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教育ジャーナル Vol.30-7

■リーディングスキル(RS)を意識した小学校の授業
会津美里町立高田小学校RS授業参観
実は、日本語は難しい。「よく読みなさい」だけでは正確に文章を読み取る力は育たない。

【全2回】(第1回)

■リーディングスキル(RS)を意識した小学校の授業

会津美里町立高田小学校RS授業参観


5年1組の算数。「より安くなったのはどっちなのか?」子どもたちとのやりとりが続く。



全2回【第2回】


教育ジャーナリスト 渡辺 研



◆もしもここを軽視していたら

 このやりとりはまだ続く。
「では、聞きます」と言って、こんな例を挙げた。


 100円のチョコレートが30円引き、100円のプリンが50円引き。
「より安くなったのはどっち?」とたずねると、子どもたちは一斉に「プリン」と即答。「値引きされた値段の差があるから」と理由も答えられた。 
「どっちも100円だったから『ああ、たしかに』って言ってくれたね。今回は本当におにぎりがより安いって決めつけていいんでしょうか」――「だめ!」
「なんで?」――「もとの値段が違うから!」

「値引きの40円は同じ。でも最初の値段は違う。40円引きで比べていいの? じゃあ、問題に戻りましょう。『より安くなったのはどちらか』。どちらかってことは?」――「どっちかがより安くなった!」
「どうやって比べる? 皆さんの頭の上にいっぱいハテナマークがあるよ」――「見えるの?」――「見えます」
「じゃあ、今日の目当て、いきましょう。簡単だよ。『どうやって比べるの?』」

 問題文の言葉の意味を確認し、理解し合ってから算数の見方・考え方が始まった(そこにもRSの視点は登場)。ここまで12分。これは算数の授業としては回り道なのか。


 この日、指導助言をされた会津美里町教育委員会子ども教育課の上野友寛主幹兼指導主事は、この導入部分についてこんなふうにおっしゃった。
「『より安い』に子どもが引っかかると思っていないと、『こっちが安い』『いや、こっちのほうが安い』と子どもたちの意見が迷走して、いつまでたっても本題の『倍で比べる』にいかない可能性があるのですよ。益戸先生は、子どもたちがどこで困るかをきちんと意識されていたので、『より安いってどういうこと?』と授業の始まりで何度も確認されていました。その意識が明確にならないと、授業が展開していきません。最初の提示のところでわからない言葉や算数の特殊な用語があると、そこで止まってしまう。授業者がそれを理解し、そこの下準備をきちんと行ったので、スムーズに流れたのかなと思います」
“ウォーク・ドント・ラン”。案外この12分は、ゴールへの近道なのかもしれない。


◆もとの値段の0.75倍

 「目当て」にたどり着くまでの展開を、RSを強調しながらダイジェストする。

 この問題は、既習事項である数直線と比例を使って考えていくことになった。
「線を引きながら『あっ!』って気づいたら、昨日までの学習バッチリです」


 図解代わりに板書の写真を載せるので、過程はそれを参照していただきたい。


板書


 板書しながら言葉も行き交う。算数でも思考のベースは言葉。まず、おにぎり。
「もとの値段の『もと』って何?」――「1!」(隣同士で相談しながら)――「『1』の上には何がくる?」――「もとの値段の160円」
「あと、わかっている情報は?」――「値引き後の値段。120円」
「120円はどこにくる?」――「160より小さいし、単位も円だから、左にくる」
「わからない部分は?」――「□倍」――「式を立てます。数直線の式を立てるとき、スタートは?」――「1×□」――「どうして?」――「比例の関係だから」

 こうして、おにぎりの値引き後の値段はもとの値段の0.75倍であることが判明。同様にハンバーガーは0.8倍だと確認できた。RSの視点は、問題文を数直線に表す「イメージ同定」。こんな学習過程を経て、2学期の2割引や25%オフにたどり着く。

◆0.2しか安くなっていない

 この数直線を使って「より安くなったのがどちらかを説明する」のがさらに難問。
「今日の答えは?」――「より安くなったほうが答え」―「では、どちらがより安くなりましたか?」――「ハンバーガー!」
「ハンバーガー? さっきはおにぎりって言ったよね。迷っていますね。話し合いましょう」

