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教育ジャーナル Vol.25-4
■「変革者」たれ
「現状維持」という選択肢はないこの時代に
未来創造型教育カリキュラムを
連載の最後となる第4回では、ふたば未来学園の「学びの成果」について見てみる。
全4回(第4回)
■「変革者」たれ
「現状維持」という選択肢はないこの時代に
未来創造型教育カリキュラムを
久しぶりに
福島県立ふたば未来学園を訪ねて思うこと
【全4回】(第4回)
教育ジャーナリスト 渡辺 研
自らを変革し、地域を変革し、社会を変革する、地域を変革する「変革者たれ」。
この言葉をこの学校の建学の精神を表す言葉として、ここに刻もう。
そして私たちが変わるために、社会が変わるために、大切にすべき価値観や考え、変革のための理念は何か。
それは、「自立」「協働」「創造」である(ふたば未来学園の校訓)。
もはや「現状維持」という選択肢はないこの時代に、「変革者」が求められる。
連載の最後となる第4回では、ふたば未来学園の「学びの成果」について見てみる。
◉ 校則改正に見えた学びの成果
郡司校長がおっしゃっていたように、中学生、高校生がどんなに頑張ってもそう簡単に課題が解決できるわけではない。逆にいえば、生徒たちはかなり困難な課題に果敢に挑んでいるともいえる。例えば、ゼミ改編前の昨年度の高校3年生は「原発処理水の海洋放出について」とか「大熊町の風評被害払拭に関する探究」とか「運動が苦手な子はどうすれば動くことを好んでくれるか」とか「双葉郡と愛」とか……。
こうして取り組んで生徒たちが見いだした答えではなく、取り組むことで見えた生徒たちの姿を教えていただいた。果たして「変革者」の片鱗を垣間見ることができるか。
昨年度、校則の一部(ヘアスタイルなど3つの内容について)が改正された。高校の生徒会を中心に実現に2年半という時間をかけた。生徒会役員も変わったが、動きは継続されていた。生徒会の動きは「変えたい。じゃあ、動こう」という勢いに任せたものではなかったのだそうだ。
「中学生も含めてクラス協議をしたり、アンケートを取ったり、みんなが納得する形にするにはどうすればいいかと、きちんと手順を踏みました。生徒だけではありません。髪型とか服装とか、外部の人たちの目にもふれるので、地域の人たちからも意見をもらいたいということで、『学校評議員会に出席させてください』と言ってきたのです」
改正にあたって一番肝心な教師との交渉はこんなふうに進めていった。
「先生方との対話の場もありました。『校則をこんなふうに考えているのですが、ご意見をください』とすごく丁寧に求めてきたので、教員も『こうしたほうがいいのではないか』と前向きなアドバイスをしていました。教員のほうも生徒たちの姿勢に共感したようで、真摯に向き合い、非常にいい雰囲気の会議でした」
服装に関係する規則も少し緩やかになったが「教員たちも、生徒の姿勢に『おかしなかっこうにはならないだろう』と安心していたようです。生徒たちの自主性が育まれたのかなと思います」。
物事には「プラスもあればマイナスもある、イエスもあればノーもある」と生徒たちは考えるのだそうだ。
「なんにでも二面性があると、そういう考えを必ずもちますね」
校則どころか、世の中のすべての課題、例えば、原発処理水の海洋放出についても絶対的な正解などない。
「ですから、安易に自分がそうだと思うほうに突っ走るということはない。自分はイエスだけど、ノーと考える人もいるだろうと、きちんと意見を吸いあげる。今の3年生がよく言っているのは『対話を大切にしたい』ということ。探究でも対話の場をつくりたいということで、自分たちで企画して、双葉みらいラボあたりで対話のミーティングを開くなど、よくやっていますね」
郡司校長に校舎内を案内していただいているときにも、何組かのグループに出会った。
◉ 子どもたちが育ってきている
