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教育ジャーナル Vol.13-6

特別座談会 社会に開かれた学び 第2回

情報活用能力×学校教育
前編 情報活用能力の育成を踏まえた学びとは

特別座談会 社会に開かれた学び 第2回

情報活用能力×学校教育
前編 情報活用能力の育成を踏まえた学びとは

 2019 年末に文部科学省が発表したGIGAスクール構想によって、全国の児童生徒に1人1台端末導入が推進されました。そして、同じタイミングに発生した新型コロナウイルス感染拡大を受けて整備実施が前倒しされ、21 年度末にはほとんどの学校で端末の導入が完了しています。各学校で端末を活用した授業が実践され、具体的な成果や課題がみられるようになりました。効果的な活用を目指すために、新しい情報が日々更新されています。そこで今回は、ICT教育活用について実践的な研究を重ねている和歌山大学教職大学院教授の豊田先生(リモート参加)と現場に立つ先生方をお迎えし、情報活用能力というテーマでお話しいただきました。

豊田充崇教授/リモート参加
(和歌山大学教職大学院)
松井直樹主幹教諭
(東京学芸大学附属大泉小学校)
田部久美子主任教諭
(東京都/千代田区立お茶の水小学校)

※所属、肩書は座談会開催時のものです。

コロナ禍が後押しとなったICT教育の推進と、見えてきた課題

豊田 2018年のPISA調査*で、ICTを活用した教育について日本がほぼ最下位という結果を踏まえ、GIGAスクール構想の推進が急務となりました。
 当初、1人1台端末の導入が計画どおり進むだろうかという懸念があったのですが、コロナ禍によるオンライン授業へのニーズが後押しとなって、予想を超えてオリジナリティーあふれる実践が生まれました。
 一方で、通常の授業と比較した学習効果の測定や、トラブルなどの弊害についての調査や対応なども併せて必要になっています。しかし、私個人としては、いつでもオンライン授業ができる体制をつくり、1人1台端末を使用して調べたり、発表したりする活用を取り入れて、情報活用能力の育成に目を向けてほしいと思っています。
 コロナ禍によってICT教育が急がれた面がありますが、世の中が少し落ち着いてきた今、1人1台端末の利点や、授業の場面でどういった効果が見込まれるのかという部分について、ようやく検証されるようになってきたと思います。お集まりいただいた先生方から授業での実践を伺いながら、ICT教育の在り方とともに情報活用能力の育成について考えてみたいと思います。

* PISA調査:Programme for International Student Assessment の略。OECD(経済協力開発機構)が進めている国際的な学習到達度に関する調査。

端末の特性を生かした効果的な学びへの活用

── では、先生方の実践についてお聞かせください。

松井 1人1台端末が段階的に導入される中で、子どもたちはタブレット端末にとても興味があり、家庭でも扱っていますから、我々の想定よりも操作に慣れているように感じます。一方で、学習効果の検証や情報活用能力の育成と、情報セキュリティーや情報モラルの教育を、同時に行っていかなくてはならないことが課題であると感じています。
 今、私が校内を歩いていると、本校で取り組んでいる探究科(総合的な学習)でタブレットを持っている子どもたちに廊下ですれ違うのが日常になっていますが、これからお伝えする実践は、GIGAスクール構想よりも少し前、まだ1人1台ではなかったときの保健学習の話になります。
 5年生を対象に行った「『けがの防止』~君にもできる、やってみよう! つなぐ命~」という授業です。情報活用能力の育成を踏まえて、より効果的な保健の授業のために、どのような場面で端末を使用したらよいのかという検討を含みながら行った単元(全5時間)の実践です。
 私はこの単元で、けが(身の回りの危険)につながるリスクの原因を見つけ、回避の方法や軽減、解決のための具体的方法(手当て)を考えることで、主体的でより深い学びを誘発できると考えました。といいますのも、従来の保健の授業は知識詰め込み型の傾向があり、知識を活用して判断したり行動したりする「生きた学び」に転移できていないのではないかと考えていたからです。そこで課題解決のために収集した情報を有効に活用して、思考を働かせる場面に端末を導入しました。

●東京学芸大学附属大泉小学校5年きく組の単元の指導計画(全5時間)

