with Sports 萩原拓也さん(世界ゆるスポーツ協会 事務局長)
(2022年4月1日更新)
「スポーツと生きる人」から、スポーツの今とこれからを知る
萩原 拓也 さん
「ハンドソープボール」「イモムシラグビー」「くつしたまいれ」。ホームページに並ぶ謎の文字。実はこれ、世界ゆるスポーツ協会がオリジナルで作る、“ゆるスポーツ”の名称だ。「スポーツ弱者を、世界からなくす。」をコンセプトに活動する同協会事務局長の萩原拓也さんに、協会発足の背景や教育現場での取り組みなどについて聞いた。【取材・文/荒木美晴】
「ゆるスポーツ」は年齢や性別、運動能力や運動経験、障害の有無にかかわらず、誰もが楽しめるものとして、子どもたちやスポーツクリエイターらが自由な発想で考案。その数、実に120種類以上あるといい、いずれもクスッと笑えるネーミングが印象的だ。
「私たちは、この“笑い”というものを大事にしています。ルールが面白い、勝っても負けても楽しいというのが基本です」と萩原さんは説明する。
協会発足のきっかけは、「旧来型のスポーツのあり方に疑問を感じていた」という代表の澤田智洋氏と出会ったこと。スポーツのシステム開発や競技団体の広報に関わってきた萩原さんは、スポーツが嫌いな人にも興味を持ってもらうにはどうしたらよいかを考えるようになった。ただ、スポーツが嫌いになる理由も理解できる。運動が苦手、また学生時代に部活動で指導者から理不尽に怒られた経験から嫌いになったという人もいる。「スポーツって、得意な人ばかりがやるような環境になっている。それ自体は魅力的なコンテンツなのに、結果的にスポーツがやる人を選んでしまっているのがもったいない。それで“新しくスポーツを作れないかな?”と考えたわけです」
実は伏線があった。一時期ブームを巻き起こしたノルウェー発の「バブルサッカー(ビニールボールの中に人が入り、互いに押し付け合いながらするサッカー)」は、澤田氏と萩原さんが日本に導入し、初めてイベントを開いた。そのときの参加者はスポーツ未経験者が多く、面白そうだったから来たという人が大多数だった。「『スポーツしよう』より『楽しいことをしよう』と声をかけたら、いろいろな人が興味を持つんだとわかりました。それでその経験を生かして“ゆるスポーツ”を作ってみたんです」と振り返る。
1億2,000万人の国民全員が、何かのスポーツの世界チャンピオンだったら面白い。そんな想いを持って、小学校や中学校などで子どもたちへの授業も展開する。特徴的なのは、「ゆるスポーツを作る」というゴールへのアプローチの仕方だ。ネーミングはご当地の名産品や好きな食べ物などを書いた紙と、スポーツ名を書いた紙を用意し、ランダムに選んでくっつける。「シャチホコ+サッカー=シャチホコサッカー」というスポーツが誕生したら、そこからルールや反則を肉付けしていく。「一般的なロジカルシンキングの逆のアプローチだから、どれだけ話が飛躍しても最後は着地できる。だから自由な発想が出てくるし、結論に届くためにはどういう方法をとったらよいかを考える思考回路が身に付く。ここで意外な才能を発揮する子どもたちが多いと感じますね」と萩原さんは語る。
特殊な道具を使わなくても、やり方を変えるだけで、物事は面白く、またシンプルになる。スポーツに限らず、クラスの係の名前をおしゃれにしたり、〇〇レンジャーのように変えたり、注意するときも面白い言い方にするルールにすれば、やりたいという子どもたちが増えるかもしれない。「ゆるスポーツは、学校という小さな社会にある課題を解決するひとつの選択肢として提示しているだけ。そこから自由に広げてもらえれば」と萩原さん。
昨年はオンラインでスポーツを楽しむ「ARゆるスポーツ」を配信。「まゆげリフティング」など顔だけで対戦できる競技を多数そろえた。一時的であっても、ステイホームによるコミュニケーションロスやストレス、寝不足といった諸問題から解放された参加者がイキイキと楽しむ様子が画面越しに伝わってくる。「これを機に、ゆる学校やゆる村ができてもいい。みんなが笑っていける社会になるよう、ニーズや変化をキャッチしながら活動を続けていきたいです」と萩原さん。社会課題を楽しく解決―。その目標を見据え新たな仕掛けを打っていく。
PROFILE ● はぎわら たくや
1983年、千葉県生まれ。システム会社での教育システムのコンサルタント、スポーツ競技団体の広報業務を経て、2015年に世界ゆるスポーツ協会を設立。スポーツクリエイターとして、富山県氷見市の「ハンぎょボール」をはじめとする様々なゆるスポーツの開発に携わる。また、企業や学校でゆるスポーツづくりの授業を行い、物事の考え方やそれを生かした問題解決方法を伝えている。