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教育ジャーナル Vol.31-2
■授業参観2025 授業を通して実現したいこと
こんな意図をもった授業づくり
教科分担制・チーム学年運営/若手教師の育成/教室に入れない児童の居場所
【全6回】(第2回)
■授業参観2025 授業を通して実現したいこと
こんな意図をもった授業づくり
教科分担制・チーム学年運営/若手教師の育成/教室に入れない児童の居場所
全6回【第2回】
教育ジャーナリスト 渡辺 研
港北小学校(伊藤智樹校長)の「教科分担制を伴うチーム学年経営」について、中学年の取組を詳しく見ていこう。
横浜市立港北小学校 教科分担制の3年生・社会科の授業
◆1組はよいところに気づくね
さて、港北小学校では、“中学年で、専科ではなく学級担任が、別のクラスで行う授業”を参観させていただいた。授業者にとっては“アウェー”の環境で、“ホーム”の子どもたちとどんな授業になるのか。実際には3年2組学級担任の加藤雄大教諭が、3年1組で社会科の授業を行う。
そもそも港北小学校は、教室を囲む壁がない、いわゆるオープン型のつくりになっており、授業中に廊下を歩く人の姿が見えたり、隣の教室の声が聞こえたりしても、授業に影響はない。それが児童、教師の気持ちもオープンにして、チーム学年経営の風土に関係しているようだ。授業前に児童と加藤教諭が立ち話をする風景もごく自然。ホームやアウェーに意味はなかったかもしれない。
3年生は社会科が始まって半年。授業内容は「119番に通報したらどうなる?」(単元「地域の安全を守る」)。通報を受けるのは消防指令センター。そこから誰にどんな指令や連絡がいくのかという学習。生活科の「まちたんけん」からつながっているようだ。翌週には校内の防火設備(火災報知器や消火器、消火栓等)がどこにあるかを探す「学校たんけん」も行われた。また、消防署から職員が来校して行う「おでかけ防災教室」が予定されており、その事前学習の意味合いもあった。
授業開始の挨拶をして、簡単に前時の振り返りと本時の学習内容の確認。
「皆さんのロイロノートに図を送りました。『119番のしくみ』という図です。それを見ながら『気づいたこと』『疑問』を紙のノートにどんどん書き出してください」
送られた図は教科書に見開きで掲載されているもの。これを子どもたちはタブレット上で見る。教科書とノートを机に広げるよりも作業はしやすい。以前なら、必要なページを教師が印刷して配布していたが、その手間もかからないし、紙の節約にもなる。子どもは自分が見たい部分を拡大することもできる。もう完全にこれが当たり前の学習風景なのだろう。
設定は10分間。自力思考の時間だが、近所同士で話す声も聞こえる。その間、加藤教諭は机間巡視しながらノートを見たり、質問に答えたり。
「タブレットという味方がいるので、わからないことは調べてください」
教科書に加えて、必要な知識はそのつど仕入れる。学び方は確実に変わっている。
「みんな、いいね。1組はよいところに気づくし、いい疑問をもちますね」
ある児童のノートを見て「さすが、するどいね」と声をかける。
あえてアウェーでの授業を参観して、気に留まったことの一つだ。
◆ 3組でこれは出ませんでした
時間がきたら、書いたものを全体で共有する。
「紙のノートに書いたものを写真に撮って送ってください。共有しましょう」
子どもたちからは「Aちゃん、なんて書いたんだろう」「わ、字がきれい」などと声がする。お互いのいろんなことに関心がある。
「みんなの気づきを整理していこう。『こんなところに気づいたんだ、私は気づかなかった』というのも大事だからね」
消防指令センターからつながる先が整理される。ほぼ出そろったところで「じゃあ、共有をいったん切ろう。タブレットを閉じて、目を休める時間にしよう」
ここからは発言で疑問の整理。いくつか挙げられた中にこれがあった。
「消防団って何?」と児童の一人が言った。これを疑問に思った子が多かったらしく「消防署と何が違うのかわからない」「役割分担しているの?」「消防署だけじゃ足りないんじゃないの?」とほかの子も続く。
結局、なんなのか、どんな役割があるのかわからず、持ち越しの課題になった。
「さっき3組で同じ授業をやったんだけど、消防団のことは出ませんでした。3組ではまた別の時間にふれようと思っていますが、1組では『消防団って何?』『どんな人たち?』『消防署と何が違うの?』という疑問を、次の授業で解決していきましょう」
次時の課題を確認して、「この時間で学んだことを5分で書いて」と本時のまとめ。「まとめは自由でいいですか?」「答えがあるわけではないので、自分の言葉で書けばいいよ」とやりとりもスムーズ。子どもたちが振り返りを書いているときも、加藤教諭は子どもたちの間をまわり、「Bさんがすごい勢いで書いています」「一人ひとりが力をつけてきたね。自分の言葉で書けるようになった。さすが1組」と声をかける。
まとめを簡単に共有したあと、「先生、実は消防団に知り合いがいるんです」「えっ!」と次時への期待をもたせて授業は終了した。
◆おもしろさであり、難しさでもあり
授業後、気に留まった点を加藤教諭に確認しつつ、少し話を伺った。1組の子どもたちを褒めていたのは意図的に?