 例えば、2時間目の『めざせ!けが0調査隊』では、学校生活におけるけがのリスクに関する情報を収集する活動でiPadを活用しました。子どもたちがiPadを使って撮影した映像を、授業で共有しながら学級全体やグループで話し合い、けがを生じさせる原因や回避の在り方の問題解決に役立てました。動画撮影を通して、よりよい生活行動について自分やグループの考えを他クラスも含めて発表することにも取り組みました。
 5時間目『君にもできる~つなぐ命2~では、けがの手当ての学びの発展として、心肺蘇生について扱いました。胸骨圧迫では簡易トレーニングキットを使用して、正しい胸骨圧迫の行い方を養護教諭が実演し、児童がペアになってiPadで互いに胸骨圧迫の動画を撮影し、姿勢や強度、リズムなどをチェックしながら繰り返し実習を行いました。
 さらに、正しい胸骨圧迫を学ぶために、動きの変化がわかるアプリを使って、実際の動作を2画面で比較しながらポイントを確認し、身につけた感覚を共有しました。これらの実践では、従来よりも子どもたち一人ひとりが主体的に参加している様子を見ることができ、健やかな生活を送るための生きた学びにつながったように感じています。

田部 私は現在、1年生の担任をしています。タブレット端末が1人1台の環境になったことで、5月に渡したタブレットは、タブレットケースに収めて子どもたちの机の横にかけられていて、いつでも使える状態になっています。毎日、いろいろな教科で使用していますが、やはり幼児期からスマホやタブレットに慣れている子どもが増えているように感じます。1年生でも、使えそうな機能を見つけては恐れずに積極的に操作していますし、機能を覚えるのも早いです。
 操作スキルという点で能力の高さに驚かされる一方、就学前は大人の管理下で機器を使用することが大半でしょうから、子どもたちは動画視聴やゲームなどが中心で、コミュニケーションを目的とした使い方はあまり経験していないように思います。他者とのかかわりの中で端末を使うということは、就学後に初めて経験することになるので、情報モラルの指導を充実させることはとても重要だと思います。
 情報モラルは、人としてあるべき心や判断力や態度を養っていくものなので、道徳科の担う役割は大きいと思います。こうした課題の実践例として、道徳での授業についてお話しします。『新・みんなのどうとく1』(学研)の教科書に載っている『さるきちの いたずら』という教材を使いました。

●「さるきちの いたずら」より
 さるきちが書きかえたおしらせばん

 この教材は、わくわく小学校のおしらせばんに学校探検で探してほしい物が書かれていた文字を、さるきちが書きかえてしまうお話です。さるきちは、ちょっとしたいたずらのつもりでしたが、クラスの友達は書きかえたおしらせを読んで探検に出発してしまう、というところで話が終わります。この授業で子どもたちは、おもしろそうだからといって、ほかの人が書いたものを書きかえてはいけない、おしらせばんは「みんなのもの」なので、勝手に書きかえると困る人がいる、これはマナーであり大切なきまりである、ということに気づきました。
 情報モラルは端末を使用しない場面でも指導できます。「悪口を言わない」「人の作品を大切にする」などの、人として、社会の一員として大切なことは道徳科だけでなく、あらゆる場面で育んでいきたいです。

豊田 松井先生の1人1台端末ではない頃のお話を伺って、以前、私が小学生に指導した際に、タブレットで最も活用したのはカメラ機能だったことを思い出しました。観察記録や自分たちの朗読、発表の仕方を見直す際に、記録を残す作業は情報活用の基本の一つです。今は、保存した記録を管理し、クラウドで共有して、相手に伝えたり、プレゼンテーションの資料として取り入れたり、活用方法が発展しています。
 まずは、自分のための記録に使うところからスタートしますが、やがて、他者と共有するための情報にするという意識をもつと、撮り方や保存方法、編集スキルなどについて子どもたちは関心をもつようになるので、こうした視点をもった指導が求められてくると思います。

松井 そうですね。本校のネット環境は、当時よりも整っているので、この授業をさらに展開させることができそうです。
 例えば、校内で使用しているPadletという掲示板機能のあるツールを使用して、事前に子どもたちに見てほしい教材のアドレスを共有したいです。
 当時は、ティームティーチングとして私たち教員が事前に用意した映像を授業中に見る取組でしたが、事前に子どもたちが確認して自分なりの考えをまとめた上で授業に臨むことができたら、さらに効果があるのではないかと思います。
 また、情報活用能力として映像撮影のスキルが挙げられると思いますが、初めに端末ありきではなく、端末がなくてもできるかもしれないということも常に選択肢にあります。私は体育の教科担任をしていたこともあり、これまでも運動領域の指導の際にアプリを使って動きを比較する映像撮影をして、ほかのクラスで相互に確認しながら学びを広げることを行っていました。子どもたちが運動領域で身につけた力を発揮するために端末を活用したことが、私にとってはICT教育の入り口だったような気がします。

