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教育ジャーナル Vol.27-1

■2024年度の授業参観
中学校1年生英語科/小学校1年生体育科(スタカリ)/小学校6年生家庭科

教えるのではなく授業を通して子どもたちが
自律した学習者として育つことを手助けする

教師の意識は変わり、授業改善は進んできた

【全4回】(第1回)

■2024年度の授業参観
中学校1年生英語科/小学校1年生体育科(スタカリ)/小学校6年生家庭科


教えるのではなく授業を通して子どもたちが
自律した学習者として育つことを手助けする

教師の意識は変わり、授業改善は進んできた


全4回【第1回】


教育ジャーナリスト 渡辺 研


教科の特色のせいなのだろうか。あるいは、単元内での位置づけのせいだったのだろうか
参観した授業では、教師は前面に出ることなく、子どもたちができるはずのことを引き出し、
夢中になれる手立てを工夫し、個や協働の場面を用意した。
そこで子どもたちは、声を出し、体を動かしながら楽しそうに学んでいた、
いつの間にか、こんな授業風景が当たり前になってきた。



新潟市立白新中学校・令和6年度公開授業(校内研修より)
1年1組英語科(上村慎吾教諭)
「白進中学校の合唱発表会をShow&Tellでどのように説明するか?」

◉ 英語科の本質とは

 二人の女子生徒が教壇に立って、「Standup! 合唱隊形になってください」とみんなに声をかける。楽曲『カントリーロード』が流れ、モニターに歌詞が出る。

 前にいる二人が指揮をするように手を振り、並んだ男子生徒4人が歌いながら自然に肩を組む。英語が自然に口から出てくるように、授業のウォームアップだ。

「歌がバロメーターなんです。歌えるときは授業がうまくいくし、歌える雰囲気ではないときは、授業者が頑張らなければいけない」と上村教諭。そのニュアンスはよくわかる。この日は参観者がいたにもかかわらず、歌の様子からすると、うまくいきそうだ。

 授業は、「Show & Tell(以下、S&T)」。物や写真を見せて、それについて伝える(説明する)英語によるプレゼンテーションだ。上村教諭もこの授業は英語で行っている。

 単元名は「School Life in the USA Lesson5」。

 単元の目標は①「現在進行形を用いて、学校生活に関する写真や絵、動画などの状況を説明することができる」(知識及び技能)/②「海外の方とのビデオ通話を通して、学校生活について共通点や相違点に着目しながら、自身の学校生活を即興的に紹介することができる」(思考力、判断力、表現力等)/③「海外の方に自分の学校生活を説明するために、級友と説明の内容や方法をアドバイスし合ったり、改善し合ったりしようとしている」(学びに向かう力、人間性等)

 本時は10時間単元の8時間目だが、授業には単元の目標3つが凝縮されていた。

 偶然にも白新中ALTの姉Fさんが、アメリカ・フロリダ州のミドルスクールで教師をしていた。Fさんは弟を通じて日本の学校教育についての情報を得ており、日本の中学校に興味をもっていた。そこで、実際にビデオ通話を通してFさんと中学生とが情報交流(S&T)を行う機会を、単元の第1時(スクールランチ=給食について)と第9時(合唱発表会について)に設けた。

 単元全体が「Fさんと英語で情報交流(コミュニケーション)を行うには、自分たちにはどんな力が必要で、それをどう身につけるか」という構成になっている。本時は、Fさんとの2回目の交流を控え、聞き取りと説明の精度を高める練習(リハーサル)を行う。

 上村教諭は「コミュニケーション力を高めるのが英語科の本質」だとおっしゃる。コミュニケーションなのだから、練習にも〝相手〞が必要。相手(しかも、顔見知りの教師やALTではない人)がいるから生徒も本気になる。本時でも〝Fさんの代理〞を教室に〝招いた〞。いったい誰が登場したのか。


◉ 学校全体の風土の中で

 先に述べておくが、参観して授業全体に「今どきの1年生は、こんなに臆することなく英語をしゃべり、少しぐらい間違ってもまったく気にしないんだ」という印象をもった。でも〝今どきの〞は誤りで、正しくは〝このクラス、この学校の〞だった。

 上村教諭はこれを「学校全体の〝風土〞が大きいですね」とおっしゃる。

 白新中の授業は、ここ数年、なんらかの形で紹介してきた。道徳でかなり生徒個々の内面に踏み込むようなテーマでも、生徒たちはよく発言していた。「深い学びに至る対話」だけでなく、「自分とは異なる他者を認め合う対話(他者意識を育む)」が成り立つ空気が学校にはある。それが長年にわたり、ファシリテーション(FT)を基盤にして学校全体が対話を促進してきたことによって醸成された、まさに風土だ。授業も〝独立した1コマ〞ではなく、その風土の中で行われていた。ただ、それがすべてではない。

「あの姿は、学校全体の取組と各教科担任の指導力によります。白新中は前者のアドバンテージがかなり大きいですが、それを生かして、英語以前にコミュニケーションの土台を作らなければなりません。ある境界を越えると、生徒たちは間違いを恐れなくなりますが、そこまでにはいろいろな試行錯誤をしてきましたし、生徒も頑張りました」

