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教育ジャーナル Vol.27-2

■2024年度の授業参観
中学校1年生英語科/小学校1年生体育科(スタカリ)/小学校6年生家庭科

教えるのではなく授業を通して子どもたちが
自律した学習者として育つことを手助けする

教師の意識は変わり、授業改善は進んできた

新潟市白新中学校の令和6年度公開授業の後編をお届けする。

【全4回】(第2回)

■2024年度の授業参観
中学校1年生英語科/小学校1年生体育科(スタカリ)/小学校6年生家庭科


教えるのではなく授業を通して子どもたちが
自律した学習者として育つことを手助けする

教師の意識は変わり、授業改善は進んできた


全4回【第2回】


教育ジャーナリスト 渡辺 研


教科の特色のせいなのだろうか。あるいは、単元内での位置づけのせいだったのだろうか。
参観した授業では、教師は前面に出ることなく、子どもたちができるはずのことを引き出し、
夢中になれる手立てを工夫し、個や協働の場面を用意した。
そこで子どもたちは、声を出し、体を動かしながら楽しそうに学んでいた、
新潟市白新中学校の令和6年度公開授業の後編をお届けする。



◉ 生徒たちも学び方を選択する

 今、行ったS&Tは生徒の一方的な説明。厳密にいえばコミュニケーションにはなっていない。そこで、生徒たちには次のタスク(やるべき仕事)が与えられた。

 「Bさんは何を知りたいと言っていた?」と指示され、改めて質問の部分を聞き直す。Bさんは〝普通の速さ〞で話すので、何回か出てきた「What」くらいは聞き取れるものの、生徒たちは一瞬、固まってしまう。

 Bさんは何を知りたいと言っているのか、それを聞き取り、適切な表現で答える。それが本番直前の本時の課題。

 2回目のFさんとの交流でも、用意した合唱発表会の説明を一方的にすればよいわけではない。当然やりとりがあり、想定外の質問がされるかもしれない。Fさんとのビデオ通話でも即興でS&Tを行えるように、本時ではBさんの依頼に応じたS&Tを即興的に行う場が設定された。これではじめてコミュニケーションが成り立つ。

 もちろん、とんでもなく難しいことを聞いているわけではなく、聞き取ってしまえば、1年生の英語力で応答できる問いだ。でも、モデルに単語を当てはめる活動に比べると格段にハードルが高い。

 「もっと確認したい? 一人だときつい? グループになる? じゃあ、FTのグループになってください」

 授業者からすれば、取り残される生徒がいないように、あるいは生徒の学びをより確実にする工夫ではあるのだが、生徒のほうも、「一人でもできる」、「ペアで大丈夫」、「グループでないと手に負えない」と、課題の難易度に応じて判断できるようだ。

 今ではたぶん白新中学校に限らないと思うが、〝学び手〞もずいぶん〝自分に適した学び方〞を身につけてきたようだ。小学校でも、児童のほうから「少しグループで話し合いたいです」と要望が出される場面もある。授業改善の成果が、子どもたちのこんな姿になって表れているのだと思う。

 実際、この課題は生徒たちにとって、かなり難関だったようだが、それでも生徒たちはタブレットに耳をくっつけて一生懸命聞き取ろうとする(聞かれたことと応答の整理には〝くま手チャート〞を活用)。あるグループのやりとりに聞き耳を立ててみた。

 「What を1回とWhy も言っていた気がする」「Why do you……」「確かに言ってた」
 

 上村教諭はグループの間を歩き、「お、聞けたね。You got it !」。
 

 机間巡視をしながら、オーバーなくらい褒める。「生徒が喜んでくれて、授業に乗ってくれるんですよ」とおっしゃる。これも、やがて生徒たちが間違いを恐れなくなるための手立ての一つだ。

 「なんのためにやっているんですか?」「私たちは経験のために歌を歌います……かなあ」
 

 徐々に、教室のあちらこちらから生徒たちの〝英文〞も聞こえてくる。
 

 再び上村教諭がこのグループに戻ってくる。

 「『勉強のために』って、なんて言う?」「『for study』?」「for ! We are singing for 何?」「なんのために……個々の目標を達成するために……」「それじゃあ、目標は?」「goal、かな」

 少しずつ、受け答えができてきた。


◉ 1分間のブランク

 各グループでかなり聞き取りができた。10数分の時間をとったあと、全体でBさんの問いにあった重要な言葉を整理する。

 「What 〜」、「Where 〜」、「When 〜」、「Why do you have it」?