豊田 効果的な授業のために、すでに情報活用能力の育成がされているようですね。
 さて、GIGAスクールの実施によって1年生から6年生まで一気にタブレットが導入されました。先ほど田部先生が子どもたちの机の横にタブレットケースがかけてあるという話をされましたが、学校だけでなく家庭でのデジタルツールの普及が大きく関係しているようで、年齢別によるなじみの度合いによって、操作スキルやモラルの確立の逆転現象が見られるようです。
 系統性という点でこうしたちぐはぐな面が見られるため、GIGAスクール3年目に向けて、各校での交通整理や活用の指針がある程度統一できると、情報活用能力の育成もよりスムーズになるのかもしれません。
 田部先生の学校では子どもたちがタブレットを常時使用できる環境になっているというお話を聞いて、すでにタブレット端末の文具化がなされているように感じました。同時に、例えばカッターなどのように、文具も使い方によっては誰かを傷つける凶器になることもあるわけです。文具の正しい使い方を身につけるように情報端末の使用においても情報モラルを身につけることが、いかに重要かおわかりいただけると思います。小学校1年生の視点に立って、情報モラルの指導をされているのはすばらしいことです。扱い方によっては他人にダメージを与えたり、デマ情報の拡散につながるということを、学年が上がるごとに理解する必要がありますし、その前段階として、ご紹介していただいた教材はとても適していると思います。

主体的な学びやコミュニケーションツールとしての有用性

 ── では、1人1台端末によるICT教育の実践における授業の変化について、メリットを中心にお伺いします。 

松井 けが防止の授業の2時間目で、子どもが自分で撮影した映像を話し合いの場面で使用することで、子どもたちがイメージしやすく、グループや学級でより活発な意見交換がされました。特に、映像をもとに隠れた危険についての共通点(身の回りの環境)から、環境改善への提言などについても映像を見ながら話し合うことができました。撮影した映像を使用してミニ番組のようなレポートを作成した子どももいて、グループ単位で思い思いの表現ができたことはICT活用によるところが大きいと考えています。
 また、先にお話しした運動領域で動きを比較する映像撮影をしていたこともあり、アプリの使用もスムーズに行われ、技能について「実際の運動場面でもできそう」だと手応えを感じた学習感想が多くありました。
 さらに、子どもたちからは、実際の緊迫した場面で落ち着いて行動する、自信をもって取り組む、さらには、大人の手伝いをしたいという感想も聞かれました。
 以前であれば、子どもたちは学習カードを持って校内を歩き、感想や簡単なイラストを記入することをかぎられた時間内で行いましたが、今回ご紹介した実践では、より具体的なイメージを用いた発表や意見交換に時間を費やすことができました。また、子どもたちが自分の視点や考えをもとに撮影した映像を使ったので、自信をもって発表している場面が多く見られたところに、従来の授業との違いを感じました。
 一方、教える側にとっては、子どもたちが集めた情報(映像)を使って積極的にブレインストーミングが行われたことや、技能を身につけようとする場面が多く見られたことは大きな成果だったと思います。授業後の学習感想やまとめなどを読むと、互いの意見を活発に交えることで、子どもたちが自分の思考をさらに耕すことができたようで、一人ひとりの学びを深く見取ることができました。
 教科書を併用しながら、学びの展開を広げることができたことは、単なる知識の習得ではなく、自らの健康生活に活用できる取組となりました。子どもはけがの防止について、主体的で多角的に捉えることができ、体験に終わらない意味のある学びとしての有用性を感じました。

田部 1人1台と聞いて、私が最初にイメージした活動は調べ学習でした。情報収集の際に、1人に1台の端末があればとても便利であろうという想像はしていました。しかし、実際に活用してみると、松井先生の実践にもあったように、コミュニケーションツールとしての有用性を強く実感できました。
 プレゼンテーションソフトを使用して、発表という形で成果物を共有するだけでなく、日常の授業では、自分の考えを発信したり、チャット形式で交流したり、アプリ上の1枚の紙に複数の子どもで書き込みをして、友達の考えを知るなどの交流場面で使用することが多いです。自分の考えを形成する過程で、つぶやいたり、ヒントにしたり、共感したりするのに、タブレットはとても役に立っています。
 このような、コミュニケーションツールとしての使い方が、1人1台環境になったことで可能になりました。
 指導側としても、板書の代わりに写真や資料のデータをクラウドにあげたり、動画などの課題を事前に配信して反転授業をしたりすることができるなど、従来できなかったことが可能になりました。「慣れ」さえ克服できれば、メリットはたくさんあると思います。

