with Sports 河谷彰子さん(管理栄養士)
(2019年2月26日更新)
「スポーツと生きる人」から、スポーツの今とこれからを知る
河谷 彰子 さん
スポーツを始めた子どもたち、部活動に励む学生、オリンピックを目指すアスリート……。そんな人々を食事面でサポートするのが栄養士だ。今回は、世代や競技を問わず、選手の身体づくりを支える管理栄養士の河谷彰子さんに、現場のエピソードを交えながら仕事の奥深さややりがいについて聞いた。【取材・文/荒木美晴】
学生時代は“健康”をテーマに勉強に励んだ河谷さん。そのため、現在もクリニックで中高齢者の栄養指導などにあたる。スポーツに関わるようになったのは、18年前に知り合いのコーチの依頼で選手の食事のサポートをしたのがきっかけだ。そこから仕事の幅が広がり、今ではサッカーのジュニアユースやJリーグチーム、大学のラグビー部、ラグビーセブンズアカデミー、企業のヨット部などで選手の栄養アドバイスを行う。
「勝つためにサポートする仕事」と言い切る。そのため、アプローチする対象は選手自身のみならず、保護者や家族に広がり、食育活動にも力を入れている。
管理栄養士の目から見て、一流の選手は食事を含めて自己管理ができているという。「あるコーチが、サッカー選手に、『日本代表を経験したことがある選手で、ロッカールームが汚い奴は見たことがない』と話していました。私の立場から言うと、『日本代表を経験したことがある選手で、朝食を食べていない人はいない』です。朝食を食べたからといって、日本代表になれるわけでも強くなれるわけでもないけれど、やるべきことをやってプレイに集中できる選手は、やはり結果を残しています」
そこに到達するには、正しい「食の知識」が必要だ。それも、幼稚園や小学校という早い年代での食育が望ましいという。「そこを基盤にして中学、高校と知識を積み重ねて、それ以降はスキルを高めることに注力してほしい。実は、大学生や国体選手でも、補助食と非常食の違いを知らない選手がまだ多くいます」と河谷さん。
成長過程の子どもがいる家庭では、保護者への食育指導も大切だ。「ある小学生チームのコーチから、ハーフタイム中に保護者がお菓子を与えるのをやめさせたい、と相談されたことがあります。私はどのように伝えればよいか考えた末、『子どもたちは将来、日本代表や世界で活躍する可能性がある。憧れのあの選手がハーフタイムにお菓子を食べているところを想像できますか? 皆さんはその将来の日本代表選手に、よくない習慣を伝えようとしているのですよ』と話したら、ハッとされていました」
一方で、中学生や高校生になると保護者よりも監督やコーチの影響が強くなる。河谷さんは、その指導方法が気になるという。「かつては、運動後にオレンジジュースを飲むと疲労回復になるとして積極的に勧めていましたが、実は今は違います。その情報更新がされないことや、『体重を増やせ、減らせ』といった結果のみを言う人が多いんです」と河谷さん。その結果、食にトラウマを抱えるジュニア選手も少なくないそうだ。
「結論だけではなく、方法を正しく伝えてあげることが大切。今はスポーツ栄養の情報があふれていますが、それを整理することも重要です。大人の食育も必要で、管理栄養士として子どもたちの食環境が将来の延長上になるものを築いてあげたいと、強く思います」
プロや実業団のチームをサポートする場合などは、他の専門職との連携がより重要になる。管理栄養士が選手のカウンセリングを行うときは、フィジカルコーチらとタッグを組むそうだ。コーチが指摘した不調について、河谷さんが“食事をキーワード”に選手の生活について聞き取っていくと、原因にたどり着くことも多いとか。選手やチームとの信頼関係は、こうして築かれていくのだ。
「食事が結果に直結するわけではないけれど、トレーニングと同じくらい大事な要素。彼らが遠回りせず輝けるよう、これからもサポートしていければ」と河谷さん。
今年は選手の海外遠征に帯同する機会が増える見込みでますます多忙の身となるが、変わらず選手やチームに寄り添い、ともにゴールを目指すつもりだ。
PROFILE ● かわたに あきこ
日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業、筑波大学大学院体育学コーチ学専攻卒業。さくら整形外科クリニック管理栄養士、慶應義塾大学非常勤講師を務める傍ら、フリーランスの管理栄養士として、(公財)日本ラグビーフットボール協会セブンズアカデミー、DO SOCCER SCHOOLの栄養アドバイザー、豊田自動織機49erFXチームサポートとして活躍中。