「意図的な部分はあります。でも、たまたまです」
学級担任は、ある意味ではクラスの一員。“身内”の学級担任に褒められるよりも他のクラスの教師から褒められたほうが、子どもたちもその気になりそうだ。
もう一つ。3組では消防団はどう扱うのだろう。3組の授業で加藤教諭は、あえて子どもたちを消防団に誘導はしなかった。
「3組は、水道局につながることを知らなかった子が多くて、そっちに関心が向きました。同じ資料を提示してもそういう違いがあって、そこはおもしろさであり、難しさでもありますね。消防団は押さえなければいけないので、最後に補足します。クラスによって課題を解決する順番を変えています」
学習者集団にはそれぞれ個性がある。それを生かした授業が求められ、教師の授業力向上につながっていくのだろう。
ただ、こんな不安もある。
「3年生の社会科は僕しか授業をしないので、ほかの先生だったらどんな資料を使って、どういう授業をするのかなと、そういうことは思います。もしかすると、ほかの先生のほうがよい授業ができたかもしれないとか。そこは検証していないのでわからないですが」
中学校のように専門性が明確ではないので、実施から数年経ったとはいえ、まだ過渡期にある教科担任制(分担制)の課題かもしれない。でも、「教科数が減ったことで、負担は大幅に軽減しました」という状況が生まれたのだから、ここをチャンスだと捉えて集中して担当教科の教材研究を深めたい。
教務主任の村田和人主幹教諭にもお話を伺った。村田主幹教諭は「チームマネジャー」として取組全体をマネジメントし(複雑な特別教室の使用管理他)、授業にも入る(2~6年生サポート授業、算数・4年生少人数と5年生TT、5年生1クラスの体育)。
「先生それぞれ、チーム学年経営の捉え方は異なると思いますが、私個人は、児童全員の名前と顔が一致するところが一番だと思っています。どんな子であるとか、何が得意だとか、どんな課題があるのか、子ども一人ひとりを知ることができるのは、学年経営をしていく上で大きなメリットだと思います」
常に顔を合わせるわけではないので、かえって児童の〝異変〟には、学級担任よりも気づきやすいこともありそうだ。
「気づいたことは担任と共有します。場合によっては、授業中にその場で必要な指導をすることもありますが、それについて担任が不快感を示すことはないです」
クラスの空気を感じ取って、「大丈夫?」と声をかけやすくなるから、学級担任が指導上の悩みを一人で抱え込むこともなくなる。特に若手には心強いだろう。
1年間、まったく授業をしない教科が出ることへの不安をマイナスの要因として挙げたが、この点はどうなのか。
「次年度も同じ学校にいるのなら、それほど不安はないと思います。ただ、異動で他校に行った場合の不安はあるかもしれません」
新年度に担当教科を入れ替えるなどすれば、解決できないことではないだろう。
「そのあたりが課題だと思う程度で、教材研究も生徒指導の面でも、メリットは大きいと思います」
“ホーム”と“アウェー”という視点で授業を参観したが、子どもたちにも教師にも、学年や学校が“ワン・チーム”だった。
(第3回に続く)
次回の予定
3月16日(月)
授業参観 2025 授業を通して実現したいこと③