第9回 運動遊びのアイテム⑧ 用具を使った運動遊び
東京・山梨動きづくり研究会編
(2024.07.17 公開)
タオルを使った運動遊び
○魔法の国
大きめのタオルを1組に1枚用意する。
①2人1組になり、一人が魔女(魔王)役(A)、もう一人が冒険の勇者(B)になる。
プレイリーダーは「魔法の国で冒険しよう!」と冒険の場に誘う。
②プレイリーダーの「魔法の国の扉を開けよう!」の合図で、
Aがタオルの上端を持ってたらし、Bがパンチを繰り出してタオル(魔法の扉)を壊そうとする。
③プレイリーダーの「魔法の国への一本橋を渡ろう!」の合図で、
Aがタオルを伸ばして床に置き、Bがその上を落ちないように歩く。
④プレイリーダーの「竜のしっぽにつかまって!」の合図で、
Bがタオルの端を持ってうつ伏せになり、Aがそのタオルの反対の端を持ってBを引っ張るように移動する。
⑤プレイリーダーの「魔法のじゅうたんをゲット!」の合図で、
Aは頭の上で広げたタオルを持ち、(Bから離れるように)小走りしながらタオルを放す。Bはそれが床に落ち
る前にキャッチする。
⑥プレイリーダーの「魔法のじゅうたんを取られるな!」の合図で、
AとBでタオル綱引きをする。
⑦プレイリーダーの「魔法のじゅうたんに乗って脱出!」の合図で、
Bがタオルの上に足を広げて座って乗り、両手でタオルをつかむ。Aがタオルを引っ張って移動する。
《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
「どんな冒険ができそう?」
たった1本のタオルがさまざまな運動遊びの道具に変化します。創造性豊かに遊ぶことで、子どもたちの主体的な
態度を育みます。
《このアイテムのよさやねらい》
子どものアイデアを肯定的に受け入れ、実際にやってみることで、遊びの楽しさだけでなく表現の楽しさにつな
がっていきます。実践の場面では、タオルをくるくる回して「台風」、床でバタバタして「地震」、くねくねさせ
て「ヘビ」、ズボンに挟んでハイハイをして「ワニのしっぽつかみ」などが子どもたちから出てきました。さら
に、1枚の新聞紙を加えてみたら……など、遊びの世界は無限です。遊びの中に、素早い動きや力強い動き、バラ
ンスをとる動きなど、さまざまな動きを組み入れることができます。
○立てるかな?
①2人1組になり、一人が体育座りをし、もう一人が座っている人の体のどこかに畳んだタオルを置く。
②体育座りをしていた人はタオルを落とさないように立ち上がれたら成功。
《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
「見て! すごいことをやっているよ!」
1組のペアが考えたことを、プレイリーダーも一緒に驚いてその興奮とともに全体に共有しましょう。全体の共感
を得た、よい場の空気を生み出すことができます。
→こんな発展ができます。
○最初の姿勢を変える
仰向けに寝て、額の上にタオルを置くなど。
○タオルの枚数を増やす。形を変える。
体育座りの姿勢の場合、タオルを頭と前腕に置くなど。
タオルをたたむのではなく、結び目をつくると急に難易度が上がる。
★プラスワン★ 比較的簡単な動きから始めて、難易度(到達目標)は、子どもたちに決めさせることもできます。どこまで難しくするか、これ以上続けるかどうかも含めて、子どもたちで決めていくという方法です。プレイリーダーは安全を見守り、時に一つの発想を全体に広げながら、子どもたちに遊びを委ねてみましょう。
身近なものを使った運動遊び
○トイレットペーパーの芯を立てよう
①トイレットペーパーの芯を(側面がぶつかるように)床に投げて、跳ねて立つようにチャレンジする。
②2人1組でどちらが先に立てられるかを競う。
《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
「どちらが早く(先に)立てられるかな?」
勝敗はほぼ運任せの遊びなので、競争感を引き出して投げることそのものに夢中にさせる。
《このアイテムのよさやねらい》
軽く投げたり、思いきり投げたり、力加減を調整して投げたり、など、芯を立てるという目的に夢中になっている
うちに、投運動を高めることが期待できます。
★プラスワン★ この遊びが生まれたのは、とある保育園でのこと。トイレットペーパーがなくなったので芯を子どもに渡して「これでどんな遊びができる?」と聞いてみたところ、その子は芯を床に向けて投げ当てました。その芯は跳ね返り、立ちそうになったのです。「もしかしたら立つかもね!」と言ってみると、その子は夢中になって芯を繰り返し投げたのでした。芯が立った瞬間、二人で「やったー!」と跳びはねて喜びを分かち合いました。
○紙コップあそび
紙コップの口を下にしてゴルフボールをかぶせた「カップボール」を4個(1組あたり)用意。
①大きなテーブル(卓球台のようなものなど)の上に的を置き、50cmほど離れたところから「カップボール」を
的に向けて転がす。
②1人2投ずつ交互に行い、点数の多いほうや的に近いほうの勝ち。
《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
「力加減がいいね。方向もばっちり!」
うまくできなくても、力加減や方向などを褒めることで子どもたちのやる気がアップします。「手をグーンと押し
出す投げほうがいいね。」などと具体的に褒めたり、「どうやったらうまくいったの?」などと工夫を聞くことで
さらにやる気が高まります。
