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GIGAスクール構想とICT活用

〈座談会〉コロナ禍の学級運営とICT活用 〜後編〜 ①

(2022年2月10日更新)

山口大学教育学部附属光中学校 教諭 藤永啓吾
東京都国分寺市立第四小学校 主任教諭 前田良子
東京都足立区立足立小学校 教諭 杉本 遼


前編に引き続き、後編ではICT活用についてお話を伺いました。

教員と子供の立場からみるICT活用の課題

――コロナ禍でICT活用が急速に進みましたが、どのように思われますか。

藤永 私たち教員側はできるだけ積極的に使ったほうがいいと思います。従来の指導方法と同じように、ICTの活用は技量を高める一つのアイテムになりますから、全教科でどんどん使ったほうがいい。私は教員になった十七年前からパワーポイントで作成したスライドを使って授業を行っていました。なぜ、私がスクリーンとパワーポイントを使った授業を行っていたかというと、実は板書が苦手だったからです。板書せずに、生徒の学力アップの一手法としてパワーポイントを使った授業を行うことにしたのです。専門が理科ですから、写真やグラフなど、スライド化すると見やすく伝えやすい教材になるという点もあります。道徳の授業でも、私は黒板とスクリーンの両方を活用して授業を行っています。
一方、子供の立場で考えると、ICTには一長一短があるように思います。私としては「長」より「短」のほうが大きいのではないか、と思うこともあります。例えば、一年間の授業で使うのは一冊の教科書だけではありません。単元によっては独自の資料を用意したり、著作権を確認しながら他社の教科書教材を使ったりする機会があるでしょう。その場合、独自にまとめてデジタル化した資料を子供に提示しています。
しかしこのオリジナルのデジタル資料を送受信する時間と、紙に印刷して配布する時間を比べると、ほぼ同じです。デジタルの場合、送受信がうまく行えず再起動して同じ操作をすることもあり、この時間のロスは意外と大きいです。
また、道徳の授業で子供たちの意見を聞く際に、タブレットの画面でボタン選択させると「こんなに簡単に済ませてよいのか」と思うことがあります。自分の意見を示すために黒板に名前カードを貼りに行く作業だと、決断や行動が早い子、遅い子がいます。そのような単一的でない不規則な現象こそが人間的なのではないか、とも思うのです。いろいろな人の考えや行動を見ながら自分の内面の変化を感じることも大事だと思います。無駄だと思われがちな時間の中にこそ、道徳的な学びがあるのではないでしょうか。子供の視点を生かすため、ICTの「長」の部分を最大限に生かし、「短」の部分を検討した上で活用したいと思います。

藤永啓吾先生
(*山口県からリモートで参加)

前田 藤永先生がおっしゃるように、名前カードであれば学びの途中で自分の意見が変化したときに、簡単に貼りかえることができます。デジタルで済ませてしまうと、心情の変化を見取ることが難しいように感じます。教材と指導の内容によってデジタルとアナログをどのように使い分けたらよいか検討が必要だと思います。教員は子供たちに何を考えさせたいか、学びをより深められるのはどの方法なのかを十分研究していく必要があると思います。 私も道徳の授業では、パワーポイントで作成したスライドをスクリーンに映しながら授業を行っています。
子供によく考えさせたい箇所は文字で明記したり、震災に関する教材では、被災地で撮られた写真を用いたりしています。意図的になり過ぎた資料はよくないですが、子供たちが関心をもち、心の変化をもたらす箇所などで、教材提示の際にこうしたデジタル資料は効果的だと思います。
子供の立場で考えると、彼らが大人になったとき、デジタルツールはさらに身近になり、ICT活用は日常的になっていると思うので、子供たちがスキルを習得するために積極的に取り入れていくべきだと思います。けれども、小学校の段階では、ページをめくったり紙に書いたりという手を動かす作業がとても大切だとも思います。まずはこうした土台をしっかり耕してから、ICTを活用していくことを念頭に置きたいと思っています。

前田良子先生

杉本 私はICTをできるかぎり活用していきたいと思っています。授業では、ICTを活用しなくてもよい理由を挙げようと思えばたくさんあると思います。なぜなら、これまでICTがなくてもきちんと授業できてきたからです。私は、ICT活用によって自分の授業観が大きく変化し、可能性が広がるのではないかと、とても楽しみにしています。一方で、教育現場以外では、デジタルをどれだけ積極的に活用しているのかという疑問もあります。大人たちは、対面で行う三十人以上が参加する会議で、どのようにICTを活用しているのでしょう。私自身、そのイメージをまだもてていません。企業などがどのように活用しているかを参考に、まずは我々教員、職員室から変わっていきたいという思いもあります。低学年の子供に、タブレットの扱いを指導するというのは、非常に大変です。

杉本遼先生

藤永 ICTを活用すると、確かに利点が多いとは思います。私自身の実感ですが、理科の授業では、タブレットを使った授業と、使わなかった授業で、テスト結果を比較した際、タブレット使用の授業を受けたクラスのほうが平均点は高かったです。つまり、ICTをうまく活用すれば、学力アップにもつながります。
一方で、生まれたときからデジタルツールが当たり前のように存在している世代の人たちが教員になり、授業がICTに偏るようになったとしたら、危うさを感じます。すべての授業のデジタル化が進んだと仮定して、もし、大災害が起き、デジタル教材全般が使えなくなったら授業は崩壊してしまいます。近い将来に起こるかもしれないといわれている南海トラフ地震が起きたとしたら、従来のようにチョークで板書する授業をしなければいけないでしょう。極端にデジタルに頼った指導を行っている場合、こうした不測の事態に柔軟に対応できるでしょうか。今は、コロナ禍だからICT活用の「長」の部分がフォーカスされていますが、世の中は常に変化していていつ何が起きるか分からず、変化に対応することを、私たちは常に求められています。東日本大震災のときもそうでした。 ですから私たち教員が、ICT活用を促進すると同時に、ICTがなくても子供たちにしっかり伝わるすてきな授業が行える学級運営力を高めていくことは必須だと考えています。

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