豊田 先生方のお話から、やはり写真や映像の効果が実践の成果に大きくつながったことがわかりました。田部先生にお聞きしたいのですが、小学校1年生のコミュニケーションツールとしての使い方で、まだ、文字の学習を始めたばかりという時期に、タブレットへの入力ができるというのは、どのような工夫をされているのでしょうか。

田部 文字を直接、タッチペンや指で書き込み、それを一覧として見ることができるアプリが入っています。さらに、手書き入力したものがどんどん活字に置きかわるアプリもあります。
 チャット形式での交流は、他学年でよく行われている活動の一つとして先ほど話をさせていただきました。文字入力については、ローマ字の指導は3年生からなのですが、1年生の段階でもローマ字表をラミネート加工したものを1人に1枚配布して、タブレットケースの中に常備しています。ネット上のタイピング練習のアプリを使いながら、1年生からタイピングに取り組んでいます。

豊田 それはすごいですね。つまり、1年生だからといって鉛筆を持って紙に書かなければいけないと決めつけていない。タブレットならば思いきって書けますし、間違えたらすぐに消せるという利点を生かしているのですね。紙であればゆがむこともあるかもしれませんが、補正のアプリを使ってどんどん活字化をサポートしてもらう使い方をして、コミュニケーションツールとして積極的に活用されていることに驚きです。既成概念にとらわれていてはいけませんね。

田部 タブレットからノートへ移行した実践もあります。促音の「っ」をノートに書くときは、4つに区切られたマスの右上の位置に書かなくてはなりません。国語の『ちいさな「っ」のつく言葉をたくさん集めよう』という学習では、ノートへの書き方を学ぶ前に、促音「っ」がつく言葉をタブレット上にたくさん書いて友達と共有しました。
 その後に「集めた言葉をノートに書こう」という活動に移りました。そうすることで「集めたい」という意欲を損なうことなく言葉集めができ、主体的な学びにつながったと考えます。

情報収集ツールから教科横断的活用への可能性

豊田 新しい時代の子どもたちの学びとして有意義な取組ですね。
 さて、松井先生のお話では映像のもつ効果を端的に語っていただきました。映像をそのま伝えることで、学びの共有がしやすくなり具体性も増すので、自分のこれからの行動がイメージしやすくなると思います。さらに、他人の意見を採用しやすくなる、映像を比較することによって確かなスキルを身につけられるなど、単に動画データということではなく、さまざまな利点に気づきました。
 松井先生の実践に似たことを、和歌山大学附属小学校でも行っています。まず、保健室の先生が持っている『どこでどんなけがが起きやすいか』というデータを子どもたちが入手して、いつどこで何年生がどんなけがをしたかというデータをもとに、危険な場所を回ってチェックする活動をしました。撮影に当たって、データを根拠や動機として用いることも、高学年ならできるように思います。これは、算数の統計の学習に関連しているので教科横断的な実践につながるように思います。

松井 本校にもけがの報告記録はあると思います。それらをデータとして用いたグラフを作成し、校内地図にマーキングする活動が展開できそうです。豊田先生がおっしゃる「撮影の動機」は重要なキーワードだと思います。

豊田 こうした取組は、すべて一度に取り組もうとすると難しいと思います。統計を用いる際にも、データについての理解や活用のスキルも、段階を踏んでいかなければならないので、これらを何十時間にも及ぶ単元にするとなると、それはなかなかできません。ですから、系統性がとても大事ですし、カリキュラム・マネジメントの重要性が見えてきます。

通常授業の中にも情報モラルについて考える機会がある

 ── 先ほどから情報モラルについてさまざまなお話がありましたが、従来の「禁止」を主とした指導から抜け出し、情報化やグローバル化に対応した社会の担い手を育むためのポジティブな学びへとシフトするために、情報モラルはどのような取組を目指したらよいのでしょう。

豊田 先ほど田部先生が紹介してくださった道徳科の実践のように、子どもの発達段階と学校の方針を踏まえたカリキュラム作成や、系統的な指導は必要だと思います。
 一方で、授業の中で生きた情報モラルは必要です。例えば、下段の板書の写真を見てください。子どもたちが学校のお気に入りの場所を決めて、キャッチコピーをつけたポストカードを作成するというシンプルな活動です。

