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GIGAスクール構想とICT活用

道徳授業 私の実践 子どもたちが自分なりの答えを見つけられる授業を目指して

(2022年12月9日更新)

京都府京都市立御所南小学校教諭
宮本 真行


大切にしている心構え

子どもたちは、これまでの自己の生き方や経験を通して、道徳的価値に対する自分なりの感じ方や考え方をもっています。そのため、「空っぽの心に道徳的価値を押し込む授業」ではなく、「子どもたちが本来もっているものを引き出す授業」が大切だと考えています。一人一人、感じ方や考え方の異なる子どもたちが、一つの教材を通して語り合うところに、道徳科のおもしろさがあります。それゆえに、授業のねらいとなる道徳的価値に対する共通解だけでなく、一人一人が自分なりの答え(納得解)を見つけられる授業を作っていきたいと考えました。

授業の実際

〇主題名 自分に正直に
〇内容項目 正直、誠実
〇教材名 「まどガラスと魚」(『新・みんなのどうとく 3』学研)
〇ねらい 光一が本当のことを言おうと決心した思いについて考えることを通して、正直であることの大切さに気付き、正直に明るい心で生活しようとする心情を育てる。
正直であるとは「弱い心に負けず、自分の本当の気持ちに正直であること」と捉えました。その上で正直であることの大切さについて、子どもたちが自分で納得できる答えを見つけられるように授業を行いました。

【導入】

子どもたちが納得解を見つけるためには、質の高い問いをもたせることが欠かせません。そこで事前に「正直でいることは大切だと思いますか?」と問いかけ、それに対する自分の考えをもたせておいたのです。ここでは、GIGA端末の考えを共有する機能を活用しました。色付きのカードを提出することができるので、自分の考えを色で表現させました。
・大切だと思う→ピンク
・大切だと思わない→ブルー
本時の導入は、この色付きのカード一覧を大型テレビに提示することから始めました。当然ながらカードはピンク一色です。そこで、
「正直でいることはやっぱり大切ですよね。でも正直でいられず、うそやごまかしをしてしまったことはありますか。」
と問いました。そして、自分の考えをもう一度色付きのカードで表現させました。
・したことはない→ピンク
・してしまったことがある→ブルー
すると、今度はブルーのカードが画面を埋め尽くします。この変化に子どもたちからは「えー」という驚きの声がもれます。その声に込められた思いがそのまま本時の学習課題にすり替わりました。大切だけれど、なかなか実現できないときがあるのだということを全員で共有した上で、
「うそやごまかしはしてしまうのに、正直でいることはどうして大切なのだろう。」
とめあてを設定しました。質の高い「問い」は、子どもたちが自身の中にある認識のずれに気付くことから生まれると思っています。
次に今日の学習で深く考えたいことはどんなことかを問いかけました。学習のめあてと共に見通しをもたせることも、自分なりの答えを見つけるためには大切なことだと思うのです。

【展開】

場面絵を掲示しながら教材を読み聞かせた後、窓ガラスを割ってしまった後の光一の気持ちを考えました。ペープサートを用いて、学校の帰りに何度も遠回りをして、ガラスの割れた家を見に行ったことをおさえます。光一の心の中には謝りたい気持ちがあることを確かめ、
「このときの心の中は謝りたい気持ちと謝れない気持ちが、どれくらいあるのかな。」
と問いかけます。GIGA端末を活用し、一人一人の考えを心の数直線で数値として可視化しました。多くの子は謝れない気持ちが謝りたい気持ちを上回っているのですが、その逆の割合で表現する子も現れます。自然と「〇〇さんの考えを聞いてみたいです。」と対話が生まれ、子どもたちは互いの言葉に耳を傾けていました。中には謝れない気持ちをわずか1%と表現する子もいます。「この1%の怖い気持ちが謝ろうとする自分を止めてしまう。」「自分をコントロールできなくなる。」など人間理解の面から自分との関わりで語る姿が見られました。一人一人の感じ方・考え方が可視化されることにより、主体的・対話的な交流が実現できたように感じました。
次に中心発問を通して、本時のねらいに迫っていきます。迷っていた光一が、あじの干物を持って訪ねてきたお姉さんを見たとき、どんなことを考えたのかを確かめ、正直であることの大切さに気付いたことを共有しました。そして、
「あんなにも正直に言えなかった光一が、本当のことを言おうと心に決めたのはどうしてだろう。」
と発問し、道徳ノートに自分の考えを書く時間をとりました。全体での交流では「モヤモヤした気持ちをなくしたかったから。」「恥ずかしさに勝てたから。」といった意見が出てきました。三年生ですから、こういった抽象的な表現が出てくることはよくあります。
そこで、モヤモヤや恥ずかしい気持ちの具体を明らかにするために問い返していきました。すると「自分に対して情けない気持ちで……。」「恥ずかしいというのは、自分がやったことをいいことだと認めないことになるから……。」「周りの人だけじゃなく自分をだましながら生きていくことになる……。」といった発言が出てきて、自分の本当の気持ちに正直でありたいというねらいに迫ることができました。

【終末】

改めて、本時のめあてに立ち返ってグループで交流した後、学習を振り返りました。この振り返りの時間を十分確保することが自分なりの答え(納得解)を見つけることにつながると考えています。

【子どもの振り返り】一部抜粋

今日の学習をして分かったことがあります。それはたった1%謝れない気持ちがあったら自分をコントロールすることが難しくなるということです。だからこの気持ちをコントロールすることが大切だと思います。それと正直に本当のことを言わないと、みんなや自分をだまして生きていかないといけなくなるので嫌です。だから、これからは本当のことを言い、自分を責めずに生きていきたいと思いました。

実践を終えて

道徳科の授業を、子どもたちがワクワクとした気持ちで他者の考えを受け入れたり、概念を再構築したりする時間にしていきたいです。今後もそんな授業を少しでも多く子どもたちに届けられるよう、努めていきます。

(みやもとまさゆき)