 その成果であろう授業者のかかわりの姿は、授業の中でちゃんと見せてもらえた。


◉ S&Tのモデルをつくった

 『カントリーロード』は、こんな授業に生徒たちを連れて行った。
 
 第1時で生徒たちとFさんとのやりとりの中で、Fさんからアメリカのスクールランチについて説明してもらった(S&T)。そこでのFさんの説明の仕方を聞いて、次回はどのように説明すれば自分たちのS&Tが相手に届くのかを学んだ。それをもとに第2時ではFTを通してFさんの説明を分析し、S&Tのモデルをつくった。

【分析】①写真の提示・内容=あいさつ→写真への促し→写真の提示→行事の呼び方/②写真の説明・内容=していること→していることの具体的な説明・補足説明→場所はどこか→いつ行うか/③まとめ・内容=自分の感想↓聞き手へのあいさつ

 そうしてつくったモデルが下記の表。空欄に具体を入れて説明する。

 
 ちなみに、FさんのS&Tでは①の二つ目の空欄には「lunch time」が入る。②の1段目の部分では「They are eating lunch.Some students bring lunch from home.Others buy lunch.」と説明・補足説明がされていた。そのまままねたのではなく、説明をもとに、生徒は自分たちのモデルをアレンジしていた。

(第3時〜第7時は教科書に基づき、現在進行形を使って写真の様子や映像を生徒同士で説明する活動や、教科書や他校の学校行事の写真を、モデルをもとにどのように説明すればいいかを考えた。音読練習にも取り組み、FさんへのS&Tの準備を進めた)

 歌のあと、まず第1時でFさんと交流した際の動画を視聴して、本時では何に取り組むのかを明確にした。第1時ではFさんからの質問に答えて、生徒たちなりに白新中の演劇発表会を伝えようとしたのだが、そう簡単に説明できるわけはなかった。

 しかし、うまくいかなかったことを自覚できたおかげで、改善へのモチベーションも上がったようだ。上村教諭の発問は、「演劇発表会をFさんにどのように説明しますか?(発問も英語)」。モデルを確認しながら、モデルを使って隣同士がペアになって演劇発表会のS&Tを整理する。コミュニケーションなのだから、ただ空欄を埋めるのではなく、必ず相手がいることを想定する。
(例に挙げたモデルも、説明するものが違うので「They have」を「They are」に変えたりする)

 「フェスティバル」「役を演じる」「ルッキング ドラマ」……ペアであれこれ声を出しながら考えられるのは心強い。上村教諭は机間巡視しながら、生徒から適切な言葉を引き出せるような働きかけを行う。

 これも授業者の仕掛けの一つ。ペアで会話する場面を設けるとき、ペアは〝常に隣同士〞と固定化するのではなく、前後左右、斜めなど〝ご近所さん〞で組み合わせを工夫する。こうすることで、自信も生まれ、しだいに人前でも間違いを怖がらなくなっていく。

 全員でシェアするため、二人の生徒が堂々と発表(S&T)した。

「〜It is a picture of Drama Presentation.We call it 〝Engeki〞 in Japan. They are performing Drama. 〜」



◉ 仮想のような現実の中で

 上村教諭が「今日は、Fさんとの2回目のミーティングのためのリハーサル」と言って、授業が本論に入り、Fさんの代理となるスペシャル・ゲストが登場する。

 モニターに登場したのはアメリカ・フロリダ州在住のエレン・ブラウンさん(以下、Bさん)、30歳。彼女がリハーサルのための相手をしてくれる。

 実はこの〝人〞はAIアバター。AI教材アプリ「Avatars AI by Neiro」を活用したものだ。あらかじめBさんのセリフを上村教諭が打ち込んでおけば、それを生徒たちに語りかけてくれて、コミュニケーションにリアリティをもたらしてくれる(〝人物〞や声色は設定段階で選択可能)。一人1台端末時代、こんな英語学習も可能になった。デジタル世代の生徒たちに違和感はないようだ。

 Bさんが自己紹介し、生徒に「and you?」と話しかける、促された生徒が「me too!」。笑いと拍手が起きる。語学学習にはこの軽やかさが大事。Bさんは続けて地元のミュージック・コンテストの様子を説明し、白新中の音楽コンテストを説明してほしいと、いくつかの質問を投げかけてきた。そこで、「Today’s goal is 〜」とこの授業の課題が示される。

「白新中学校のコーラスプレゼンテーション(合唱発表会)についてS&Tをしよう」

【学習課題】「合唱発表会をどのように説明するか」
 
 Fさんにも合唱発表会についてS&Tをするのだが、そのときはモデルを見ないでしゃべれるように、今日はBさん相手に練習。自分の練習の様子は動画で撮影しておく。まずは生徒それぞれがモデルに基づいてS&T。

 上村教諭の「5・4・3・2・1 Ready Go!」の合図で教室じゅうに一斉に声があがる。タブレットの画面に写真を示しながら英文がポンポンと口から飛び出してくる。「We call it 〝Gassho〞 in Japanese.」「We are singing a song.」……前述の印象をもったのはこの場面のインパクト。自信をもってモデルを身につけたようだ。

 もうこれで次回の交流は大丈夫……ではなさそうな展開に、授業は入っていく。






【第2回へ続く】

次回の予定

6月9日(月)
2024年度の授業参観