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子どもを運動好きにするために大人が大切にしたいこと

第11回 運動遊びのアイテム⑩ 用具を使った運動遊び その3

東京・山梨動きづくり研究会編

(2024.07.30 公開)

ボールを使った運動遊び①投げる・捕る

○ボールONボール
 ボール2個(1組あたり)を用意する。
 ①2人1組で向き合って約2メートル離れて立つ。
 ②一人(A)がボールを両手で持ち、もう一人(B)はAに向かって下手でふわっとボールを投げる。
 ③Aは両手で持っているボールの上に、投げられてきたボールを乗せる。
  うまく乗せられたら成功。

《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
 「音がしないようにキャッチね!」
 ボール同士が触れる瞬間に、柔らかく少し引くような感じでボールを乗せる感覚を伝える。

《このアイテムのよさやねらい》
 ボールを乗せるほうのポイントもありますが、相手がボールを乗せやすいようなボールを投げられるようになるこ
 とも、この運動遊びの効果です。そして子どもたちが柔らかい投げ方・捕り方ができるようになったら、次は手で
 ボールをキャッチさせてみてください。ボールを捕るコツがわかるはずです。

→こんな発展ができます。
 ○距離を長くする、ボールの種類を変える。
  少しずつ2人の間を広げて挑戦してみる。
  バスケットボールとソフトボールの組み合わせ(ペアで違うボールを持つ) など

★プラスワン★ プレイリーダーが見本を示すときは、自分が持っているボールより大きいボールを投げてもらったほうが成功の確率が上がります。失敗しても「難しいー。みんなはできるかな?」と言って、子どもたちの意欲を高められれば、大人の尊厳を損ねることもありません(笑)。


○恐竜のタマゴ
 ボール(一人1個)を用意する。
 ①一人1個ボールを持つ。ボールは「落とすと割れちゃう『タマゴ』」であることをプレイリーダーが伝える。
 ②ボールを上に投げ上げ、「絶対に落とさないように」キャッチする。

《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
 「絶対に落とさない!」
 楽しい雰囲気の中でも真剣に取り組むことで、その遊びの本質的な喜びを味わうことがあります。「絶対に落とさ
 ない」という制約の中で、ボールをキャッチするだけのことが、夢中でのめりこむ運動遊びに昇華していきます。

《このアイテムのよさやねらい》
 ボールを落とさないために、ボールをしっかり見続けることや柔らかく(やさしく)キャッチすることを押さえ
 て、動きを工夫していきましょう。※先に取り上げた「ボールONボール」の柔らかい捕り方のコツをつかむこと
 と組み合わせるとよいでしょう。

→こんな発展ができます。
 ○捕り方を工夫する
  手を叩いてからキャッチ、1回転してからキャッチ、ジャンプしてキャッチ、床に手を着いてからキャッチ 
  など。
 ○ペアで挑戦
  同様の動きを、一人が投げてもう一人がキャッチして行う。

★プラスワン★ 動きを工夫する中で、だんだん悪ふざけが始まってしまうようなことがあります。そうならないためにも、「絶対に落とさない」ための「もとになる動き」を丁寧に共有しましょう。


○腕の輪ゴール
 柔らかいボールを用意する。
 ①2人1組で向き合って約2~3メートル離れて立つ。
 ②一人(A)が両腕で胸の前に輪をつくり、もう一人(B)はAのつくった輪に向かって下手でふわっとボールを
  投げる。
 ③輪の中にボールを入れられたら成功。

《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
 「相手の顔に当てないようにね!」
 投げる力や方向の調整がポイントです。ゴールを狙いつつ、ぶつけないために子どもは細かな力の調整をするよう
 になります。

《このアイテムのよさやねらい》
 同じゴールを狙うにしても、ドッジボールとピンポン玉では投げる感じが違います。つまり、私たちは同じ動きで
 も、用具によって体の動かし方を調整するのです。この運動遊びでもさまざまな大きさのボールで行うことができ
 ますし、日頃からいろいろな用具で遊ぶことがとても大切な経験となります。

→こんな発展ができます。
 ○ゴールを高くしたり、小さくしたりする(空間認知を難しくする)
  ゴールの位置を顔の横の高さ、頭の上などに変える。ゴールの大きさも、両腕や両手でつくった輪などに変える
  ことで、ゴールまでの軌道が限られてくるようになります。ゴール役がゆっくり上下に動きながらゴールを狙わ
  せるのも、「空間認知力」を働かせ続けることにつながります。
 ○大きさの違うボールで挑戦してみる
  ピンポン玉、柔らかいゴムボールなどのほか、バドミントンのシャトル、紙飛行機などなど……、いろいろな種
  類の用具で挑戦してみましょう。


ボールを使った運動遊び②ボールを操作する

○くるっと回転! はいどうぞ!
 ボールを用意する。
 ①2人1組で向かい合って長座で座り、一人(A)がボールを足で挟む。
 ②Aはお尻を軸に、足にボールを挟んだまま1回転し、ボールを落とさないようにもう一人(B)の足に渡す。
 ③BもAと同様に1回転し、Aに渡す。
 ④制限時間(3分程度)に何回交換できるかを競う。

