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教育ジャーナル Vol.25-6

■「変革者」たれ

確かに「子どもたちのために」が第一。
でも、子どもたちを育てる前に、授業やさまざまな教育活動を確実に実践できる教師を育てなければ。

第2回は、子どもたちの見取りや若手育成の現状などについて紹介する。

全3回(第2回)

■ Z世代(初任校)を育てる

「今どきの若い者はたいしたものです」
―― そんな目で若い教師を育てたい

Walk don’t run! ~急がば回れ

【全3回】(第2回)


教育ジャーナリスト 渡辺 研


確かに「子どもたちのために」が第一。
でも、子どもたちを育てる前に、授業やさまざまな教育活動を確実に実践できる教師を育てなければ。

第2回は、子どもたちの見取りや若手育成の現状などについて紹介する。


◉ 教師にとってどんな時間?

 以前、元文部科学省主任視学官の嶋野道弘先生に「子どもの見取り」をテーマに話を伺った。インタビューには「スタカリは教師にとってはどんな時間なのか」というお話もあったので、抜粋して紹介する(質問部分は略)。

〈ぼくはこう考える。学校の生活や学習の時間を子どもたちと共有しながら、子どもたちの持ち味を出させる時間。何か教えようとか、何かさせようとかするのではなく、一緒に遊ぶとかね。もう一つ言えば、人間関係の空気をつくりだしていく時間ではないかな。〝慣れさせる〞とか〝しつける〞とかすると空気がトゲトゲしくなってしまう。空気を和やかにして、子どもとの距離感を縮めておくと、いつの間にか子どものほうから近づいてきますよ。〉


 これも以前取材した横浜市立永田第小学校の安江教諭もスタカリを通して子どもたちとの距離を縮め、子どもたちに信頼される〝先生〟になっていった。


〈まずは様子をみることがいい。そこで「こういうところまではできる」と、そういう見取りができるわけですよね。そこから新たな関わりが始まればいいわけです。(一部、略)〉


 嶋野先生は「見取り」とは「見たら、捉える」とおっしゃる。「見てわかること」でやめてしまうのではなく、「見ただけではわからないこと」、例えば、「なぜ、この子はそこに関心をもったのか」を解釈する。


〈見取ろうとする教師には「子どもが見えなければ手の打ちようがない」という信念が必要なのですよ。

 もう一つ、子ども観が影響するんです。よく見ている人は肯定的な子ども観に立っていますね。子どもを否定的に見ない。そこには何か子どもなりのわけがあるとか、経緯があるとか、そういうように見ようとする。見取ったら、次の関わり方に生かしていく。そのへんが教育の出発点ではないのかな。そういうことを教師がスタカリの時期にやっておけば、その後、ずっと続いていく。(以下、略)〉

 子どもは安心して伸び伸び育つし、教師は落ち着いて子どもを見る目を磨ける。こんなにいいことはない。
 スタカリが若手育成のための研修などに位置づけられているわけではない。しかし、スタカリをきちんと実施してきた学校で、あえて初任を1年生担任にしている校長の意図を考えてみていただきたいと思う。どんな行動にも、必ず理由はある。


◉ 4割以上が若手、手薄な中堅

 スタカリは次年度の実施をぜひ考えていただくとして、今、目の前の話。

 山形県の小学校の大卒新採育成プランで取材した村山市立楯岡小学校の井上敏春校長にも「若手育成」のお話を伺った。昨年度(2023年度)の鹿野真依教諭に続き、今年度も2名の大卒新採が配置されている。


 改めて、3校に在籍する〝若手教師〟の割合を整理する。ここでは〝若手〟の基準を、〝今の勤務校が初任校である教師〟ということにした。おおむね〝20代の教師〟だ。


 鶴見小は通常級28+個別級10の規模で、該当する教師は19名。うち1名は養護教諭。本郷台小は14学級+4学級で7名。楯岡小は18学級+特別支援学級4+通級教室3で10名。大卒新採の1名は、学級はもたず英語専科。もう1名は3年生の学級担任で新採教員支援の教師がついている。


