SDGsを教育現場で扱う上で意識したいこと
(2021年11月10日更新)
一般社団法人グローバル教育推進プロジェクト(GiFT)
調査・研究統括 木村大輔
学習指導要領にも盛り込まれているSDGs。SDGsの解説をはじめ、「取り入れたい!」と思えるような学校現場における実践などをご紹介します。
第1回で紹介した、SDGsを教育現場で扱う上で意識したい三つの点について、今回は詳しく説明していきます。SDGsとは、世界がより持続的に発展でき、平和な社会になるための17のゴールです。その達成には、一人一人が何を大切にして生きるか、他者・環境とどう共生していくのかという指針を自らつくること、そして行動の基準となる道徳的な判断力を身につけることが基盤となります。
「学習者の行動変容」をもたらす
この基盤を学習活動につなげる上で意識してほしいことが三つあります。一つ目は「学習者の行動変容」をもたらすことです。「学習者の行動変容」をもたらすために、次の三つの領域を意識した問いが大切です。
①認知領域(知識・思考力)
②社会・情動(感情)領域
③行動・行為領域
これらは道徳の授業にも関連する領域であり、道徳的問いが重要であるということです。また、行動変容のためには、児童生徒自らの心から湧き出る自己の感情や気付きを扱うことが重要です。
教材を通して、
- ・世界で起きていることについて理解を深める。(知識)
- ・なぜこうした課題があるのか原因を考える。(思考力)
- ・当事者の立場を想像し、自分に置き換えてみる。(感情や価値観といった社会感情面)
- ・多様な意見や感情を共有する。(対人関係構築能力)
- ・自分は課題に対して何ができるか考え、行動に移す。(行動面)
ということを授業で扱ってください。SDGsに関係していないテーマでも同様に扱うことで、道徳がSDGs達成に向けた意識づくりに大きく寄与することを体感できるでしょう。
自分一人では解決できない複雑なこともたくさんあります。しかし、そこで諦めるのではなく、一人一人が課題に向き合い、小さな行為・行動変容を起こしていくことで、大きな動きとなり、環境が変わるきっかけになり得ます。義務教育の時期にこうした思考を身につけること、他者を思いやる意識、社会感情スキルと言われる領域を扱うことで、その後の人生に大きな変化が生まれるという調査結果もあります(OECD)。一回で完結する学びではなく、授業を通して常に問いかける仕掛け作りが重要です。
例えば、貧困の話題を扱った授業の次に、地球環境とゴミの問題を扱うとします。どれも遠くの話に感じることですが、常に自分事にする問いかけをし、最後には「あなたはこの問題について何をしたいか、何ができるだろうか?」という問いを投げかけてみてください。最初は何も出てこないかもしれません。しかし道徳の授業で児童生徒同士の対話を重ねていくと、児童生徒一人一人が友人の意見を聞いて感じ取ったことから何かしらできることを見いだすようになります。先生からの、「こうした方がいい」という言葉よりも、同世代や同じクラスの友人から受ける刺激の方が、意識や行動変容に与える影響は大きい場合もあります。同調するのではなく、共有を通じて一人一人の人格や価値観に触れていく、そうしたプロセスを意識してみてください。
SDGsのゴールは一つ一つが相互につながっている
二つ目は、SDGsのゴールが相互につながっていることへの気付きを促すことです。
授業で扱うテーマが地球環境だとしても、その背景には経済や社会動態など様々な事象が関係しています。「どうしたら平和な社会がつくれるのだろう」という大きなテーマは、限られた資源を争う=生活がかかっているが故の競争や教育格差、飢餓、貧困、不平等にも関連しています。「どうしたらいじめのないクラスがつくれるだろう」という課題も本質的には個々の意識の問題にかかっています。
特定のゴールについて理解することも学習目標の一つですが、そのゴールが他のゴールとどのようにつながっているのか気付かせることも意識してください。そして最も重要なこととして、グローバルなことと国内のこと、クラス(社会・コミュニティ)のことを分けて考えず、全てが相互に関連していることをまず認識した上で、そのつながりが自覚できるような問いを用意してください。児童生徒からはたくさんの視点や考え方が出てくるのではないでしょうか。
