや哲学対話、シティズンシップ教育や演劇、社会の課題解決などの内容を重ねると、学校が10代(ティーンエイジャー)の生徒たちに期待するものが感じ取れる。


 それが何かは想像にお任せするとして、プラザに面した校舎棟の1階にあるのが地域協働スペース「双葉みらいラボ」だ。


 建学の精神や教育目標に則って、かたくいえば「地域、企業、NPOなど多様な主体との対話と協働を通じて、生徒の主体性を存分に発揮し、深まりと広がりをもたせながら、自らと社会を変革していく舞台となる場所」。平たくいえば「学園の中心エリアとして、地域との交流や学習成果の発信の場」だ。図書館が隣接し、ALスペースがあり、軽く語り合えるスペースもある(ブラウジングスペース)。取材に訪れた日も、アカデミック系列の数人の高校生たちが気ままなスタイルで何かを論じ合っていた。


 機能はそれだけではない。主には農業や食品加工を学ぶ生徒たちが製造する焼菓子を販売するカフェがあり、社会起業部カフェチームが運営し、季節ごとのドリンク類のほかに生徒オリジナルのスウィーツも企画されている。一般営業日には地域の人たちも利用できる。テーブル席や小あがり、ソファーなどもあって、地域の人々のたまり場でもあり、生徒が地域を知る交流の場でもある。カフェの運営そのものが、生徒たちの学びだ。

「これからの学校は、門を閉ざし、その中だけで完結してはいられない」というのが、ふたば未来学園を訪れた理由の一つだったのだが、そのときすぐに頭に浮かんだのがこの地域協働スペースだった。


◉ 「ナナメの関係」の存在

 もう一つ、さまざまな形で重要な役割を担ってきたのがNPOカタリバ(以下、カタリバ)だ。カタリバが行う活動を「双葉みらいラボ」という。地域協働スペース内に事務室がある。学校との関係が始まったのは2017年9月。本部職員のほか、ボランティアの大学生ら5、6人が常駐している(昼休み、放課後〜20時の開設)。大学を休学して参加してくれている学生もいるそうだ。

「学校の先生にならずに、『こういう形で生徒を支援する活動をしていきたいので、カタリバで研修させてもらっています』という学生もいます」


 ふたば未来学園の卒業生が、現役生とかかわりをもってくれる日がくるかもしれない。
 具体的には、カタリバは生徒たちとこんなふうにかかわる。


「昼休みと放課後に、学習支援、教育相談、進路相談。ボードゲームなども用意してくれているので、遊ぶこともできます。生徒たちは受付を通して自由にかかわります。相談を受けて、心配なことがあったら、カタリバから報告を受けて、適切な対応を考えます。そういう連携を図っています」


 教師には言えなくても、年齢の近いこういう人になら言いやすい、聞いてもらいたいということも、当然ある。


「あります。生徒が話をして、それに頭ごなしになんだかんだ言われることもないので、よく相談しているようですよ。放課後はけっこうにぎわっています」


 カタリバではそれを「タテでもなく、ヨコでもない、ナナメの関係」と言っている。


「探究の授業にも入って、アシストやアドバイス、取材先などの連絡調整などもやってもらっています」


 本当に〝つかぬこと〞を伺ったのだが、年齢も近く、親身になって話を聞いてくれることで、恋愛感情が芽生えることなどはないのだろうか。


「私もそれを心配して、拠点長さんと話をしたことがあるのですが、それは織り込みずみで、そうならないように配慮をしているというお話でした」


 では、学校の中に〝教師ではない人たちが常駐している〞状況を、教師たちはどう考えてきたのか。今では、役割分担が理解され、協働が成り立っているが、必ずしも教師が好む状況ではない。


「はじめは抵抗があったと聞きました。でも今は、いてくれるのが当たり前になり、探究も手伝ってもらえるので助かるし、ありがたいと思っています。教師のほうも、探究について個人的に相談することもあるようなので、いろいろな面で協力してもらっています。教師同士のミーティングや、内容によっては教員研修にも入ってもらっています」


 例えば、外部との連絡調整などは、ある程度自由に動け、外部とのチャンネルもたくさんあるカタリバの人たちのほうが、たぶん得意だろう。同じ課題でも、教師とは異なる視点で見ることもできる。


「教員はみんな同じ仕事をしたがる」と郡司校長はおっしゃる。教師ではない人たちが、そこで抜けた部分を埋めてくれれば、学校はより円滑に動くし、教師は教師にしかできない仕事に専念できる。生徒からの相談をカタリバの誰かが聞いてくれていれば、その間、教師は、例えば、教材研究に集中すればいい。教師がなんでも自分たちでやろうとは考えない。現実を考えれば、それもこれからの学校の在り方だろう。
 

 どうして校門が社会に向かって開かれているのか。そこにはこんな意味もあるのかもしれない。






【第4回へ続く】

次回の予定

1月20日(月)
福島県立ふたば未来学園を訪ねて思うこと