●子どもたちがお気に入りの場所を決め、キャッチコピーをつけたポストカードを作成

場所を撮影する際に、車のナンバーや個人が特定されてしまうような物は写らないほうがいいと考えたり、校舎の背景に個人宅の洗濯物が写っていることに「これは撮ってはだめなのでは?」という発言があったり、単純な実践ですが情報モラルについて深く考える機会がありました。
 また、先ほどチャットについての話が出ていましたが、英文スピーチを録音したものを教育SNSにアップしたものを子どもたちと共有して、互いに評価し合う活動をしました。多くはよい評価をしているのですが、中には「こういう書き込みはどうか?」という発言があるわけです。
 これらは英語科としては邪魔な発言なのですが、情報モラルの指導場面としたら生きた教材になります。書き込みをした人物の気持ちを考えたり、「いいね」の羅列は評価としてはどういう意味なのかと話し合ったりして、有用な教材として活用できました。
 系統的指導は学年単位だけでも大変なのに、こうした実践はハードルが高いといわれてしまうかもしれません、しかし、授業をカリキュラムとしてしっかり指導していくものと、「子どもたちの情報活用についての指導になるもの」とが両輪となって実践されることが望ましいと私は考えています。
 もう一つ、研究推進校での実践をご紹介します。中学年以降の年度初めに、学年に応じた情報モラルを総合的な学習のカリキュラムとしてカチッと固めています。
 例えば、3年生であれば著作権、4年生では写真を撮る機会が増えるために肖像権などと、その学年で扱うであろう情報活用の授業を想定した内容をカリキュラムとして採用しています。
 このような場面が皆さんの学校の中にもあるでしょうか。また、情報モラルをちゃんと押さえた学級づくりについて、皆さんのご意見を伺いたいと思います。

松井 豊田先生がご紹介くださった学校のような、きっちりとしたカリキュラムではないのですが、本校ではGIGAスクール実施前から情報モラルについての年間計画があり、それに沿って実践が行われています。豊田先生のお話を伺って、授業の中から見えてくる情報モラルの指導はとても大事だと改めて思いました。同時に、本校では1人1台が段階的に整備されてきたので、学校の中でSNSルールを作成しています。
 作成に当たっては、先行した高学年の子どもたちが、自分たちの経験を通して感じたよさと注意点について、下の学年に対して教えています。教員と子どもたちが一緒に学校の中でのルールをつくっていく取組を行っているところです。
 田部先生の1年生の実践にはとても感心させられたのですが、本校でもちょうど学校探検をしていて、子どもたちがうれしそうにタブレットを使っています。職員室は知りたいことでいっぱいですから、連写する子どもも見られますが、撮ってもよいのかどうか「まずは相手に聞きましょう」というところから指導が始まっていきます。
 1年生は実践の中で、情報モラルについて「これってどうなんだろう」というようなことを考えながら教える場面がありましたし、こうした場面での指導が大事です。生きた場面をたくさんつくることができる教材づくりをしたいと思いました。

田部 豊田先生がお話された、教科指導の中に、生きた教材としての情報モラルがあることは、1人1台になったことで指導しやすくなりましたし、指導場面が増えたことはとてもよいことだと思います。これまでの情報モラルは、スマホや携帯とかインターネットの安全な使い方を学ぶといった内容が多く、それらは家庭で使用することが多いので、どうしても家庭との連携が必要になります。
 しかし、1人1台の環境になったことで、ICT活用の際のモラルやマナー指導が、学校内で可能になったため、情報モラルについてきちんと指導していくことがより必要になったと思います。学校で使用するタブレットは、子どもが教師の目の前で使うので、直接、モラルの指導ができます。そして、校内のネットワークから世界中に広がるインターネットの世界へと段階的に使用させることで、情報モラルの指導も1年生から段階的に行うことができると思います。
 同時に、適切に扱うことで端末を使って友達とより深くつながったり、世界中の人たちとつながったりすることができる利点や楽しさも体感できます。そのため、適切なコミュニケーションが不可欠であることを、教員も子どもたちも理解しておきたいと思います。

豊田 本来の教科指導とは直接関係ないことだと、単なる叱責や注意で終わってしまうことは実際にはあるでしょうし、指導側はできるだけ早く授業に入りたいという思いもあるので、いったん立ち止まって情報モラルについて考える機会をつくるのは、難しいのも事実です。しかし、生きた授業の実践を考えたとき、計画の中ではなく子どもたちの意見の中から出てくる学びも、積極的に取り入れてほしいです。
 つまり、ここで指導者側の意識が重要になります。計画された指導と併せて「ここはよい指導場面だ」と捉えた展開をするのは、先ほどお話しした両輪となった実践として望ましいことだと思いますので、参考にしていただけたらうれしいです。

※(後編)に続く

進行・文/岡本侑子