情報モラル教育は、「心の教育×情報社会に関する知識」②
(2021年10月21日更新)
情報モラル教育は、
「心の教育×情報社会に関する知識」②
東北大学大学院情報科学研究科教授
堀田龍也
学習指導要領における情報モラル教育に関する記述
小学校の『学習指導要領解説 総則編』では、「学習の基盤となる資質・能力」に関して次のように記述されています。「各学校においては、児童の発達の段階を考慮し、言語能力、情報活用能力(情報モラルを含む。)、問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう、各教科等の特質を生かし、教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。」中学校、高等学校及び特別支援学校でも同様です。
また、『学習指導要領 解説 特別の教科 道徳編』における指導計画の作成と内容の取扱いの項目では、「児童(生徒)の発達の段階や特性等を考慮し、第2に示す内容との関連を踏まえつつ、情報モラルに関する指導を充実すること。」と示されています。
さらに、教材については、「情報化への対応等の現代的な課題など」の題材を「発達の段階に応じて取り上げる」場合には、「単に情報機器の操作や活用など、その注意点を扱うのではなく、活用するのは人間であるからこそ、例えば『節度、節制』や『規則の尊重』など関わりのある道徳的価値について考えを深めることが大切である。」と記述されています。
以上のことから、道徳科において情報モラルに関する指導を行う際には、道徳科の内容との関連を踏まえることに留意すべきとなっていて、情報モラルに関する学習指導はすべて道徳科で行うと規定されているわけではないことが確認できます。
では、SNSの特性のようなICTに関する知識等の理解はどうすればよいのでしょうか。
これらは道徳科の教育内容ではないとはいえ、実際には道徳的価値だけでは情報モラル教育としては不十分です。
『中学校学習指導要領 解説 特別の教科 道徳編』では、「情報モラルと道徳科の内容」として「例えば、思いやり、感謝や礼儀に関わる指導の際に、インターネット上の書き込みのすれ違いなどについて触れたり、遵法精神、公徳心に関わる指導の際に、インターネット上のルールや著作権など法やきまりに触れたりすることが考えられる。また、情報機器を使用する際には、使い方によっては相手を傷つけるなど、人間関係に負の影響を及ぼすこともあるため、指導上の配慮を行う必要がある」と示されています。小学校学習指導要領でも同様です。
児童生徒は日常的に情報機器に接し、それを介して他者とコミュニケーションしているので、対面、書き言葉、写真、動画などのコミュニケーション・ツールの特性を踏まえた適切な行動について考えさせる学習指導が望まれます。また、同解説では、「情報機器の使い方やインターネットの操作、危機回避の方法やその際の行動の具体的な練習を行うことにその主眼を置くのではない」と示されています。危機回避に必要な知識等についてはあくまでその後の道徳的な判断を促すための前提知識として提供するに過ぎないのです。
しかし、このことは、情報モラル教育を実施する際の大きな課題でもあります。例えば、昨今多く見られるSNSでの様々なトラブルは、相手を思いやる気持ちや、ルールを守るといった、道徳的価値に関係する内容が含まれる一方で、インターネットやSNSの仕組みに関する知識・理解がないと適切に判断できないという現実があります。
すなわち、道徳的な判断を児童生徒に求めても、その基盤として情報および情報技術、情報社会等に関する基本的な知識・理解が必要となるのです。
SNSでの様々なトラブルは道徳科における題材として扱うことができると考えられるものの、そのために必要となる情報および情報技術、情報社会等に関する基本的な知識・理解は道徳教育の目標そのものではないという矛盾にぶつかります。
情報モラル教育=心の教育×情報社会に関する知識
これらは、情報モラル教育が重視され始めて以来、ずっと横たわる課題です。しかし、情報技術そのものや、情報サービス、ツール等に大きな変化が生じていることから、学校レベルで児童生徒の活用実態を把握したり、他校や他地域で起こった事案等に関する最新の情報の入手に努める体制を準備したりする必要があります。情報モラルに関する事案の多くは、学習指導と生徒指導のいずれにも関わるものであると同時に、学校内と学校外にまたがるものであり、多くの人が関わる傾向にあるため、適切な指導体制の確立が必要となります。
このように、各教科等と道徳科とをどのように関係付けて情報モラル教育を行うのかという課題は、学校の教育活動全体を見越した適切な教育内容の配置の課題であり、それはすなわちカリキュラム・マネジメントの観点からの情報モラル教育の充実の問題なのです。
道徳科は情報モラル教育の要であるとしても、教育課程全体の中でどのように情報モラル教育を実施するのか、各学校の実状や課題、指導体制等を踏まえて検討することが肝要となります。
(ほりた たつや)