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教育ジャーナル Vol.31-3

■授業参観2025 授業を通して実現したいこと
こんな意図をもった授業づくり
教科分担制・チーム学年運営/若手教師の育成/教室に入れない児童の居場所

【全6回】(第3回)

■授業参観2025 授業を通して実現したいこと

こんな意図をもった授業づくり


教科分担制・チーム学年運営/若手教師の育成/教室に入れない児童の居場所


全6回【第3回】


教育ジャーナリスト 渡辺 研



新採用教師の授業を参観してフィードバックするなど、お互いに自主的に機会をつくって授業を見合う取組が行われている白新中学校(金山光宏校長)。その成果を意識しながら、若手教師の社会科の授業を見せていただいた。



新潟立白新中学校 若手教師も育てる1年生・社会科の授業

◆授業を見る・見てもらう

 白新中学校(金山光宏校長)の訪問者用玄関の植え込みに『和而不同(和して同ぜず)』と彫られた石碑。玄関を入ると『空気感』と書かれた額。そして、廊下や体育館など校舎の至る所に学校教育目標『知性の高い生徒になる』が掲示されている。学習指導要領改訂の議論の「論点整理」に照らしても、今、学校に求められている大事なことだ。学校の姿勢に共感するところがあって、毎年、定点観測のように授業を参観させてもらっている。

 学校では長年、「主体的に学び続ける教師」でありたいと校内研修を継続しており、研究主任の川村真広教諭にまず研修のお話を伺った。“若手教員の育成”をメインに紹介する。参観もまさに若手の授業。


 今年度のテーマは、「(生徒たちが)かかわり合い学びを深める授業」を実現するために、教師が「かかわり合いをファシリテートする(促す、関連づける)」。


 生徒は授業で「教材」「他者」「自分」とかかわり合って学びを深める。教師はそれを促す手立てと、手立てを効果的に働かせる教授行動を意図的に講じる。大まかにいえば、学びの深まりが学習者の姿として現れるように、授業改善の精度をさらに上げていく。これを実現し、確実に身につけるために、シンプルかつ実践的な研修を春先から行ってきた。


 まず、川村教諭(数学科)による模擬「授業開き」を他の教師たちに“生徒”として体験してもらった。そこでの問いかけが「数学を学ぶ(ことで) 世界を〇〇する力(が育つ)」。教科の本質を、各教科の授業開きで生徒たちに問いかける。数学は計算力ではない。次いで「代表授業」を実施。数学、道徳の授業を他の教師たちが参観した。
「目的は研修の方向性の共有と『授業を見る目を養う、見る目をそろえる』こと。『何を見たらいいのかわからない』という若手が多かったので」


 授業後の協議会では小グループに分かれ、ベン図を用いて手立てや教授行動、生徒の姿を確認し合った。授業者の意図的な行動だけでなく「暗黙知」(意識的ではないが効果的な教授行動)も共有された。生徒は教師の何げない態度を敏感に感じ取る。


 研修の小グループは教科を超えてベテラン・中堅・若手の組み合わせで構成した。意図は想像がつくと思う。ちなみに「若手」とは「勤務経験2、3校目」としている(今年度の該当者は7名)。


 こうしてスタートした後に設けたのが「互見授業」。新採用教師の授業を参観してフィードバックすることから始まって、お互いに自主的に機会をつくって授業を見合う。


 研修グループのうちの若手が「授業づくり部」を形成して、積極的に互見授業を行った(内容は、互見授業、授業交流会、指導案検討、情報発信など)。
「『ちょっと授業を見に来てください』『見に行っていいですか?』という感じで、研修テーマをどんどん実践していました」


 あえて選んだ仕事だ。楽しそうに「主体的に学び続ける教師の姿」が想像できる。授業を参観させていただいた新採用の竹山由希子教諭も数回、授業を見てもらっていたそうだ。こうして10~12月に公開授業が行われた(全教師が必ず1回、公開。特別支援学級も公開)。
「若手の教員が増えています。学ぶ意欲にあふれた若手教員を育成し、それぞれが教育の専門家として確かな力量をつける。それが学校全体を底上げし、質の高い教育活動を推し進めることになると思います」


 やはり、授業力向上の一番は、客観的に授業を見る・見てもらうことのようだが、こんな副次的な効果もあるそうだ。
「授業を公開するたびに子どもが育つんですよ。教員がふだんよりも熱量をもって授業をするので、子どもがそれに乗っかって一緒に高め合う。私自身も、公開授業でクラスの雰囲気が本当に変わると実感しています」