《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
 「落としたら爆発しちゃうぞ!」
 大切にボールを「挟む」、丁寧にボールを「渡す」という動きにつながり、遊びの質を保つことができます。

《このアイテムのよさやねらい》
 伸ばした足を下ろさないようにしながらボールを挟んで回転という、ふだんあまり経験しない動きで遊びます。こ
 の動きはかなり腹筋を使います。「ボールを落とさない」動きの中で、体の中にぎゅっと力を入れる感じを体験し
 ます。

→こんな発展ができます。
 ○持っていたら勝ち!
  プレイリーダーが「3分後、『ストップ!』のときに持っていたほうが勝ち」と伝えて実施。ぎりぎりまで渡さ
  ないようにゆっくり回るなど、遊びながら、体の中に力を入れる動きを進んで行うようになります。「持ってい
  たほうが負け」にしても面白い。
 ○くるっとリレー
  1チーム6人。1列になり、先頭がくるっと半周して2番目に渡す(先頭は最後尾に移動する)。どのチームが
  先に6番目まで移動できるか、制限時間内に何番目まで渡せるかなどを競う。


○うんとこしょ! どっこいしょ!
 ボール(ペアに1個)を用意する。
 ①2人1組で向かい合って長座で座る。
 ②お互いに両足を浮かせた状態でボールを挟む。
 ③プレイリーダーの「スタート」の合図でボールを足で引っ張り合い、ボールを取ったほうの勝ち。

《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
 「どうしたら勝てる?」
 浮かせた足で力強くボールを引く「コツ」を言葉にして、共有しましょう。

《このアイテムのよさやねらい》
 「引く」動きは全力で力をアウトプットすることが必要になります。引く動作は、綱引きなどで立って行うことが
 多いですが、座ったりしゃがんだりといったさまざまな姿勢や、手だけではなく足や体のさまざまな部位で、全力
 の力をアウトプットするという、普段経験しない「新しい経験」ができます。

→こんな発展ができます。
 
○いろいろな部位でボールを挟んでみる
 仰向けになり膝の間でボールを挟んで、もう1人が両手で引っ張って取ろうとするほか、挟む場所を足首、胸の前
 で両手で抱えるなど、さまざまに工夫してみることができます。

★プラスワン★ 子どもたちは、思いきり投げる、走ることは経験しています。しかし「引く」「押す」という経験は多くありません。全身に力を入れて「引く」「押す」遊びは、力試しにおいても大切な経験になります。


○地球一周
 ボール(ペアに1個)を用意する。
 ①2人1組で向かい合ってバンザイして立ち、お腹にボールを挟む。
 ②2人ともバンザイしたまま、一人は動かずに、もう一人は手を使わずに動かない人の周りをボールを落とさない
  ように回転しながら1周する。
 ③1周できたら成功。

《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
 「どこを使って回っているの?」
 子どもたちの多くはお腹だけで回ろうとしますが、お腹だけでなくわき腹や背中を上手に使うと回れます。体全体
 を使っている子どもにコツを紹介してもらいましょう。体の部位だけでなく、「ボールを押すように」といったコ
 ツが出てくる可能性もあります。

《このアイテムのよさやねらい》
 ボールというと手や足を使って遊ぶことが多いですが、お腹や背中など普段使わない部位を使うことで、新しい感
 覚を味わうことができます。利き手・利き足とは逆の手足やさまざまな体の部位でも挑戦してみましょう。また、
 うまく回るためには、ボールをお腹や背中で押す必要があり、体全体でボールの感触を得ることができます。

→こんな発展ができます。
 ○2人とも回ってみる。3~4人で回ってみる。
 2人1組のまま、2人とも回ってみましょう。また、3~4人でボール1個をお腹に挟み、全員でその場で1回転
 してみましょう。


ボールを使った運動遊び③ボールの動きを捉える

○止めて! 止めて!
 ボール(ペアで1個)を用意する。
 ①2人1組で5メートル離れ、一人(A)がボールを持って立つ。
 ②Aがもう一人(B)に向かって「止めて! 止めて!……足(体の一部)」と言いながら、ボールを優しく転が
  す。
 ※その他の例:
  ○お腹……はいつくばってお腹の下でボールを止める
  ○お尻……前向きや後ろ向きでしゃがんでボールを止める
  ○頭……座礼するような姿勢でボールを止める     など
 ③Bが指定された体の一部でボールを止められたら成功。

《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
 「足って、そこだけ?」
 例えば「足」といっても、足の裏、サイド、かかとなど、さまざまな場所が考えられます。ぜひ、子どもたちの創
 造性を引き出しましょう。