 「なんて答える? Sさんがうまく言ってる。惜しかったんですよ。ちょっと聞いてみよう」と、初めに個々で行ったときのSさんのS&Tの動画をみんなで共有する。うまく使えば、やはりICTは有効だ。授業でももう、いかに効果的に活用するか、好事例を共有していかなければならない。

 「Why にどう答えます? 何かつぶやいてくれた人がいましたね。We are singing a song 〜。では2回目」

 1回目と同様、個人で写真を示しながらS&Tを行い、その様子を録画する。でも、声がかかっても、
「What とWhy と……」「え? なんで?」と、まだ生徒たちの準備が整わない。5・4・3と始まったカウントダウンもいったん停止。

 英語でしゃべることに躊躇はない。ただ、相手に伝えたいことを明確にしておきたい。「なぜ?」と聞かれて、1年生は中学校で初めて体験する11月の合唱発表会(授業が行われたのは10月)の意義を考えたことがあったのだろうか。流暢にしゃべることより、そこがコミュニケーションの最も肝心な部分だ。ここを間違えたくはない。1分ほどのブランクは、生徒たちのそういう姿勢だったのかなと勝手に想像した。学習者としての自律の表れなのかもしれないし、授業者もそれを尊重した。

 ちなみに、白新中では5月の体育祭(学校全体)、9月の演劇発表会(学年単位)、11月の合唱発表会(学級単位)は重要な教育活動として教育課程に位置づけられ、コロナ禍でも実施された。それぞれが、あるいはトータルしてどんな意味をもつのかを生徒たち自身が自覚してはじめて、取り組む意義が生まれる。Bさん(=上村教諭)の問いは、何気ないようでいて実は核心をついていた。

 「いけますか? じゃあ、いくよ」と再スタート。「〜ready go! どうぞ」。今度は一斉にS&Tが始まった。


◉ 教師は〝教える人〞ではない

 個々のS&Tのあと、指名されたAさんがみんなの前で、〝リアルS&T〞。彼は「Why」には「We are singing it for our class.」と答えた。

 「Nice ! perfect ! 」。拍手が起きる。これも学級や学校を包んでいる空気。
 「今日は皆さんがグレードアップするためにこれが入りました。『Why』。彼は『〜for our class クラスのために歌う』と言いました。すごいね。今日の全校集会で、合唱発表会実行委員の皆さんは何のために合唱をやるんだと言っていましたか?」

 「それは何?」「いつ?」に比べるとかなり難易度は高い。「個々の目標」「成長」と生徒たちは口々につぶやく。

 「成長。じゃあ、for our 成長。成長ってなんて言う?」

 「グローイングアップ」「スケールアップ」「レベルアップ」「グレードアップ」……。

 「さっきNさんが言っていた言葉がとてもシンプルでいいですよ。自分たちの成長を考えると、成長には目標があるわけですよね。目標ってなんですか? Nさん、Let’s say ! 」

 「We are singing it for our goal.」

 「Very nice !『for our goal』、こんな表現でも素敵ですよね。最後のS&Tでここまで皆さんが言えました。おつかれさまでした。じゃあ終わりましょう」

 「Good-bye, Mr.Kamimura ! 」

 終わりのあいさつもSO COOL!

 この授業で上村教諭は生徒たちに何も教えなかった。生徒が学ぶ必然性をもつ仕掛けをし、既習事項を思い出させ、力を合わせれば答えを出せる課題を用意し、的確に褒めた。おかげで生徒たちは学習者として少し成長し、成長を自覚できた。しかも楽しげに。

 生徒の姿とともに、〝常に何かを教える人〞ではない教師像も見せていただけた。


 






【第3回へ続く】

次回の予定

6月23日(月)
2024年度の授業参観