 子どもたちのいろんな声が聞こえてくる。

 「なんで?」「意味わからない」「より安くなったのはこっち」「0.75 と0.8を比べて数字が大きいほうを選んだらいい」

 こんな混乱の中、ある児童から「1引く0.75は0.25。1引く0.8は0.2。0.25のほうが大きいから……」という考えがでてきた。値引きの割合で比べている。学習者同士の対話的な学びは大切だ。

「今のでわかったかも。難しいよね」

 そこから、学習はこう進んでいった。
 
 数直線上の比較をより確かなものにするために「半額」をはさんだ。
「0.5、半額ってわかる?」――「もとの値段の半分」――「数直線のどこに入る?」

 1本の数直線に0.8、0.75、0.5をマークするとだんだん見えてくる。ダメ押しに0.6も入れてみた。数直線上で右から1→0.8→0.75→0.6→0.5。
1から離れれば離れるほど、値段は安くなる。これ、別の言い方できる?」――「ゼロに近づけば近づくほど、安くなる(0=無料は確認済)」(RSの同義文判定の視点)

 子どもたちは0.5が“より安い”ことを理解した。ここで、さっき児童が言った「1引く0.8」が生きてくる。
「1から0.2しか減ってないのはハンバーガー。1から0.25も減ったのがおにぎり。ゼロに近づいたのは?」――「おにぎり!」――「どっちがより安くなったの?」――「おにぎり!」

 納得して、声がそろった。
「今日わかったのは?」――「ゼロに近づくほど安くなったといえる」――「先生は『1から離れれば離れるほど』って言ったけど、ちゃんと言い換えてくれたね。ありがとう」

 最後に確認。「今日は何を使って比べた?」――「数直線と倍を使った!」――「なぜ倍を使わなきゃいけなかった?」――「もとの値段が違うから!」 
「すばらしい。『もとにする大きさが違うときは、倍を使って比べる』。先生は何を買えばいいですか?」――「おにぎり!」

 問題が解決して安心したのもつかの間、不意に、益戸教諭からこんな発言が。
「隣に焼き肉弁当があって800円が640円になっていました。そっちのほうがお買い得だと思いませんか?」 

 再び子どもたちがざわつく。
「これは次の時間に調べましょう」

 日直の児童が「立腰」「はい!」「これで5時間目の学習を終わります」「ありがとうございました」――「ありがとうございました。難しかったでしょ」

 子どもたちは新たな問いにまだざわついている。子どもたちが学びに向かう姿だ。
「余韻にひたっていたいけど、帰るよー!」

 その余韻は参観者にも感じられた。


◆文章を正確に読み取る力が育つ

 研究協議の中心は「より安い」とか「倍」の話だったが、益戸教諭はRSの視点についてこうおっしゃった。
「教材と向き合う中で、『係り受け解析』『イメージ同定』『推論』を見つけることができました。その後、『ここは同義文判定だ』と思ったところが1点ありまして、新たに授業に入れました(指導案には入っていない)。私が『1から離れていくと』と言ったのに、子どもたちが『ゼロに近くなれば値段が安くなったといえる』と言い換えることができていたので、今回の4つの項目はRSの手立てとして有効だったと感じています」

 少し立ち話をした。子どもたち自身が、何年もこんな授業を経験してきている。
「共書きのスピードは速くなりました。私が書き終わるころには子どもたちも書き終わっていて、授業がテンポよく進みます」

 文章の肝心な部分を読み取る確かな力がついてきた。
「社会科では、資料の隅々まで見て問題解決の手段として根拠づけられる、そういう習慣もつきましたね」

 教科を問わずこれを積み重ねれば、文章を正確に読み取る力が子どもたちに育つ。

 教科書にとどまらず、説明文やネット上の短文コメントなど、世の中に行き交うさまざまな文章を正しく読み取る力は不可欠だ。RSは、教師にぜひもっておいてほしい視点だ。





【了】

次回の予定

2月17日(火)
授業参観 2025 授業を通して実現したいこと