《このアイテムのよさやねらい》
 この運動遊びはボールを捕る動作につながります。ボールをうまく捕れない主な理由は①ボールの強弱に合わせて
 タイミングよく手の細かな筋肉を動かすことができない場合と、②距離感の変化に対応できない場合があります。
 この運動遊びは、特に②についての力を高めます。(空中を飛んでくるボールよりは優しい条件で)地面を転がっ
 てくるボールと自分との距離感の変化に、楽しみながら慣れていくことができます。

★プラスワン★ 「止めて! 止めて!」のかけ声は、かけっこでいうと「位置について、用意」にあたります。これから動くことへの構えを取らせ、反応をする力を高めることにつながっています。しっかりと「止めて! 止めて!」と伝えるようにしましょう。


○ボールくぐり
 ボール(ペアで1個)を用意する。
 ①2人1組になり、一人(A)がボールを持って立つ。
 ②Aが、両手で床にボールを叩きつける。
 ③もう一人(B)は、ボールがバウンドしている間、ボールの下をくぐる。
 ④バウンドがなくなるまでに何回くぐれるかを競う。

《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
 「どうすれば、たくさんくぐれるかな?」
 素早くくぐるだけでなく、なるべく高くボールをバウンドさせる必要もあります。強くボールを叩きつけるため
 に、全身を使うことを促します。

《このアイテムのよさやねらい》
 この運動遊びでは、遊んでいるうちに全身でボールを強く叩きつけるようになります。言葉で「全身を使って」と
 言ってもわかりにくいですが、高くバウンドをさせようとすることで、全身を使う実感を持つことができます。こ
 の動きは、投運動をはじめとする運動・スポーツにつながっていきます。

→こんな発展ができます。
 ○複数のボールをくぐる(くぐる側)
  4人組になり、3人がボールを叩きつけ、一人が3個のボールをくぐる。など
 ○叩きつける手を変える(投げる側)
  両手だけでなく、右手、左手でも叩きつける動きをしてみる。

★プラスワン★ 遊び方を、見本を示しながら伝えるときには、大きな動きで示すことが大切です。子どもたちはプレイリーダーの動きを真似して遊びます。子どもたちが真似しやすいような見本を示しましょう。


○バウンドキャッチ
 ボール(1チームに1個)を用意する。
 ①1チーム2人で、2対2で向き合って立つ。一方のチームがボールを持つ。
 ②チームの一人が「りんご」などと言ってボールを叩きつけてバウンドさせ、もう一人が文字数分バウンドしてか
  ら捕る。この場合3文字なので3ポイントゲット。
 ③チームを交代して同様に行う。
 ④数回行ってポイントの多いほうが勝ち。

《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
 「これは愛の力の勝負だぞ!」
 何回のバウンドだと仲間が捕れるかなどを考えて、文字数を決めたり、捕りやすいようにバウンドさせたりしま
 す。仲間を信じてたくさんバウンドさせてみたり、確実にポイントを取りにいったり、思い通りにボール(とボー
 ルの動き)を操作する感覚が磨かれていきます。また、仲間を思う気持ちが、励ましたり、力を合わせたりする言
 葉かけにつながっていきます。

→こんな発展ができます。
 ○人数を変える。使える言葉を制限する。
  4人対4人で行う。隊形はロの字型になる など
  使える言葉を「動物」「食べ物」などに絞って行う など

★プラスワン★ 「うまくできない」は、子どもの遊びへの意欲を低下させます。でも「あと少しでできそう!」は、意欲を向上させます。できた・できないではなく、「ナイスチャレンジ!」「惜しい!」といった言葉かけはとても重要です。


○ゴロゴロ ドカン!
 ボール2個を用意する。
 ①4~6人で1グループになる。
 ②円形になり、ボールを時計回りに回す。
 ③ボールを回している間、プレイリーダーが「ゴロゴロゴロゴロ……」と言い、「ドカン」と言ったときに誰が
  ボールを持っているかを楽しむ。
 ④はじめは1グループにボール1個で、慣れてきたらボール2個で行う。

《子どもを育てる!「魔法のかけ声」》
 「その渡し方、すてき!」
 夢中になってくると、ボールの渡し方が乱暴になってきてしまうことがあります。そんなときは、丁寧に渡してい
 る子どもを見つけて褒めてあげることで、全員の気持ちが落ち着きます。

→こんな発展ができます。
 ○お題を決めて
  自分のところにボールが来た後、「食べ物」「動物」などを言ってから渡すようにすると、さらにドキドキ・ワ
  クワク感が高まります。
 ○動作をつけて
  この運動遊びは、椅子に座ってもできるし、立った状態でもできます。ボールを体の周りを1周させてから渡
  す、その場でドリブルを2回してから渡す、など動作を加えることで、さらにボールの動きを捉えて行えるよう
  になります。



Profile ●東京・山梨動きづくり研究会
山梨大学学長中村和彦教授を中心に、東京都と山梨県内の小学校教員が中心となって組織する研究会。
小学校の教員だけでなく、企業、保育士、幼稚園教諭、運動指導関係者などさまざまな方が参加している。
https://ugokizukuri.amebaownd.com