 地方自治体の人口がこんな比率なら地域も活性化するのだろうが、学校では喜んでばかりもいられない。裏を返せばメンター的立場になる中堅が少なく、誰にも時間的なゆとりがない。それでも10年後、20年後の学校教育を中心となって担う若手教師に確実に育ってもらわなければならない。学校は何かにつけてこうしたジレンマに悩まされる。


 その上、いわゆるZ世代にはデジタル・ネイティブ特有の特性があるといわれ、昭和生まれの管理職には理解しがたいことも多いと思う。でも、こんな時代に教師になってくれた彼らは、教師として向上したいという意欲をもっているのだろうし、そこに接点を見いだせるはずだと思いたい。


 黙って機械の操作を覚える仕事ではない。集団や個々の子ども、その後ろにいる保護者等にどう対応すればいいのか、彼らは先輩のアドバイスを求めている。そのとき、頭ごなしの指導にならないように、ひと手間かけて、なぜそうなのかを合理的かつ丁寧に説明すれば、彼らに〝ストンと落ちる〟。これは、あるプロスポーツの監督の最近のコメントだが、教師にも当てはまるのではないか。

 では、校長先生たちは実際にどう接し、どう育てているのか。


◉ 任せようと思ったら任せる

 最初から言い訳めくが、「こう言えばこう伝わる。こうすればこう育つ」という即効性のある話は出てこない。あくまで、ヒントや参考にしていただきたい。

 田中校長は、若手教師を肯定的に捉えて、こうおっしゃる。

「よく『今どきの若い者は』と否定的に言われますが、今どきの若い者はたいしたものだと思うことのほうが多いです。子どもへの接し方にしても、前向きに頑張ろうとしている。Z世代がどうのという印象はないです」

 教師が肯定的な子ども観をもつことが大事なように、管理職が肯定的な若い教師観をもつことも大事。子どもと同様、若い教師は、こういうことを敏感に感じ取る。その上で、伝えるべきことを伝えるのだが……。

「初任者は社会人としてのスタートなので、言わなくてはいけないことはいろいろとあります。そこは一つ上、二つ上の人たちが『こういうときはこうしたほうがいいよ』と上手に話しているみたいですよ」

 研究会のときはきちんとした服装で臨もうとか、誰かが外で、一人で作業をしていたら手伝おうとか、ここでも若い教師(同世代の先輩)を信用して任せる。

「若い人たちなりに『こうしたほうがいいのではないか』という考えがあると思うんですね。校務分掌も『これはあなたの仕事』と任せます。私がどうこう言うより、そのほうがいいと思いますね。任せようと思ったら任せる。それは意識的にやっています。相談を受ければ、『あとのことは心配せずに、そうやってみましょう』と言うことが多いです、任せたらみんな頑張るし、そのほうが育つ感じはしますね」

 もちろん、〝丸投げ〟するのではない。

「主任も若い人ですが、後ろから支えてくれそうな人を一緒にして『何かのときは支えてあげてください』というようなこともあります。若いときは自分のことだけで精一杯ですが、少し視野を広げて、ほかに気を配る経験はさせておいてあげたい。本校が初任校の人にはそういう経験をさせて、2校目に出してあげたいと思っています」

 Z世代の特性として「縦社会・縦関係が苦手」が挙げられている。それを踏まえれば、校長が〝真上〟から指導するより、同世代の先輩の〝斜め上〟からのサポートのほうが若手教師には有効なのかもしれない。

 コロナ禍が落ち着いてきて、20年度以来、中止や規模を縮小してきた行事が復活しつつある。ここで、単純に元に戻すのではなく、若手教師中心のプロジェクトチームをつくって、行事それぞれの意義を考えつつ新たな形を提案してもらったらどうだろう。自由な発想が発揮されるのか、それとも意外に保守的なのか。そんな興味もわく。






【第3回へ続く】

次回の予定

3月3日(月)
Z世代を育てる