SDGs実践紹介③ 動物園のゾウを通して自然愛護を考える
(2022年9月29日更新)
SDGs実践紹介③
動物園のゾウを通して自然愛護を考える
~ゴール15「陸の豊かさも守ろう」をテーマにして~
北海道江別市立江別第二小学校教諭 宮浦匡典
学習指導要領にも盛り込まれているSDGs。SDGsの解説をはじめ、「取り入れたい!」と思えるような学校現場における実践などをご紹介します。
はじめに
本校校区では、小中連携や一貫教育による9年間を通したカリキュラムづくりを進めている。その中で、「地域・環境・人」をつなぐテーマとして、SDGsの視点を取り入れ、総合的な学習の時間と生活科において実践を行っている。これまで取り組んでいたテーマに、SDGsを関連させることで、子供たちの探究の深まりや、誰もが実践できる授業につなげていった。
さらに、小中連携とSDGsの視点で考えると、道徳科のもつ役割と可能性が大きいと考える。なぜなら、道徳科では今、子供たち一人ひとりがSDGsで扱う17のゴールを、他人事ではなく自分自身の課題として向き合い、考え、議論することが求められているからである。今回は、SDGs×道徳で、小中連携のカリキュラムづくりを進めていきたいという思いから授業を考案した。
授業実践「大切にしたい生き物のいのち」
(1)授業づくりの過程と目的
テーマは、汎用性のある道徳科授業づくりである。「いつでも・だれでも・どこでも」できる授業にしたいと考えた。本授業の汎用性としては、①1時間扱いの授業(自然愛護)、②身近な題材(社会科見学で訪れた動物園)を教材にしたことが挙げられる。①から、教育課程上、無理なく実践が可能であり、②から、全国各地にある動物園を題材に、今回取り上げたゾウ以外の動物を通して学ぶという授業展開も可能になると考えた。
また、SDGsを扱う授業の一つに「ロゴ学習」がある。しかし、低学年という発達の段階において、17のロゴの意味を理解したり、ロゴを通して理解を深めたりする授業は困難である。そこで、SDGsを掲げずに、その理念を学ぶ授業にすることを考えた。
(2)授業の展開
【ねらい】
アジアゾウのおかれた環境を知り、生きものを大切にしようとする心情を育てる。
【展開】
① 社会科見学で訪れた動物園を思い出させ、好きな生き物や動物との経験を想起させる。
②動物園に新しくやってきたアジアゾウと出会う。園長の話から、ゾウがはるばるミャンマーからやってきたことを知る。(Google Earthの活用)
③ゾウ使いの少年アウン君の語りを聞く。ミャンマーでは、彼らが生活を共にするゾウの数が減っていることを知る。
④ゾウを「動物園で大切に育てた方がよい」「ミャンマーに返した方がよい」二つの考えを提示し、意見を述べ合う。
⑤様々な立場から考え、自分の考えを深める。
(3)児童の感想と考えの変容
本実践は、2年生(2019年度)と1年生(2020年度)で行った。子供たちの授業の感想を以下に記す。
〈動物の立場で考えた子〉
・動物が暮らしやすいところで暮らせるようになったらいいなと思った。
・私たちはゾウが日本に来て良かったと思っているけど、ゾウは自分が生まれた国の方が暮らしやすいのかなと思った。
〈これからの行動を考えた子〉
・自分の家ではいろいろ動物を飼っているけど、面倒をあまりみていなかったので、これからは大切に育てたい。
・動物の暮らしについて調べてみたい。
〈考えの変容が見られた子〉
・○○さんの意見を聞いて、どちらの考えも大事だと思ったので、どう考えてよいか分からなくなった。
・どちらの意見も大切で、両方の意見がよく分かった。
(4)授業を行った教諭たちのインタビューから
本授業を2人の教諭に実践してもらった。その感想を以下に記す。
A教諭(教員7年目・女性)
低学年では、一度決めた意見は変わらないと思っていたが、「どちらの考えがよいですか。」の場面では、友達の発表を聞いて、意見が変わる子がいて驚いた。彼らなりに自分の考えを何とか伝えようとしていた。また、Google Earthを使って、ミャンマーからゾウがやってきた様子を見せると、「こんなに遠くから来たんだ」という気持ちが高まったようだった。一方で、授業ではゾウへの感情移入が大きく、今の自分の生活や授業の課題に返すところが難しかった。
B教諭(教員26年目・女性)
動物園のゾウという身近な題材で子供たちがイメージしやすかった。ディベート場面は、とても反応がよく、子供なりに理由付けをして発表していた。ゾウをテーマに、今まで考えたことがない命について考え、真理に突き進むところがよかった。揺さぶりの発問を行ったが、低学年でも分かる具体的な数値などの情報や知識があれば、もう少し根拠をもって話し合いができたのではないか。
おわりに
低学年という発達の段階を踏まえ、SDGsを掲げないため、その理解を助ける「活動」や「しかけ」を授業に組み込む必要があった。今回は、社会科見学で訪れた動物園、アジアゾウやゾウ使いのアウン君といった子供たちに身近な事柄から、主題やSDGsに迫った。身近な教材から共感的に理解していくことが、言葉の理解を超え、「主体的・対話的で深い学び」につながる一つの方法なのではないか。
江別第二小学校の実践のポイント
江別第二小学校の取り組みにおいて大切な視点を三つ紹介します。
一つ目は、冒頭で述べられていたように、小・中学校で一貫した学びを計画していることです。小学校では中学校、中学校では高校で活きる資質・能力を意識して学習をデザインしています。未来を見据え、何を学びの中心に置くか再考することで、目先の学力観だけではない視点から考えるきっかけとなります。今後どの地域においても、この視点は重視されることになると思います。
二つ目は、「自分事」として捉えるための仕掛けが多く用意されていることです。自分事として考えることは「集団や社会との関わり」「生命や自然、崇高なものとの関わり」といった、個々の意識や判断の軸となる心の部分を扱う上で基点となります。この実践では道徳と社会科見学を連動させた授業づくりを行っていますが、道徳で意識や心、判断力を扱い、他教科と連動した学びを考えることもできます。
三つ目は、SDGsを学ぶことを目的とせず、「変容」を主軸に置いた学びをデザインしていることです。文中にもありますが、低学年でもSDGsの理念を学ぶことは可能ですし、SDGsを学ぶ目的は児童生徒の意識や行動の「変容」にあります(参照:道徳ジャーナル106号)。SDGsは「平和で持続可能な社会」の実現に向けたゴールであり、SDGs学習は、ロゴの内容を覚えることよりも、どのように生きるのかという指針を養っていく過程にあります。
昨今SDGsが浸透してきているからこそ、SDGsを学ぶことが目的となる危険性も感じています。SDGsありきで学びをつくるよりも、社会で大切にしたいことは何か、誰もが公平に選択できるような社会とはどのようなものか、また、そうでない社会はあなたにとってどのような影響があるのか、社会や周囲で起きていることを自分に引きつけることが大切です。SDGsに関心のない人はいても、SDGsに関係のない人はいません。
道徳を通して生きる指針を養いながら、どのような社会にしたいかという視点を大切にし、様々な教科と日々の暮らし、未来をつなげた学びを創ってほしいと思っています。
一般社団法人グローバル教育推進プロジェクト(GiFT) 調査・研究統括 木村大輔