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教育ジャーナル Vol.25-7

■「変革者」たれ

確かに「子どもたちのために」が第一。
でも、子どもたちを育てる前に、授業やさまざまな教育活動を確実に実践できる教師を育てなければ。

第3回は、若手育成の実例を紹介する。

全3回(第3回)

■ Z世代(初任校)を育てる

「今どきの若い者はたいしたものです」
―― そんな目で若い教師を育てたい

Walk don’t run! ~急がば回れ

【全3回】(第3回)


教育ジャーナリスト 渡辺 研


確かに「子どもたちのために」が第一。
でも、子どもたちを育てる前に、授業やさまざまな教育活動を確実に実践できる教師を育てなければ。

第3回は、若手育成の実例を紹介する。


◉ そこにも校長として手を打っている

 「4月に『こんな学校にしましょう』『こんな職員でいましょう』という話をします。それを理解してもらった上で、『あとはよろしく』という感じですね」

「学校経営方針」は明文化してある。そこに「そんな職員集団になるために」としてこんなことが書かれている。一部を紹介する。


子どもたちの話をたくさんします/互いに尊重し合い、敬意をもって接します/感謝やねぎらいの言葉を大切にします/仲間を大事にし、共助とお互いさまの気持ちを忘れません/出勤・退勤時に爽やかに挨拶をします。また、挨拶を返します。〉


「『仕事は楽しくしよう』ということは、よく言います。『元気?』とか『最近、どお?』とか、廊下ですれ違ったときなどに声をかけるよう心がけています」


 昭和生まれの校長の「当たり前」とZ世代の「当たり前」が異なることもある。人間関係、集団生活の「当たり前(基本的ルール)」を共通理解しておいたほうが、無用のトラブルを回避できて、楽しく仕事ができる。


「職員集団~」の中に「自分の失敗も含め、情報交換に心がけます(オープンマインド)」という一文もある。


 若い教師に失敗はつきもの。失敗しても教師同士でそれをとがめることはないのだと思うが、プライドがあり責任感が強い教師は、失敗をオープンにすることが苦手。鶴見小でこれが可能なのはベースに「チーム意識」があるからだ。〝学年の仕事〟であるスタカリに全校で取り組むのもその表れだと思う。


「若い教師でも学級のことには自分が全責任をもつという思いがあり、それは大事です。その上で、学級や学年の壁を越えて『すべての子どもを全職員で育てましょう』と、折にふれて言っています。それが子どもにとってプラスであり、『隠したくなることがあっても、一人で抱えて苦しまずに、学年主任なり児童支援専任に話してください。そうすれば、早く動けて早く解決します』と言っています」


 なぜ、そうするのがいいのかを、ちゃんと説明する。説明するだけでなく、例えば、若い教師が電話で保護者対応しているときは、近くに主任や専任がいて、言葉につまったら「こう答えなよ」という〝カンペ〟(メモ)を渡すこともあるそうだ。


「人が多いので、業務を分担し、出張で抜けてもなんとかなる。ふだんからチームで動き、それが根づいているので、困ったときでも隠さない。そういう風潮ができてきたのはいいと思いますね」


 これを田中校長は「学校の風土」とおっしゃる。土や空気のように自然になれば、そこで若手も子どももスクスク育つ。


「この学校で年数が経った教師たちも、自分がそれを経験して育ったから、若い人を見て『大丈夫だよ、何かあったら言えよ』と言えるし、一緒に考えてあげています」


 学校規模は大きくない本郷台小の原校長も、「環境」という言葉を使って、まったく同じことをおっしゃっていた。


「『わからないことや困ったことがあったら、なんでも聞いてよ』という先輩たちとの関係や職員室の環境が大事です。どこかのクラスの総合の取組を話題にして、みんなで楽しそうに話している光景もよく見られます。まずは居心地のいい職員室にしておくことです」


 もともと、誰かが困っていれば助けようとするのが教師。「困っている」と素直に声に出せる環境があり、本当に声が出せれば、若手教師も一つ育つきっかけになる。


◉ 思いをもち続けられるように

 学校が何かにつけ取り沙汰されているときに、Z世代だなんだといわれても、若い教師たちは強い思いをもって教師という仕事を選んでくれたはずだ。

「頑張ろうという気持ちはあるので、それはずっともたせておいてあげたい。新採の先生にはじめから高い指導力など求めたりしていないですよ。経験を積めば指導力はついていきます。それより、子どものために自分ができることはなんだろうと考え、一生懸命、熱意をもって頑張る、そういうことがあればいいと思っています。この時代に『先生になろう』と思ってきた若い職員なので、その思いを忘れずに、もち続けられるようにしてあげなければと思います」(田中校長)