自分事にするための工夫をする
三つ目は、それぞれの課題を「自分事」として捉える工夫をすることです。
自分の知らないことに対して「自分事」として捉えるのは非常に難しいことです。しかし、地球規模の課題は、直接的・間接的に私たちの行動が原因になっているものばかりです。ただ、あまりに遠すぎて実感が湧かなかったり、自分たちの行動がどう結びついているのかイメージがつきにくかったりすることも多いのではないでしょうか。
一方で、自分の周囲で起きていることに対しては誰もが自分事として捉えやすいものです。その「周囲」の認識を広げていく機会としてSDGsを通した学習活動を進めていってください。私たちが今まさに渦中にいる新型コロナウイルスの世界的蔓延も、これから世界で足並みをそろえていかねばならない地球規模の課題の一つです。新型コロナウイルス発生当初は、私たちにとって遠くで起きた出来事だったと思います。それがじわじわと広がっていく様子を知ることで徐々に自分の生活にも影響があると気付き、そこから向き合い方が変わっていったのではないでしょうか。そして自分の意思決定とは関係のないところで行動制限や休校が決定され、状況が深刻であるという認識をもち、気付いた時点で、人々の行動が変わっていったと思います。これが一つの「自分事化」のプロセスでしょう。
「自分事化」について、SDGsに関して言うと、学校に通えない子どもたちがいることを扱った教材で、子どもたちが家族を支えるために片道2時間かけて15リットルの水をくみに行っているという話をするとします。児童生徒たちにその大変さをイメージできない場合は、実際にポリタンクに15リットルの水を入れて運び、それがどれだけ大変な作業なのか体感してもらうことで、一気に自分の身の回りの生活につなげることができます。
気候変動対策のためにゴミを何トン減らす、と言われてもイメージができないのであれば、実際に普段出しているゴミがどのくらいの重さなのか、それは多いのか、どれだけ減らすことができるかといったことを視覚的に見せたり、体感させたりするような工夫が大切です。ストリートチルドレンが普段遊んでいる、コインをめんこのように投げるゲームを実際に行ってもらい、感想を聞いた後に「あなたちはこれを一日中、365日できますか? これが今路上に生きている子どもたちの生活なのです」と投げかけることで、遠くの世界の話が一気に自分の目の前に来る機会になります。
気候変動にしても、貧困問題にしても、国内外の課題は、見えていないけれども実はつながっています。私たちが安易に安いものを求めて購買行動をするといったことが原因で、子どもたちが安い賃金で働かされ、貧困を生み出す仕組みが作られています。気候変動は、私たちの日々の生活における温室効果ガス排出量が多いことが、大きな要因の一つになっています。そしてその被害を最も大きく受けるのは先進国に住む私たちより、脆弱な環境に暮らす人々であることが往々にしてあります。
私たちの行動が何かを引き起こす「原因」であるならば、授業を通じて、遠くの世界にあることを少しでも「自分事」として捉え、ポジティブな「原因」となるように行動する意識をもたせることが大切です。
授業での指導について
道徳の指導法に悩む先生は多いかと思います。それは模範となる解答がないということも理由の一つではないでしょうか。決まった形の指導法もありません。そこで、SDGsに関しては「教える」という意識をいったん横に置き、先生方も一人の学習者として「共に学ぶ」という姿勢、学びをリードしていくファシリテーター的な役割を意識してほしいと思います。道徳は自己の内省を導く問いで溢れています。答えられないこともたくさんあります。だからこそ、「先生もわからないから一緒に考えてみよう」と、本音を語れるような場をつくることが大切です。SDGsを授業で扱うことが、その助けになればうれしく思います。