→こんな発展や変化ができます。
○紙コップのサイズや距離を変えたり、点数の付け方を変えたりする。
動き方や距離が変わったり、狙い方が変わることで、さまざまな工夫をしたり力加減をコントロールしたりする
ようになります。
○30cm離れたところに紙コップを置き、ゴルフボールを転がして入れる。
紙コップの底面とテーブルをテープで止めておくと、上手に入ったときに紙コップが立ち上がります。
○新聞紙の道を行け
①新聞紙を進行方向に置いて(枚数はみんなで決める)、その上を歩いて進む。
②自分より後方にある新聞紙を取って再び進行方向に置き、その上を歩いていく。
※新聞紙から落ちたらリスタート
③決められたゴールラインに先に着いた人の勝ち。
《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
「その置き方、天才!」
新聞紙の置き方や折り方を工夫することで、勝敗が分かれます。指導者は答えを教えず、子どもの思考を耕してい
きましょう。
《このアイテムのよさやねらい》
つかむ、持つ、歩く、乗るなどの動きは、「体つくり運動」につながります。
→こんな発展や変化ができます。
○仲間と協力してリレー。
2人1組で、一人が歩くのと進行方向に新聞紙を置くのを担い、もう1人が後方の新聞紙を取って(折るなどし
て)渡して行う。コミュニケーションと仲間と知恵を絞ることが必要になります。
★プラスワン★ 新聞紙のよさは、手に入れやすく、破れてもすぐに取り替えて何度でも楽しめるところです。また、折ったり広げたりと加工が容易で、子どもたちの工夫が生まれやすいのも特徴です。
フープを使った運動遊び
○フープDEバスケット
①1人1つフープを持ち、広がってフープを置いてその中に座る。
②「フルーツバスケット」の要領で、鬼に指定された色のフープに座っている人が違う人のフープに移動する。
③違うフープに座れないときは、次の鬼となり、色の指定をする。
④鬼が「フープDEバスケット」と言ったら、全員が違うフープに移動する。
《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
「えっ!? 瞬間移動!?」
空いているところを素早く見つけて移動できていることを褒めて、遊びを面白くしていきましょう。
→こんな発展ができます。
○移動の仕方を工夫
ケンケン、ハイハイ、スキップなど移動の仕方を変える。鬼が「ケンケンで青!」など指定するとよい。移動の仕
方を子どもに問いかけて、決めていくのもよい。
★プラスワン★ 鬼が色の指定をするとき、楽しい雰囲気のまま必要な情報が伝わるようにすることが大切です。鬼の「せえの」に続いて、みんなが「いろいろ何色、どんな色?」と合言葉を言ってから、鬼が色の指定をすると、みんなが集中して聞くことができます。
○フープDEドッジ
①人数に合わせた適度な広さのコートを用意する。
②2チームに分かれ、一方がコートの中に入る。
③もう一方がコートの外からフープを転がして、コートの中の人を狙う。
④コートの中の子は当たらないようによける。
⑤時間を決めておき、中と外を交代する。
《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
「個人戦じゃない、チーム戦だ!」
仲間と作戦を立てて、協力をすることに目が向くとよいですね。ほかにも子どもたちから「手で押さえてグイっと
狙う!」など、フープをまっすぐ転がすためのコツも引き出していきましょう。言語化することにもつながりま
す。
《このアイテムのよさやねらい》
用具を操作する動きにつながります。どのくらいの力でどこに転がすとよいのか考えて動くことで、用具をコント
ロールする感覚が磨かれます。
→こんな発展ができます。
○用具を変えてみる
フープではなく、大きなバランスボールを転がすなど。
○ボッチャン
①四角いコートの中央にフープを置く。
②フープの中に、やさしく紅白玉(玉入れの玉)を投げ入れる。
③赤・白(2人)で、交互に5玉ずつ投げ、最後にフープの中に多く球が残っているほうが勝ち。
《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
「相手の玉をはじき出していいよ!」
フープの中にうまく入れるだけでなく、相手の玉をはじき出してよいとすれば、どうしたら勝てるかを考えるよう
になります。
→こんな発展ができます。
○人数を増やす
一人が投げる玉の数は変えずに、複数人で1チームになって対戦する。はじき出されないように自分たちの玉をあ
えて固まるようにするなどの作戦が生まれてきます。プレイリーダーは、子どもたちが決めた作戦を聞き出した
り、それに基づいた投げ方のアドバイスをしたりするとよいでしょう。
★プラスワン★ このボッチャンは、パラリンピックでも行われる「ボッチャ」を基にした運動遊びです。小さな子や高齢者、身体に障害のある方とでも一緒に遊ぶことができます。そこにいる人で楽しめるように、みんなで考えてルールを工夫するのもとてもよいです。誰とでも同じように楽しく遊べるようになることは、共生社会の第一歩です。
Profile ●東京・山梨動きづくり研究会
山梨大学学長中村和彦教授を中心に、東京都と山梨県内の小学校教員が中心となって組織する研究会。
小学校の教員だけでなく、企業、保育士、幼稚園教諭、運動指導関係者などさまざまな方が参加している。
https://ugokizukuri.amebaownd.com