 若い教師たちがこの仕事に失望してしまったら、やはり同じ思いをもって仕事に就き、思いをもち続けて頑張ってきた校長や先輩は不本意だろう。


 以前、他者理解のコツは「自分と相手の違いを見るのではなく、共通することを見つける」と聞き、実行したことがあった。お互いの共通点が見つかれば、なにげない会話も意外に有効になる。まずは、若手教師を肯定的に見ることが出発点になるのかもしれない。


◉ 褒めるときは、こっそり褒める

 楯岡小では、鹿野教諭の国語の授業も見せていただいた。今年度は4年生の学級担任。落ち着いた授業ぶりだったが、学級担任の仕事ではとまどうことやわからないことも何かとあるようだ。管理職も学年主任も、それは重々承知の上で、「わからないことは遠慮なく質問すればいい」と温かい眼差しで、教師としての成長を見守っておられた。

 経験を積めば、無意識のうちに機械的にこなせる業務でも、若手教諭は時間もかかり、ときにはミスもある。いくら温かな眼差しで見ていても、若手教師が何に困っているのかまではわからない。


 井上校長も「若手教師にかぎらず『あれ?これでいいのかな?』と迷ったときは、やっぱり何か問題があるのですから、必ず誰かに聞くように言っています」とおっしゃる。


「誰かに聞いて『これでよかったんだ』という場合もあれば、『そうではなかった』もある。
 いずれにせよ、『迷ったことは、あなたにとっては正解だよ』と言っています」


「ま、いいか」で済ませるのではなく、若手自ら「わからないから聞こう」と、気軽に思える環境や風土づくりは、思う以上に効果的であり、重要だ。


 さて、井上校長は、「今どきの若い者は」と思うことがないわけではないそうだ。


「校長同士では『そうそう、そういうことあるよね』といった話は出ます。『私たちも若い人から敬遠されたくはないけど、でも、言うべきことは言わないとだめだよね』と共感し合っていますよ」


 校長世代から見ると、若い教師たちには、「どうして?」と、つい気になることはあるようだ。でも、それは当たり前のことだし、管理職というよりも経験が豊富なほうが対応を工夫するしかない。黙っていても、そのうち成長するというものでもないし、かといって、よかれと思う指導でも、この時代、パワハラだと捉えられることもある。


「具体的に指導しますが、一方で、よくやっていることはきちんと褒める」


 いわゆる承認欲求は、きっと誰もがもっており、自信のないことがたくさんある若い教師には特に、褒められること、認められることが成長につながるはずだ。


「でも、職員会議などみんなの前で『A先生はこういうことに一生懸命取り組んで、すばらしい力がついた』と褒められるのは嫌なのだそうです。だから、こっそり褒める」


 それこそ、田中校長がおっしゃっていたように、廊下ですれ違いざま、さりげなく「そういえば、この間の取組、本当によかったよ」と褒めるくらいがいいのかもしれない。


◉ 中堅の先輩教師が核になって

 若手教師にどう思われようとも、管理職として、先輩として、言うべきことは言わなければならない。もちろん、頭ごなしにではなく、褒めることも織りまぜながら。

「授業はともかく、学級づくり、子どもたちの人間関係づくり、保護者との信頼関係づくりは、どこからどう進めていったらいいか、若いうちはなかなかわからない。若手を育成しようと思ったら、丁寧に、具体的に、一つずつ、『わかっています』と言われても『本当にわかってるの?』と対話を大事にしながら進めていくしかない。これは間違いないです」


 以前は、職員室で教師同士が楽しそうに子どもの話をしていたし、そこから自然に対話も生まれたが、そんな光景もあまり見られなくなったそうだ。楯岡小では今年度、その機会を別の形で設けた。


「昨年度、異動で来た、本校が2校目でもうじき30歳になる教員が、『若い先生たちのつながりを大事にしたいから〝学びカフェ〟をつくってもいいですか?』と言ってきたのです。『もちろん、いいよ』と即答しました」


 何曜日かの放課後、都合がつく若手教師が各自ドリンクなどを持って自由に参加し、子どものこと、授業づくり、学級経営などテーマを設定して若手同士、遠慮なく論じ合う勉強会だ。提案者のこだわりをもって「MIRAICAFÉ」とネーミングされた。


「これが40代、50代ではだめなのですよ。2校目の中堅。彼が核になってくれて、いい形ができたと思います」


 動きはじめると、出番がくる。あの先生のような授業ができるようになりたい、あんな子たちが育つ学級経営のコツを知りたいと、ゲストに招かれることもある。


「『今度、校長先生に講師として来てもらってもいいですか?』と言われましたよ」

 そこでは、校長の話を聞く若手教師の姿勢も違ってこよう。「なるほど」と思ってもらえれば互いの距離は縮まり、ふだんの言葉かけも気持ちに沁しみていきそうだ。

 数十年にわたって子どもたちの成長を手助けする仕事をしてきた校長先生には、その経験の中に若手教師を育てるコツも見つけられるはずだ。思い起こしていただきたい。






【了】

次回の予定

3月17日(月)
「未来を創る力」を育てる