学研『教育ジャーナル』は、全国の学校・先生方にお届けしている情報誌(無料)です。
Web版は、毎月2回本誌から記事をピックアップして公開しています。本誌には、更に多様な記事を掲載しています。

教育ジャーナル Vol.26-4
■「未来を創る力」を育てる②
川崎市の「みんなの校庭プロジェクトリポートの第2回は、
教師の負担軽減につながった校庭解放の基本ルールなど、運用の仕組みを中心に紹介する。
【全2回】(第2回)
■「未来を創る力」を育てる②
「ボール遊びができる場所がほしい」
という子どもの声から始まった
川崎市の小学校「みんなの校庭プロジェクト」
【全2回】(第2回)
教育ジャーナリスト 渡辺 研
川崎市の「みんなの校庭プロジェクトリポートの第2回は、
教師の負担軽減につながった校庭解放の基本ルールなど、運用の仕組みなどを紹介する。
◉ 遊ぶ日は必ず保護者に伝える
校庭開放の基本ルールを紹介しておく。
体育館の使用はNG。校庭はだいたい職員室に面していて、子どもたちの様子がなんとなく教職員の目に入るが、体育館は大人の目が届かないので、現状では開放はしない。
遊ぶ日は、「明日は学校で遊んでから帰る」と、保護者に伝えておく。これは厳守。
時間はおおむね16時〜16時半まで。開放の曜日や遊べる学年は学校ごとに決める。水曜日は開放しない学校が多い。ある学校は「火・木・金。4年生以上」、別の学校は「木曜日は3年生以上、金曜日は4年生以上」。
「学校で必ず守ってもらうルールは、今でいえば(話を伺ったのは夏休み少し前)、熱中症対策です。その危険がある日は開放を中止。この日は中休みや昼休みも含めて外遊びは禁止で、校庭に目印になるカラーコーンを置く学校もあります」
コロナ禍で、抑制の効いた生活を経験してきた子どもたちには、熱中症の危険も理解していることだろう。
「実は、個人的に思っていることがあります。校庭開放中に、災害級の地震がきたらどう対応しようということです。校内にいるので教職員が誘導することになりますが、校長会と話し合っていこうかと思っています」
軽々しく意見を言える問題ではないが、町なかの公園にいるよりも安全だとは思う。
ルールは、何年かごとに適宜、見直していくことになる。子どもたちが決めたルールも、特に不都合はなくても、ルールづくりの中心となった5、6年生が卒業したあと、形骸化を防ぎ、そもそもの意味を再確認するためにも、子どもたちの話し合いの場を設けるといいだろう。例えば、「5年生になったら、ルールの話し合いができる」というのも、ちょっと子どもの心をくすぐるのではないか。
◉ 学校管理下ではないことの理解
もともとは、保護者や地域住民も交えた車座集会によって実現した取組ではあるが、全校実施にあたっては、担当者は保護者や地域に丁寧な説明を行った。
地域の人たちは校庭の開放を喜んでいたそうだ。まあ、想像はつく。
「保護者は『昔は校庭で遊べましたよね。今は、遊んではいけなかったの?』という方が多かったですね。中には『子どもを見に行ってもいいですか?』という方もいました。PTAの会長さんたちからは『私たちも広報します』と後押ししていただきました」
教育委員会でも、家庭向けに発行する『教育だより かわさき』を通して毎号、校庭開放を伝えている。
保護者にとっては子どもがどこで遊んでいるのかわからないよりは、校庭で遊んできてくれるのは安心だし、町なかの公園よりも校庭は間違いなく安全だ。
ただ、学校管理下ではないことについて、本当に理解されたのかという心配は残る。
例えば、校庭で遊んでいてケガをしたとき、学校の責任を追及するような理不尽なことにはならないのか。学校管理下でケガをした場合は、学校の保険(日本スポーツ振興センターの災害共済給付)の対象になるが、校庭開放では対象にはならない。
こうしたことを踏まえて、地域教育振興課作成の「みんなの校庭プロジェクト」のチラシの中で、学校ごとのルールに加えて「保護者のみなさまへ」として説明をしている。
「この部分が、校庭開放のマスター・ルールのような感じです」
子どもたちによるルールづくりとともに、保護者が意図を正しく理解していることが大事な柱なので、説明の一部を紹介する。
●校庭開放は公園の代わりとして場を開放しているため、学校及びわくわくプラザの管理とはなりませんので、次の点にご理解をお願いいたします。
●事前の申し込みや当日の利用受付などは行いませんので、放課後、校庭で遊ぶ日はご家庭で帰宅時間などを話し合った上で利用してください。
●お子さんが校庭開放中や校庭開放から帰る途中にケガをした場合、学校の保険の対象にはなりません。
※ご心配な場合は、任意での保険加入をご検討ください。(参考としてPTA推奨の任意保険が具体的にあげられている)
●ケガなど困ったことがあった場合、〝何かあったときに身近に頼れる大人〞として、わくわくプラザに声をかけるようにお伝えください。なお、保護者への連絡が必要な場合、学校からわくわくプラザに連絡先をお伝えすることがあります。
●保護者の方の参加も可能ですので、子どもたちの見守りにご協力をお願いします。
校庭で遊ぶ子どもに責任をもつのは保護者。学校によるサービスではないことを理解して、
「うちの子を見に行く」のではなく、「(少し離れたところから)子どもたちを見守りたい」というところまで意識を広げてもらえるといいと思う。
◉ 遊びを通して学べる
「みんなの校庭プロジェクト」により、これまで校庭開放を実施していた多くの学校で、教師はこの時間、子どもたちが遊ぶ様子を見守っていなくてもよくなった。でも、「そうは言っても……」と何かにつけて心配するのが教師だ。「ボールが紛失したら授業に支障が出る」という心配もその一例。さて今、教師はどうしているのか。
「子どもと一緒に遊んでいる先生もいます。最初のうちは、ケガをしたらどうしようとか、片づけは大丈夫かとか、心配になって校庭に立っていた先生もいたようです。でも、運用が落ち着いてくると、『子どもに任せた』という状態になってきました。保護者や教師にも〝場の開放〞という形が定着してきました」
あえて子ども主体で進められ、子どもたちが頑張ってルールをつくり「みんなの校庭」を実現した。あれこれ口出しはせずに、子どもたちの姿を職員室の窓越しに何げなく見守っているのも十分に教育的なやり方だ。
校庭を公園だと考えれば、今後は地域の人たちとの交流の場として捉えた展開も可能かもしれない。でもともかく、気候が穏やかになったらまた、子どもたちは余計なことは考えずに、校庭で思いきり遊んでほしい。ルールづくりをはじめ、遊ぶことを通して小学生が学べることはたくさんあるはずだ。
全国それぞれ事情は違うが、皆さんの学校でもこの取組が可能かどうか、道徳の時間にでも子どもたちの意見を聞いてみたらどうだろう。「どんなルールをつくれば、放課後の校庭で、みんなで自由に遊べるかい?」と。
【了】
次回の予定
5月26日(月)
2024年度の授業参観