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教育ジャーナル Vol.30-6
■リーディングスキル(RS)を意識した小学校の授業
会津美里町立高田小学校RS授業参観
実は、日本語は難しい。「よく読みなさい」だけでは正確に文章を読み取る力は育たない。
【全2回】(第1回)
■リーディングスキル(RS)を意識した小学校の授業
会津美里町立高田小学校RS授業参観
実は、日本語は難しい。「よく読みなさい」だけでは正確に文章を読み取る力は育たない。
全2回【第1回】
教育ジャーナリスト 渡辺 研
◆問題文の意味がわからない?
福島県会津美里町立高田小学校(博多弘泰校長)で5年生の算数の研究授業を参観させていただいた。参観の視点はリーディングスキル(RS)。会津美里町ではRSに力を入れており、町の取組として毎年、中学校1年生と町の小・中学校に転入してきた教職員がRST(〜テスト)を受検しているほどだ。
さて、ではRSとは何か。一から説明するとそれこそ“ロング・ストーリー(話せば長くなる)”なので、ひとまず学校においては「教科学習の主たる教材である教科書を含む多様なテキスト及びグラフや図表等の各種資料を適切に読み取る力(=言語能力)」(令和3年中央教育審議会教育課程部会の「審議のまとめ」より)と考えていただくといいだろう。
RSは、そもそもはAIの可能性をさぐる研究の副産物(仮説)として着目された。
先生方の中には「知識はあるはずなのに問題が解けないのは、問題文の意味(何を問われているか)が理解できていないのではないか」と感じられた方も少なくないようだ。「授業がよくわからない」のは、教科書などに書かれた文章の意味がわからないのではないかという疑問もある。それは「文章をしっかり読もう」では解決できないし、日本語の読解はけっこう難しい。どのように読めば、書かれていることを正確に読み取れるのか。その読む力を育てていこうという取組だ。
福島県では令和2~4年度に「AI時代を生き抜く読解力向上事業」に取り組んだ。そこではRSを「基礎的・汎用的読解力=事実や根拠に基づいて書かれた文章(教科書や新聞、説明書など)の意味や内容を正確に理解する力」と捉えて、RSの視点を加えた授業改善に取り組んだ。
会津美里町の学校はこの事業の研究協力校ではなかったが、その重要性を認識し、前述の実践を続けている。
高田小学校では、博多校長が着任した4年度から本格的に取り組んできた。
「やはり、本校の児童にも教科書や文章題の問題文を正確に読む力を育てないと、求められている力をつけることはできないだろうということで始まりました」
当然といえば当然かもしれないが、特別な教材はない。教科書こそまさに最適な教材。この日の授業でも、授業者は教科書の中から子どもたちが迷ったり、勘違いしたりしそうな個所を見つけていた。
実は、RSには6つの視点がある(RSTの6つの問題タイプ)。
RSTは受検者の基礎的・汎用的読解力を6つの問題タイプで測定するのだが、それがRSを意識した授業の視点になるので、紹介しておく。
【係り受け解析】文の基本構造を把握する力
【照応解決】代名詞などが指す内容を認識する力
【同義文判定】2つの文の意味が同一かどうかを判断する力
【推論】論理的に推論する力
【イメージ同定】文と非言語情報(図表など)を正しく対応させる力
【具体例同定】(辞書)辞書の定義を用いて新しい語彙と、(理数)理数的な定義を理解し、その用法を獲得する力
(※一般社団法人 教育のための科学研究所HPより引用*)
授業者もこの視点に基づいて教科書のチェックを行っている。
今回は、何か特別な授業ではなく、RSを意識した通常の授業を紹介する。それでも、教師が意識して取り組むことで、子どもたちに伝わるものがあるはずだ。
*一般社団法人 教育のための科学研究所 URL https://rst-web.s4e.jp/
◆より安くなったのは、どっち?