もう一例、生徒たちの姿を紹介したい。郡司校長は「その反面」とおっしゃる。校則改正時とは少し異なる姿だ。
「生徒たちなりの思いを形にしたいと取り組んだプロジェクトもありました」
校則改正の次の月、当時の生徒会長が、生徒会の1年生から「ウクライナの子どもたちに何かできないだろうか」という相談を受けた。大人の事情に翻弄される子どもたち。この学校の生徒たちなら、特に強く「何かできないか」という気持ちになるのだろう。
「生徒会長は双葉郡の出身で、震災後、何回もいろいろな市や町に転校をしていました」
被災したのはちょうど小学校に入学する頃だった。
「そのたびにイヤな思いをしたのですが、台湾からもらった手紙にすごく励まされ、自分は救われたと言うのです。だから、つらい思いをしているウクライナの子どもたちに手紙を届けたいと」
生徒の知り合いに、ウクライナの支援をしている団体の人がいて、その人を招いて講演をしてもらい、生徒たちが書いた手紙を届けてもらうことになった。
「これは早かったですね。企画から実現まで1か月。突然、『ロングホームルーム(学活)の時間をください』と言ってきました。先生方と『どうする?』『かなりやりたいみたいですよ』『じゃあ、やらせてみるか』という話になったのですが、短期間で立派にやってくれました」
思わず「そんな中高生、好きですよ」と相槌をうってしまった。
「本当に最初から最後まで、生徒主体で進めたプロジェクトでした。私は22年度にこの学校に来て、昨年度が2年目だったのですが、『こういうことができる子たちが育ってきているのだなあ』と思いました」
課題によっては、時間をかけて合意形成していられないこともある。信念をもって全体を説得し納得させて、物事を進めていく。生徒会長が自分の体験を語り、その事情を実感できる生徒たちが共感し、賛同した……ドラマのような場面が思い浮かぶ。根拠はないのだが、演劇を通してこんなやり方を学んだのかと、ふと思った。
◉ 「変革者」の片鱗が
時間をかけて課題を見つけ、整理をし、ゴールのイメージを具体化し、どこからどのように手をつければ解決の道筋が見えてくるか……中学校1年生から時間をかけて課題解決の学び方を身につけてきた。
そしてそれは、週2〜3コマの未来創造学や未来創造探究の時間だけでなく、身の回りの課題、外の世界の課題に対するときにも発揮される。
それが育成を目指す資質・能力だろう。
学校に求められる役割は、門扉を閉じて、その内側で子どもたちを育てることだけでなく、外に向かって開かれた校門から出たり入ったりしながら学べる子どもたちを育てることではないのだろうか。わからないことがあったら、知識が足りないことに気づいたら、教室に戻って新たな力を蓄える。
「変革者」
ふだんはあまり使わない強い言葉なので、ついつい強烈なリーダーシップをイメージするが、生徒会の校則改正には変革者の片鱗が見えた。
本当に大事なことのために粘り強く、手順を踏んで多様な人々を巻き込み、合意を形成し、最終的に課題を解決した姿を、この学校は育てようとしてきた。
でもそれは、どこの学校でも求められる生徒たちの姿だと思う。
2015年の開校から今年度で10年。19年度に中学校が開校し、中学校の第1期生が今年度、高校3年生。いわゆる完成年度だ。
「ある意味、ここがスタート地点です。6年間をここで学んだ高校3年生たちがどんな進路選択をするのか注目しています」
WWLなど、紹介しなかった活動も含めた多彩な教育活動には、ふたば未来学園だから可能なこともたくさんある。リーダー学など、簡単に声もかけられない人たちがゲストとして来校するが、活動が多ければ、教師の仕事も増える。それは承知で学校をお訪ねし、記事にした。カタリバの存在や施設面は、学校だけではどうにもならない反面、学校でどうにかなることを見つけて、地域なりの変革者を育てていただけたらいい、と思う。
【了】
次回の予定
2月3日(月)
Z世代を育てる