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GIGAスクール構想とICT活用

〈座談会〉コロナ禍の学級運営とICT活用 〜前編〜 ②

(2021年11月10日更新)

山口大学教育学部附属光中学校 教諭 藤永啓吾
東京都国分寺市立第四小学校 主任教諭 前田良子
東京都足立区立足立小学校 教諭 杉本 遼


リモートと対面の利点を使い分ける

――ICTを活用した授業について教えてください。

藤永 初めての一斉休校が明けてから間もない時期に、リモート環境を想定して教室内でZoomを使った道徳の授業を行いました。
またいつ休校になるか分からない状況でしたので、リモート学習に慣れてもらうことが目的でした。生徒は教室にいるのですが、自宅にいる設定なので、教員も生徒も画面上での操作は無言で行い、コミュニケーションはチャット機能を活用することにしました。発言するのは私だけで、画面越しに私が問いかけると、生徒たちがチャットで意見を返します。生徒たちは端末の操作に慣れているので授業は円滑に進みました。タイピングスキルに差があったので、選択肢から答えられる問いを多く用意し、全員がスムーズに授業に参加できるようにしました。タイピング中に授業が進むのは、対面授業で子供の発言中に教員が次の内容に進めるのと同じなので、そうならないように配慮しました。

前田 私の学校ではタブレット端末を使った授業に今年度から取り組んでいます。東京都国分寺市ではマイクロソフト社のTeamsというアプリを使用しています。
『手品師』で授業を行った際は、Formsというアンケート機能を使って「もし自分なら、男の子のところへ行くか、大劇場へ行くか」という発問を投げかけました。すると結果は、ほぼ半々に分かれました。
名前カードを黒板に貼らせて意思表示させていたときは結果がどちらかに偏ることが多かったので意外でした。アンケート機能は回答するとすぐ集約されて結果を見ることができますが、子供たちには、入力したら画面を閉じるように指示して、全員の入力が終わらないと結果を見られないようにしました。子供たちも、結果を見て「意外だな」と驚いていました。振り返りの中で、「参加している感じがした」という今までには聞かれなかった感想がありました。これはICTの利点ではないかと思います。ただし、理由などを記入させる場合、藤永先生もおっしゃったように、入力スキルに差があるので、紙に書かせました。現状では、ICTの機能的な面と、アナログ面の両方を使い分けて授業を行うのがよいのでは、と思います。

杉本 私は、毎年、年度の最初の道徳の授業では絵本の『教室はまちがうところだ』(子どもの未来社)を使っており、リモートでもこの授業に、思いきって挑戦しました。
「教室は〇〇ところだ」の〇〇に入るものを子供たちに選択肢を提示して問いかけるシンプルなものから始めました。教材「かぼちゃのつる」では、Googleフォーム(アンケート作成ソフト)やブレイクアウトセッションを使って授業しました。画面の中の子供たちにノートに書いたものを見せてもらいながら授業を進めました。このとき、私自身も在宅でしたので、背後に連絡事項を書いた掲示物を用意して、教室の雰囲気が出るように工夫しました。 こうした経験から、ICTは、選択的に考えたり、ベン図を使って分析的に考えたりする活動の方が全員が参加することができるためより効果的だと感じています。

保護者とつながり、距離を埋める

――子供たちが教室にいない中、子供の様子を把握したり、円滑な学級運営を行ったりするために必要なことは何だと思いますか。

藤永 直接子供たちと会えない状況で、子供のことを細かく理解し把握することは、正直なところ「ほとんどできない」といえます。子供たちが登校せずに家庭にいる場合、まずは家庭や地域社会に委ねます。そこまで教員が介入すると、おそらく教員たちはさらに膨大な仕事量を抱えてしまいます。なので、できる範囲のことをするしかありません。では、どんなことができるか。それは、保護者とつながることです。
休校期間が明けて登校が可能になったとき、最初に行ったのが、Zoomを使った授業です。そして、Zoomによる保護者の授業参観を何回も行いました。「子供たちはこのように学んでいる」という現状や、学校の雰囲気、授業を行う教員たちの姿などを伝えました。これは、保護者の方々に安心してもらう大きなきっかけになったようです。保護者の方がお子さんのことで教員に相談したくても、学校とあらかじめつながっていなければうまくいきません。そのためのアイテムとしてICTを使うことは有効だと思います。保護者が医療従事者であるために三者面談の会場に足を運ぶことができなかった際は、私と生徒は教室で、保護者の方は画面越しで、面談を行いました。

前田 私も保護者への対応が大切だと思います。子供たちになかなか会えないという環境下では、保護者にはさらに会える機会が減ります。学校公開もできず、保護者が学校の様子を把握する機会が大幅に減ったので、私たちのほうから工夫して保護者とつながる機会をつくることは大事です。一方で、子供自身が発信できる場が必要だとも思います。直接顔を合わせれば、教師が顔色や雰囲気の変化で子供の様子をある程度把握できますが、できない場合、子供が自分の状況を気軽に素直に伝えられるように信頼関係を築くことが大切だと思います。そのためにも、使用ルールを設けることが前提ではありますが、連絡ツールの活用やシステム構築が欠かせないと感じています。

杉本 私は、電話連絡が大事だと思いました。Zoomで朝の会をスタートする前に、まず、電話で各家庭に連絡をしました。以前、藤永先生が毎年新学期が始まるときに「私が担任します。よろしくお願いします」と各家庭に電話をしているとおっしゃっていたのを聞き、私も昨年度、電話連絡から学級経営をスタートしました。これがよい結果を生んだと考えています。
昨年、私の勤務校では分散登校の終了後も緊急事態宣言下では週一日はオンライン授業でした。この授業を保護者に参観していただいたのがよかったです。クラスの状況を開示することが、保護者との信頼関係の源になったように思います。学級内の児童同士の人間関係づくりにおいても保護者がもっと共有しながら策を講じていく必要があります。学校が保護者と密接につながるためにもオンラインを有効的に活用したいと思っています。

(後編へ続く)
取材・文/岡本侑子 写真/藤田雄二

*実際の座談会は、マスク着用の上、ソーシャルディスタンスをとって行いました。

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