5年1組の算数。授業者は益戸郁実教諭(学級担任)。高田小学校は4年目で、これまでもRSに取り組んでいる。
単元名は「小数の倍」(5時間中第5時)。
本時の目標は「倍を表す数が小数の場合も倍を使った比較の仕方を考え、説明することができる」。
第4学年「倍の見方」で、整数倍による比較と、割合という用語を学習してきている。本時では、小数倍による比較を整数倍の場合と統合的に理解し、第14単元「割合」の学習につなげたい。
この課題、かなり難しい。子どもたちだけでなく、大人にも難しい。
授業は6月。2学期に設定されているある内容を学習していれば、本時の例題も簡単に解けて、合理的な説明も容易だが、それはまだ使えない。
だから子どもたちは悪戦苦闘していたのだが、こういう道筋を経て、学習は進んでいくのかと、改めて知ることができた。授業の詳細まではお伝えできないかもしれないが、想像はしていただけると思う。
「本時の目標を達成するためにおさえたい言葉・内容」は「差/倍/小数/整数/*安売り/*値引き/*割合」。*印は子どもにとって親密度の低い言葉。
「RSの6つの視点を活かした手立て」=分かりにくい言葉の意味の確認や言い換え等を行い、問題文を正しく捉え(係り受け解析)、数直線に表すことができる(イメージ同定)/数直線の図をもとに、ゼロに近いほど値引きの割合が大きい(=値段が下がった)ということを理解し、倍を使った比較の仕方を説明することができる(推論)。
【例題】あるお店で、おにぎりとハンバーガーの安売りをしています。もとのねだんと、ねびき後のねだんを比べて、より安くなったのはどちらといえますか。
160円のおにぎりが129円、200円のハンバーガーが160円で販売されていた。5年生はまだ「おにぎりは25%オフ、ハンバーガーは2割引だから、おにぎりのほうがお得」とは答えられない。
◆要点を読み取る力を育てる
日直の児童が「立腰」「はい!」「黙想。これから5時間目の学習を始めます」「おねがいします!」。
元気よく始まった授業。途中、頭が混乱したり、なかなかストンと腑に落ちなかったりしても、最後まで元気は維持された。学級の空気感は良好。
まず、設問をノートに書き写す。よくある光景だが、でも、その前に。
「今日はどこから書く?」と益戸教諭がたずねると、子どもたちが一斉に「もとのねだんと~どちらといえますか」と答える。「じゃあ、今日は『もとのねだんと~どちらといえますか』でいきましょう」
まず初めに問題文全体の構造を把握する。実生活では「おにぎりかハンバーガーか」の選択は重要だが、この算数の授業の本質は共書きをした後半の文章。どの教科でもこれを実行すれば、要点を読み取る力は育っていくことだろう。
益戸教諭が念を押す。
「安売りってなんだっけ?」――児童「ねびき! 前より安くなった」(以下、同形式)
「買いに行ったのは何?」――「おにぎり!ハンバーガー!」
「おにぎりは何円から何円になったの?」――「160円が120円」
「ハンバーガーは?」――「200円が160円」
「先生はどっちを買えばいいと思う?」――「おにぎり!」
「どうして? 近くの人と話してみて」
子どもたちの話し声に耳を傾けると、値段が安いおにぎりが圧倒的に多数。5年生の生活実感からすると、そこが選択の基準になるのだろう。でもこれは算数。
「どっちがいい?」――「おにぎり!」「安いから!」
「何が安いの?」――「値段!」
「値引き後の値段ね。なるほど」――「おにぎりよりハンバーガーのほうが大きいから安あがり」
「Aさんは一生懸命、何をやっているの?」――「計算している」
黙って問題を解いていたら、こんな答えや説明になっていたのかもしれない。
「じゃあ、赤ペンを持って。今回、求めるのは何?」――「より安くなったのはどっち」
「より安くって?」――「値引きされた値段」
「値引きって何?」――「安くなる」
「おにぎりはどのくらい安くなったの?」――「40円」
「なんで40円ってわかったの?」――「160円引く120円は40円」
「40円安くなったってことね。ハンバーガーは?」――「200円引く160円は40円」
「ということはハンバーガーも40円安くなった。それでも先生はおにぎりを買うの?」
文字にするとけっこうな行数になっているが、教師と子どもたちとのやりとりはテンポよく進んでいく。
ふだんからこんな導入が行われているのだろう。
(第2回に続く)
次回の予定
2月2日(月)
リーディングスキル(RS)を意識した小学校の授業②