 こんなお話を頭において、授業を参観させていただいた。


◆ 経済発展か環境保護か

 研修を意識しながら竹山由希子教諭の授業を参観した。授業は1年2組の社会科。単元は「世界の諸地域 南アメリカ州(1学年)」(6時間)。生徒たちはすでに数回の授業公開を経験しており、この日もきっと気合が入っているはずだ。

 単元を通して望む「~学びを深めた生徒の姿」は「南アメリカ州の特色について、自然や産業、文化といった様々な側面から理解していくうえで経済発展している現状とその背景にある環境問題をESDの視点に立ち、持続可能な社会の実現に向けた在り方を学級内で検討・追求することを通して、社会課題を自分事としてとらえ、納得解を導くよさを見出すことができる」。


 この姿を実現するための「手立てと教授行動」は学級全体で行う「模擬サミット」で、本時(第5時)で実施する。ほかに「ワークシートの活用(自分の主張とその根拠を可視化するトゥールミンモデルの図式を活用)」及び「生徒の情報収集の支援と資料の共有」。
「模擬サミット」では、ブラジルの経済発展と地球規模の自然環境破壊・保全に視点を置き、本時の学習課題「南アメリカ州の将来のためには、アマゾンの開発を続けるべきか、やめるべきか」を論じ合う。生徒たちは前時までに5つの立場に分かれて自分の考えを述べ合った。その結果、次の立場に立って「模擬サミット」に臨むことになった。


【開発を続ける派(以下、Aと表示)】

ブラジル政府(経済発展)。開発事業者(仕事・収入)。日本企業(輸入品への影響)。
【開発をやめる派(以下、B)】

先住民(伝統的な暮らしが失われる)。ブラジル政府(地球温暖化や生態系への影響を懸念。先住民も同調)。開発農民(過酷な労働)。

 事前にいただいた指導案を見て、Bに環境保護に特化した立場を“参考人”的に設けてもいいのかなと思った。もう一つ、そもそもこの課題を自分事として捉え論じ合えるほど、生徒たちは南米やブラジルに関心をもったのだろうか。ちょっとした疑問をもちつつ、「模擬サミット」を参観する。


◆根拠となる資料の収集と共感

 最初に竹山教諭がこう確認した。「これは裁判ではないので、どちらが正しいか決めるのではありません。自分と考えが違っても、否定せず、その考えを尊重して話し合いを進めてください」

 両派はそれぞれ2列になり向き合って着席。AとBはまったく同数。調整したわけではないのだそうだ。中学生にはBが多いのかなと想像したが、現実社会はそう単純ではないことは理解している。


 最初の発言はAの政府代表。「開発をやめて経済の発展をとめたら、先住民や農民の仕事もなくなる」。発言が終わると両方から拍手。この空気感が発言をしやすくする。


 Bの最初も政府代表。これまでの授業で竹山教諭から提供された資料以外に、自分たち(同意見の3人のグループ)で集めた森林資源の減少のグラフや衛星写真を使って環境保護を強く訴えた。資料のうち何点かはクラス内でも未公表で、本番でのインパクトを想定した“秘策”。生徒たちは本気。なるほど“参考人”は必要なかったわけだ。


 Bの先住民からは「自分たちが関与しないところで問題が起きて、それが自分たちの生活に影響している」という発言があった。きっと、この授業までにはほとんど関心をもつこともなかったであろうアマゾンで暮らす先住民(40万人ほど)にも、この単元を学ぶうちに生徒たちは共感を示していた。終盤に出た「先住民の保護区を移動すればいい」(A)という発言に「それは“私たち”が決められることじゃない」と反論した生徒もいた。経済や社会保障を論じ合う大人の会議でもこんな感性はもっていたい。


 経済面では、ブラジルは大豆や鉄鉱石の大規模な輸出国。他の国以上に日本への影響は大きい。Bの日本企業からは「(生産の規模が縮小し)輸入が減ることで、長年続いてきた友好関係に支障が出るのではないか。友好関係は政府間で維持してほしい」という発言もあった。中学生はそんな視点ももっている。






(第4回に続く)

次回の予定

3月30日(月)
授業参観 2025 授業を通して実現したいこと④